私たちが普段何気なく使い、聞いている声には、実は絶大な力が秘められている。それは人の心を動かし、揺さぶり、自分自身の心身さえ変えていく力を持っている――声という神秘的で謎に満ちた｢音｣の正体を、多彩な知見と豊富な事例からひもといている｡

本文では、｢声｣は人の本能的な感情を揺り動かし、話し手のほぼ全ての情報を含んでいるといったことを、聴覚の仕組みを明らかにしながら説明している。文章は平易で、内容は分かりやすい。｢説明記述｣だけではなく、｢抜き出し｣｢語句記述｣｢空所補充｣等、本校としては珍しく多彩な小問が並んでいる。以下、いくつかの｢設問｣を検証してみたい。

[問一]　｢内容説明の抜き出し｣(｢一文｣の｢最初の５字｣指定)。

傍線部①｢話の内容｣について､｢『話の内容』はどういう過程を経て理解されるのか｣を説明している｢一文｣の｢最初の五字｣を抜き出して答える。

｢抜き出し設問｣では､｢抜き出すべき内容｣を正確に捉えた上で､｢抜き出し範囲｣を絞り込んでいく。
先ずは｢内容｣を確定したい。問題文から、｢『話の内容』が理解される過程｣だと分かるはずだ。次に、｢範囲｣は｢同一意味段落｣だ(｢論説文｣｢説明文｣では｢同一意味段落に手がかり･ヒント｣がある)。ここでの｢同一意味段落｣は傍線部の段落からの８段落だと判断できる。｢抜き出すべき内容｣を意識しながら、丁寧に探していく。
すると、｢人の話を聞くときには、まず話されている内容を理解しようとしますよね｣で始まっている段落(７段落目)に気づく｡｢話されている内容を理解しよう｣⇒｢『話の内容』が理解される｣と結びつく。
さらに確認していくと、次文に｢声は耳から大脳の聴覚野を通って、言葉を理解する言語野という部分に送られ、言葉の内容を受け取ります｡｣とある｡まさに、｢『話の内容』が理解される過程｣そのものだ。念のために他の部分を探しても、これ以上に適切な｢一文｣はない。
したがって、｢答え｣は｢声は耳から｣となる｡

｢抜き出し設問｣ではいかに｢範囲｣を絞り込めるかがポイントだ。また、｢抜き出し候補｣はひとつとは限らないので、必ず｢範囲全て｣を隈なく探すこと。

＜時間配分目安：２分＞

[問二]　｢理由説明記述｣(｢50字以内｣指定)。

傍線部②｢私たちの心は、時として語られた言葉よりも、声によって動かされているのです｣について、｢なぜ声は人の心を動かすのか｣を説明する。

実は傍線部直後に｢なぜ声が、そのように人の心を動かすのでしょうか｡その秘密は『聴覚と脳』にあります｣と、｢答え｣である｢理由｣が端的に述べられているのだ。何じゃこりゃ､易しいじゃん。その後をまとめればいいだけじゃん。と考えて確認しても、そうはいかない。一向に｢『聴覚と脳』の秘密｣が説明されていないのだ。流石(さすが)本校、そう甘くはない。｢同一意味段落｣を丁寧に読み解いていく必要があるのだ。
｢段落冒頭｣に着目しながらチェックしていく。すると７段落目が｢ここに声の影響力の秘密があります｣と始まっている。ようやくたどり着いた。｢ここ｣＝｢『聴覚と脳』の秘密｣になる。｢指示語｣を開いてまとめていきたいが、｢段落冒頭の指示語｣なので｢前段落全ての内容を指し示している｣ことに注意すること。
たとえば、｢声という音は､脳の顕在意識にも潜在意識にも同時に作用し､無意識のうちに本能的な感情を起こさせるから｡｣(50字)といった｢答え｣だ｡

｢説明記述｣では必ず｢最重要要素｣を｢文末｣にすること(｢理由説明｣では｢直接的理由｣となる)｡
尚、｢指示語｣は直接的に問われていない場合でも、すぐに開くことが肝要。

＜時間配分目安：２分半＞

[問三]　 ｢空所補充の語句記述｣(｢漢字３字｣指定)。

本文中の空所　(ア)　に｢入る言葉｣を｢漢字三字｣で答える。

｢傍線部(空所部)一文一部の原則｣(｢傍線部(空所部)｣が｢一文の一部分｣の場合、｢傍線部以外｣が重要な｢手がかり｣｢ヒント｣)で､空所前後を確認する。｢聴覚は、視覚に比べるとはるかに　(ア)　的な器官なのです｣となっている。つまり、空所部は｢視覚と比べての聴覚の特徴｣を表す｢言葉｣だと分かるはずだ。
では、どのような｢特徴｣なのか？　空所部の段落で説明されていることがすぐに判明する。
確認する。すると｢視覚は自覚的な感覚器官だが、耳は閉じることができず、脳が自覚した音の正確な再現や確認はできない｣と読み取れる。要するに、｢視覚は自覚的な器官｣だが、｢聴覚｣は｢自覚的ではない｣ということだ。
｢自覚的ではない｣を｢漢字三字｣で表現するのだから、｢答え｣は｢無自覚｣となる。

本校対策ではあまり練習していないような問題だろうが､｢解法｣に則して考えていけば解けるわけだ。ただし、｢無自覚｣という｢言葉｣を知らなくてはどうにもならない。当然ながら、｢語彙力｣を高めておくことは必須だ。

＜時間配分目安：１分＞

[問五]　 ｢語句の意味の選択肢｣(全２問/各４択)。

｢総合的知識問題｣｡傍線部(ａ)｢絶世｣と(ｂ)｢機知｣の｢意味｣をそれぞれ答える。

さあ、どうか？　(ｂ)はともかく、(ａ)はなじみが薄いかも知れない。これらの｢言葉｣が｢知識｣として定着してさえいれば何の問題もないのだが……。｢答え｣を確認する。
(ａ)の｢絶世｣＝｢世に並ぶものがないほどすぐれている｣ことなので、｢答え｣は選択肢(エ)の｢この上ない｣⇒(ア)に｢世の中にない｣とあるが、ここは無論｢比喩｣なので惑わされないことが重要だ。
(ｂ)の｢機知｣＝｢その場に応じてとっさに働く鋭い知恵｣､したがって、｢答え｣は(イ)｢とっさにうまく対応する才能｣になる｡

尚、未定着の｢言葉｣であっても、文中の前後の｢文脈｣から類推可能な場合があるので、すぐに諦めずにチャレンジすること。いずれにしても、本校が求める｢語彙力｣は高度なものだと認識せよ。

＜時間配分目安：全問で１分半＞

中２の時にマレーシアからの帰国子女になった｢沙弥｣(さや)は、日本の学校に順応しようと四苦八苦。ある日、延滞本の督促をしてまわる３年生の｢督促女王｣こと｢佐藤先輩｣に呼び出され､｢今からギンコウについてきて｣と言われ、まさか銀行強盗？ と驚くが､それは短歌の｢吟行｣のことだった――。

マレーシア語のリズムがまるでオノマトペのような響きで面白い、軽妙なタッチで描かれた学園物語。ちなみに、本作品は本校以外の多数の学校で出題されている｢2019年度中学入試最多出題作品｣だ。本文では、｢佐藤先輩｣に誘われて短歌に興味をもった｢わたし｣(沙弥)が､歌会のことや先輩の仲間である｢望さん｣の短歌のことなどを聞いている様子が描かれている。
内容は難なく理解できるはずだが、｢心情｣の機微や｢短歌の歌意の読み取り｣で難渋するかも知れない。全ての小問が｢説明記述｣という、いかにも本校らしい大問だ。以下、２問だけ確認してみたい。

[問三]　｢心情説明記述｣(｢字数指定｣なし｡｢60字ほど｣の解答欄)。

傍線部③｢きゅっと表情を引き締めた｣について、このとき｢『佐藤先輩』はどのような気持ちだったか｣を説明する。

先ずは､傍線部の｢原意｣から｢最重要要素｣としての｢心情｣を特定したい(｢原意絶対優位の原則｣＝｢設問｣｢傍線部｣等の｢原意｣、要は｢本来の意味｣を最優先に考えること)｡
｢きゅっと表情を引き締めた｣という表現の｢原意｣を考えれば、その｢心情｣は｢決意｣だと分かるはずだ。では、それは｢佐藤先輩｣のどのような｢決意｣だったのか？　直前直後から読み解いていく(｢小説｣では｢同一場面の直前直後｣に｢手がかり･ヒント｣がある)。

傍線部は｢だって親を見返したいんだもん｣という｢佐藤先輩｣の言葉についての｢ト書き｣(ある｢セリフ｣についての直接的な説明)になっている。つまり、｢親を見返したい｣という｢決意｣だ。
次に、なぜ｢見返したい｣のか？　どのように｢見返す｣のか？　そういった｢状況｣を｢同一場面｣で確認していく。直後に、｢佐藤先輩｣の言葉が続いている。｢わたし､短歌で親を見返したい。音楽じゃなくても、わたしはわたしの歌でちゃんと一人前になれるんだって証明したいの｣｡
さらに、｢佐藤先輩｣と｢親｣､そして｢音楽｣はどのように結びついているのかを読み解く。｢同一場面｣から、｢佐藤先輩｣は｢親の希望｣で始めた｢ピアノ｣から｢逃げ｣て、｢敗北感｣や｢負い目｣を感じていたという｢状況｣が分かる。さあ、これで記すべき｢要素｣は出そろった。あとは、｢指定字数｣に応じて｢過不足なく｣まとめていけばいい。
たとえば、｢親の希望で始めたピアノから逃げて負い目を感じていたが、自分の短歌で一人前になれることを証明し､親を見返したいという決意｡｣(60字)といった｢答え｣だ。

｢小説｣では、｢セリフ｣⇔｢ト書き｣の読み取りが非常に重要だと心得よ。

＜時間配分目安：２分半＞

[問四]　｢歌意の条件付き内容説明記述｣(｢字数指定｣なし｡｢50字ほど｣の解答欄)。

示されている｢白と黒しか押したことない指が行き先ボタンをためらっている｣という｢短歌｣は｢過去のタンカード(＝『短歌を書き留めておく専用のカードの作中での名称』と『注』にある)に書かれた佐藤先輩の短歌｣だが、｢どういうことが表現されていると考えられるか｣を説明する。｢条件｣は｢問題文全体の内容をふまえて説明する｣こと。

ただし、｢問題文全体｣といっても｢本文｣は短く、要は｢同一場面｣からの読み取りとなる。
示されている｢短歌｣の内容はそのほとんどが｢隠喩(暗喩)｣だと分かるので、何を表現しているかを読み解いていきたい。
｢上の句｣の｢白と黒しか押したことない｣は[問三]からも分かるように、｢佐藤先輩が親の希望で始めたピアノ(『白と黒』＝鍵盤)だけに打ち込んできた｣ということだ。そして、｢下の句｣は｢(新たに自分で取り組んでいる)『短歌』の道をきわめるという『行き先』にためらっている｣と読み取れる。
よって、たとえば、｢親が決めたピアノには敗北感があるが、かといって自分の意思で始めた短歌にも不安があるということ｡｣(47字)といった｢答え｣になる。

本校では、｢韻文｣の｢表現技法｣についての知識も必要になるということだ。

＜時間配分目安：２分半＞

昨年度よりやや易化した観はあるが、基本的には本校の｢標準レベル｣｡若干紛らわしいものだけをチェックしてみたい。
(１)｢ユウラン船に乗る｣＝｢遊覧｣⇒｢覧｣の細部に注意したい｡
(２)｢室内をソウショクする｣＝｢装飾｣⇒｢文脈｣に注意したい。
(５)｢数々のコウセキをたたえる｣＝｢功績｣⇒｢功｣の｢同音異字｣に惑わされないこと｡
(６)｢野原をジュウオウにかけめぐる｣＝｢縦横｣⇒｢縦横無尽｣(＝どの方面にも限りがなく物事を思う存分にすること)という｢四字熟語｣も覚えておくこと｡
(９)｢車の運転にシュウジュクする｣＝｢習熟｣⇒｢語彙｣として知らなくてはいけない熟語。
(15)｢日本記録をヤブる｣＝｢破(る)｣⇒｢同訓異字｣に注意せよ。

本校志望者はもちろん､｢全問正解｣が必須だ。
ひとつでも不安なものがある諸君は、未だ｢本校レベル｣に達していないと認識し、精進すること。