市川高等学校 入試対策
2019年度「市川高等学校の国語」
攻略のための学習方法
記述
「市川の記述対策」は「問題解説」及び上記のとおりだが、その前提としてやるべきことがある。それは「文を記す」「記述する」ことに慣れることだ。
最初は時間がかかってもいい。厭わずに、とにかく「書く」。そして、書いた「文」は必ず誰かに読んでもらう。「文法」など正しい日本語の「文」になっているのか、言いたいことは正確に伝わっているのかを確認する必要があるからだ。
では、何を「書く」か? 「練習問題」や「過去問」にある「記述設問」は勿論だが、その問題文の「要約」をするのがとてもいい方法だ。50~60字程度で書いてみる(市川の典型的な「記述」の練習にもなる)。無論、内容は先生などに確認してもらう。「要約力」は文章の「理解力」にもつながるので一挙両得。
次の段階としては「字数の感覚」を身につけることだ。書きたい内容は何文字くらいになるのか? 解答欄を埋め始めてから「過不足」を後悔しても遅い。下書きしている時間もない。だからこそ、「字数の感覚」が重要。その際、20~30字程度をひとつのブロックとして考えるといい。
「記述設問」で得点を左右する「重要な要素」「必要な要素」は、それぞれその程度が目安だ。マス目のある原稿用紙を使って、自分が書こうとしている「要素」がその範囲に収まるようになるまで何度も練習すること。ある程度「感覚」がつかめたら、「最重要な要素」を「文末」にして、他の「必要な要素」を下から積み上げていくように記述する練習をしていく。
解法
「記述」「選択肢」、その他の問題も含め、「市川の国語」で勝利するための基本は、「解法」をいかにうまく使うかということだ。「解き方」が安定しなければ、「得点力」はアップしない。「論説文」(説明文)と「小説」「随筆」、それぞれに応じた独自の「解法」。そして、全てに共通する「解法」。それらを体系的に理解して定着させ、応用できるようにしなくてはならない。
そこで肝要なのは、「復習」の仕方だ。「答え合わせ」をして「解説」を読み納得した。問題はその後だ。「考え方のプロセス」を「トレース」することが必須。万一、「トレース」できないとすれば、そのこと自体が問題になる。「解説」が定まっていない証だからだ。そして、「間違った問題」こそ宝の山だと認識すること。「解き方のプロセス」のどこで誤ってしまったのか? その「分岐点」をしっかりと確認して頭に刻み込んでおくことこそが、同じ間違いを繰り返さない秘訣になる。
さらに、いくつもの練習問題を通じて同種の設問に共通する「解き方のプロセス」を身につけたい。それが「解法」となる。そうして理解、習得したものを書き留めた自分自身の「解法ノート」を作成しておきたい。解き方に迷ったらそのノートを確認して、確実に応用できるようにしておくこと。繰り返すことで、やがて自然と「解法」を用いて解くようになるはずだ。
速読
大学入試にも匹敵、あるいはそれ以上の問題文を読まなくてはならない。「現代文」全体で7000字以上。解答時間は50分。当然、「速読」が求められる。しかし、設問を解くために読むのだから一般的な「速読術」を使うわけにはいかない。
やはり、文章に応じての「速読」のコツを習得しなくてはならない。「論説文」(説明文)であれば「Nの法則」。意味段落の「序論」「結論」は「論旨」が述べられているので確実に読み、「本論」は「段落相互関係」に着目しながら「各形式段落」の「最初」と「最後」を中心に読み進める。
「小説」「随筆」は、「場面分け」をしながら新たな「登場人物」をチェックしつつ、「心情表現」を拾いながら素早く読んでいく。その上で、とにかくできる限り数多くの過去問の文章を読むことだ。市川に限らず、他の学校の入試問題も読んでおきたい。練習あるのみ。そして、最終的には分速700字以上(できれば750字近く)で「速読」できるようにしたい。
知識
「高度な語彙力」だけではなく、「国語常識」も含めた多種多様な「総合的知識」が必要となる「市川の国語」(直接出題だけではなく、「本文読解」等でも必然的に問われる)。いかなる「攻略法」があるのか? 「国語的知識」は幼少期からの蓄積、故に「15の春」を前にした今ではもはや手遅れ。
確かに、そうした側面はある。だが、そこで思考停止してしまっては「ジ・エンド」。今からでもできることは、ある。先ずは、「己が実力」を悟ること(「己が」=「おのが」が読めなければ既にヤバイと自覚せよ)。過去問を解いてみて(少なくとも5年分以上)、「5割未満の正答率」だったら「中学入試レベル」からの再スタートだ(分かっていると思うが、「中学入試」を馬鹿にしてはいけない。上位校では「高校入試」どころか「大学入試」のレベルに達する)。「5割超の正答率」でも無論、不断の努力は欠かせない。
要は、地道な努力、日々の積み重ねあるのみだ。さらに、「口語文法」も侮ってはいけない。直接出題されることがあるし、「記述」にも不可欠だ。日本語として「文法」的に「正しい文」でなければ「減点」されるし、そもそも内容が正確に伝わらない。特に、「文節の相互関係」や「付属語」(「助詞」「助動詞」)の「意味・用法」は確実に定着させておくことが重要だ。
なお、「知識」強化用のテキストとしては、「高校入試 でる順ターゲット 中学漢字・語句・文法1500 四訂版」(旺文社)などが推薦できる。また、残念ながら「中学入試レベル」から再スタートの場合は、「四谷大塚」の「四科のまとめ『国語』」(HPから購入可能)等がオススメ。
古典
「公立中学」の「国語」でも「古典」は扱う。「古文」は必須のカリキュラムだ。しかし、「指導要領」上はほんの導入部分だけで、本格的な学習はしない。「文語文法」等を体系的に学ぶことはない。
が、「中高一貫校」ではそれらを中学時点で学び始めている。従って、「高校入試」で出題されることになる。明らかに「ハンディ」だが、仕方がない。塾での学習ないし「独習」するしかない。最重要な「古文単語」(200語程度)を定着させ、基礎的な「文語文法」は理解しておかなくてはならない。
そして、できるだけ多くの「古典作品」に触れて慣れておくことが重要だ。なお、「古文」強化用のテキストとしては、「古文完全攻略63選——入試頻出問題厳選」(東京学参)や、「古文単語」定着用として「マドンナ古文単語230」(学研)などが推薦できる。
志望校への最短距離を
プロ家庭教師相談
2019年度「市川高等学校の国語」の
攻略ポイント
特徴と時間配分
大問一は「漢字の書きとり」(全8問)。2分以内で丁寧に終えたい。
大問二は「論説文」、出典は杉田敦「境界線の政治学」(文字数約3700字)。小問は全7問(解答数8)。「選択肢」(「不適切複数解答」「内容合致」、「語句の空所補充」「脱文挿入」あり)、「説明記述」(2問。ともに「60字以内」指定)。問題文は5分半ほどで読み切り、設問を15~16分で解きたい。
大問三は「小説」、出典は川端康成「掌の小説」所収の「十七歳」(文字数約3400字)。小問は全6問(解答数6)。「選択肢」、「説明記述」(1問。「50字以内」指定)。問題文は4分半程度で読み切り、設問を13~14分で解きたい。
大問四は「古文」、出典は橘成季「古今著聞集」(文字数約500字)。小問は全5問(解答数5)。「選択肢」(「組み合わせ」あり)、「抜き出し」、「説明記述」(1問。「50字以内」指定)。10分弱で解きたい。
【大問一】漢字の書きとり
- 時間配分:
「漢字問題」が大問として独立して以来、「書きとり」と「同音異字判別」という出題形式だったが、本年度は「書きとり」のみになった。その分やや難易度は下がったが、本校の求める「語彙力」の高さは相変わらずだ。心してかかる必要がある。確認したい。
[問] 「漢字の書きとり」(全8問)。
「高校入試」としては高レベルの問題が並んでいる。
①「消防車によってチンカされる」=「鎮火」⇒「火事が消えること」、決して「沈火」としてはいけない。
②「時とともに伝統文化がスタれる」=「廃(れる)」⇒これは何とか正解したい。
③「地域の発展にコウケンする」=「貢献」⇒定番の熟語だ。
④「優勝をネラう」=「狙(う)」⇒「音読み」の「ソ」も押さえておきたい(「狙撃」など)。
⑤「駅前のハンカガイ」=「繁華街」⇒誰もが知っている言葉だろうが、いざ書くとなるとなかなか……、細部に注意したい。
⑥「鉄棒のケンスイの練習」=「懸垂」⇒そもそも「漢字」で書こうなどと思ったことがないかも。
⑦「自分の才能にトウスイする」=「陶酔」⇒「陶」の一画一画を丁寧に記すこと。
⑧「戦いをイドむ」=「挑(む)」⇒最後にやっと一安心。
<時間配分目安:全問で2分以内>
※尚、本年度は「同音異字判別」の出題はなかったが、警戒を怠ってはならない。そのためには、「大学入試センター試験」の「漢字対策問題集」などを活用するといい。
【大問二】論説文
- 時間配分:
国家の内部と外部、正義と邪悪、文明と野蛮などの間にひかれた「境界線」にこそ政治は立ち現れるのではないか――主権の絶対性と境界線内部の最適化を志向する近代の政治理解を根底から揺さぶり、新たなパラダイム(=ある時代に支配的な物の考え方・認識の枠組み)を切り拓く論考。
本文では、近代の政治は「境界線」によって支えられてきたという認識の下で、現在の状況は「内政の外政化」と「外政の内政化」が同時進行しており、この事態をどう捉えるのか、その認識の仕方が大きな分かれ目になると指摘している。「政治論」であり内容を完璧に理解することは難しい。しかも、「脱文挿入」、「空所補充」、「説明記述」といった多彩な小問が並んでいる。ここは、「論説文の解法」に則して冷静に解き進めていきたい。以下、いくつか確認してみよう。
[問1] 「脱文挿入の選択肢」(6択)。示されている「文」が入る「最も適当な箇所」を本文中の ア ~ カ の中から答える。
「脱文挿入」では当然ながら、「脱文冒頭」の「接続詞」「指示語」などに着目して、「入る箇所」との繋がりを捉えることが最優先だ。示されている「脱文」の「冒頭」には「これは」という「指示語」があり、「これは、……ネットワークでつながった現代社会が、何らかの障壁によって守れないという印象を強めるだろう」となっている。
各選択肢の「箇所」を確認すると、 ウ の直前に「郵便のような日常的な制度が大きなリスクを運びうることも判明した」とある。あてはめてみる。「これは」=「日常的な制度が大きなリスクを運びうることは」→「ネットワークでつながった現代社会が、何らかの障壁によって守れないという印象を強めるだろう」。繋がる。念のために他の「箇所」をチェックしても、繋がらない。したがって、「答え」は ウ だ。尚、「選択肢」ではない「脱文挿入」では、「形式段落の最後」に「挿入」されることがほとんどだと心得ておきたい。
<時間配分目安:1分半>
[問3] 「表現の空所補充選択肢」(5択)。本文中の空所 2 に入る「表現」を答える。
「傍線部(空所部)一文一部の法則」(「傍線部(空所部)が一文の一部分だった場合、傍線部(空所部)以外が重要」という「重要解法」)で、空所前後を確認する。「境界線は 2 のではないか」となっている。何の「境界線」なのか? 「同一意味段落」に「手がかり」を求める(「論説文」「説明文」では「同一意味段落」に「根拠・手がかり」がある)。同段落冒頭から、「内側(国内政治)」と「外側(国際政治)」を区別する「境界線」だと分かる。また、空所部直後には「内側にいると思っていたらいつの間にか外側にいて、外側にはずが内側になるという状況になっているのではないだろうか」とある。つまり、「内側(国内政治)」と「外側(国際政治)」を区別する「境界線」が、曖昧(あいまい)になっているということになる。
各選択肢を確認する。
(ア)「反転している」、
(イ)「はっきりしている」、
(ウ)「濃くなっている」、
(エ)「変化している」、
(オ)「ほころんでいる」。
無論、「答え」は(オ)の「ほころんでいる」になる。「解法」を駆使して「段階的」に内容を特定していくことが肝要だ。
<時間配分目安:1分>
[問4] 「条件付き説明記述」(「60字以内」指定)。傍線部(3)に「オウム真理教のような集団」とあるが、「筆者はこの『集団』を例にして、どのようなことを主張しているのか」を、「60字以内」で説明する。「条件」は「『異質』・『同質』の2語を用いて説明する」こと。
「傍線部(空所部)一文一部の法則」で確認すると、「オウム真理教のような集団が、いわゆる先進国の、しかも高学歴の人々の中から出て来たことを想起すれば、それは明らかである」となっている。つまり、筆者は「『オウム真理教のような集団』によって『それは明らかである』」と述べている。よって、「それ」が「明らかである」ということを「主張」していることになる。要は「指示語」の問題だ。「指示語」を開く。直前から、「それ」=「テロリズムは実際には『われわれ』全てにとっての問題であり、決して特定の集団だけのものではないということ」だと読み取れる。
次に、「われわれ」とは誰かを捉えていきたい。その際、「条件」を意識することが重要だ。「同一意味段落」を確認する。すると、「国境の内部に異質性があるという事実を、多くの人々が意識し始めた」「国家理性は、国民という群れが、基本的に同質なものであると信じさせようとしてきた」といった説明がある。要は、「われわれ」は「同質なものであると信じさせられてきた国民」であり、その「内部に異質性がある」ということになる。こうした「要素」を「過不足なく」まとめていけばいい。たとえば、「テロリズムは実際には同質であるはずの国民全てにとっての問題であり、決して内部の異質な集団だけのものではないということ。」(59字)といった「答え」になる。
「条件」は「手がかり・ヒント」でもあると心得よ。
<時間配分目安:3分>
【大問三】小説
- 時間配分:
病で入院している「妹」は「イヤデス」という反抗のニックネームを持ち、蟻が鉛筆の折れた芯を運ぼうとする様子を見ている。蟻の愚かさに悲しみを抱きながら、ただそれを見つめている……。やがて、過去の呪縛からの解放が、「妹」の視線を「鉛筆の折れた芯を運ぶ蟻」から外へと向けさせ、「多くの人を守ってあげるのだ」という意志をもたらしていく……。本文は、「大人になる」ということを描いた短編小説の全文。時代背景が古いので馴染みのない語句もあるが、内容は理解できるはずだ。「選択肢設問」が中心の大問だ。的確に判別していきたい。以下、いくつかの設問を検証する。
[問1] 「内容説明の選択肢」(5択)。傍線部(1)「見つめているうちに、自分が蟻の小さい体になって敷布の広さが感じられて来た」について、「この部分の説明」を答える。
「選択肢設問」は「消去法」が原則。先ずは「原意消去」をしたい(「原意絶対優位の原則」=「設問」「傍線部」等の「原意」を最優先に考えること)。ここは「内容説明」なので、「敷布の広さが感じられて来た」の「原意」と結びつかない「内容」の選択肢を、「文末」で「消去」したい(「選択肢」の説明で最も重要な要素は「文末」に記されている)。だが、「文末」は全て「蟻に重ね合わせている」となっているので、その直前との照合になる。
確認したい。
(ア)「頼りなくはかなげな自分を」、
(イ)「思い出にしがみついて生きている自分を」、
(ウ)「前向きな自分を」、
(エ)「耐えている自分を」、
(オ)「孤独で卑小な自分を」。
さあ、どうだろうか? 「敷布」にさえ「広さ」を「感じ」てしまうのだから当然、「頼りなくはかなげな」となっている(ア)以外は「消去」できなくてはいけない。一瞬、(オ)の「孤独で卑小」で悩むかも知れないが、「卑小」はふさわしくないと判断できるはず。(ア)は他の部分を確認しても特に誤っていないので、「答え」でいい。結局、「一発消去」だ。畏るべし「原意消去」、しっかりと使えるようにして大いに活用すべし。
<時間配分目安:1分以内>
[問2] 「理由説明選択肢」(5択)。傍線部(2)「みんな愛してあげる」について、「妹」が「このように思ったのはなぜか」を答える。
各選択肢の「説明」が「90字以上」もある。全て読み合わせをしていては混乱するばかりだ。冷静に先ずは「原意消去」をしたい。ここは「理由説明」なので、各選択肢の「文末」⇒「だから」⇒「みんな愛してあげる」と、「直接的理由」として結びつかないものを「消去」したい。
チェックする。
(ア)「(家族の)苦労によって入院生活ができていることに感謝したかったから」、
(イ)「(歳月の重なりを)かけがえのないものとして思い浮かべたから」、
(ウ)「(母の)やさしさを全身で受け止めたい気持ちに駆られたから」、
(エ)「家族のもとへ戻って再びみんなで暮らしたくなったから」、
(オ)「大切な光景の一つとして忘れたくなかったから」。
「愛してあげる」の「理由」なので、(ア)(イ)以外は「消去」できるはずだ。2択になった。次なる「消去」は「みんな」の部分。(ア)の「家族」なのか?(イ)の「歳月の重なり」なのか? 「同一場面」で確認したい(「小説」では「同一場面」の「直前直後」に「手がかり・ヒント」がある)。直前に「妹もそんなこと(落ちた蚊取り線香の灰を拾うこと)をするようになった」とある。であれば、「家族」ではなく「歳月の重なり」だと判別できる。他の部分の説明も特に誤ってはいないので、「答え」は(イ)だ。「原意消去」からの2段階。こうした「段階的消去」も求められると心得よ。
<時間配分目安:2分>
[問4] 「換言説明選択肢」(5択)。傍線部(4)「感傷の相手をつくった」について、それは「どういうことか」を答える。
無論、先ずは「原意消去」。ここは「換言説明」なので、傍線部の「原意」と、各選択肢の「文末」とが結びつかないものを「消去」する。
(ア)「(両親の心の傷を)妹とともに癒そうとした」、
(イ)「(両親の秘密を)妹にもこっそり教えて共有した」、
(ウ)「自分の心の重荷を)妹に話して軽くした」、
(エ)「(心の痛みを)妹と分かち合った」、
(オ)「(両親を大切にしてあげようという考えを)妹に言い聞かせた」。
どうだろうか? 「感傷」の「相手」で(ア)(イ)(オ)は即「消去」可能、また、「相手をつくった」のだから(ウ)も「消去」だと判別できるはずだ。他の部分の説明も特に誤っていないので、(エ)を「答え」としていい。結果として、「文末」だけで「一発消去」となった。「原意消去」は活用すべしと、改めて記銘せよ。
<時間配分目安:1分半>
【大問四】古文
- 時間配分:
「今昔物語」「宇治拾遺物語」とともに「日本三大説話集」のひとつで、事実に基づいた古今の説話を集成し懐古的な思想を伝えている(全726話)。
本文は巻十の「中納言伊実相撲腹くじりに合ひて勝ち腹くじり逐電の事」。昨年度の「古文」は「理由説明選択肢」と「内容合致判別選択肢」に特化したものだったが、本年度は例年どおりに多様な小問が並んでいる。「古文単語の意味」や「文語文法」を直接問うといった単純なものはなく、「主語特定」や「内容理解」が問われている(無論、「単語」「文法」の定着がなければ解けない)。以下、いくつか検討してみよう。
[問1] 「換言抜き出し」(「5字以内」指定)。傍線部(1)の「件(くだん)の相撲」を「別の言葉で言い換えたもの」を、「5字以内」で抜き出して答える。
「件の」は口語でも用いるので、「例の。あの。前に話題にした」といった意味だということは知っているはずだ。要は「指示語」だ。確認すると、2行前に「相撲なにがしとかやいふ上手」(=相撲取りの誰それとかいう名人)とある。「件の相撲」のことで間違いないが、「字数」が合わない。さらに読み解いていくと、「相撲なにがし」について「腹くじりとぞいひける」(=腹くじりと言ったそうだ)と説明されている。念のために傍線部直後を確認してみると、「しのびやかにめしよせて」なので、「腹くじりと言った相撲取り」を「密に呼び寄せて」でOKだ。したがって、「答え」は「腹くじり」だ。「指示語」の開き方や「文脈」の読み取り方法などは「現代文」と同じだ。
<時間配分目安:1分>
[問3] 「理由説明選択肢」(5択)。傍線部(3)「中納言、恐れをなして畏まりておはしけり」について、「それはなぜか」を答える。
先ずは、「結果」である「畏まりておはしけり」を現代語訳したい。品詞分解すると「畏まり/て/おはし/けり」⇒「ラ行四段活用」の動詞「畏まる」(連用形)=「恐れ慎む。恐れ敬う」+接続助詞「て」+「サ行変格活用」の敬語動詞「おはす」(連用形)=「いらっしゃる」+「伝聞過去」の助動詞「けり」(終止形)=「~たそうだ(たという)」。よって、現代語訳は「恐れ慎んでいらっしゃったそうだ」となる。つまり、「恐れ慎んだ」ことの「理由」を答えるわけだ。
各選択肢の「文末」が「直接的理由」として結びつかないものを「消去」していく(これまた「現代文」同様だ)。
(ア)「念を押されてしまったから」、
(イ)「強く命じられたから」、
(ウ)「気おされたから」、
(エ)「圧倒されたから」、
(オ)「不安に思ったから」。
「恐れ慎んだ」のであれば、(ウ)(エ)以外は「消去」できる。次に、何がきっかけで「恐れ慎んだ」のかを「文脈」から読み取る。直前は「のたまひければ」(=おっしゃったので)となっている。したがって、(エ)の「剣幕」は「消去」で(ウ)の「口調」が残ると判別できる。他の部分の説明も特に誤ってはいないので、「答え」は(ウ)になる。基本的な「古文単語」や「文語文法」が定着していれば、「現代文」として解けると心得よ。
<時間配分目安:1分半>
[問4] 「主語特定の組み合わせ選択肢」(5択)。二重傍線部(a)~(c)の「主語」の「組み合わせ」を答える。
定番の「主語特定」だ。各選択肢の「候補」は、「腹くじり」と「中納言」の2者のみだ。「組み合わせ」なので、どこかを特定して一気に絞り込みたい。(b)が分かりやすい。「中納言、腹くじりが四辻(=まわしの結び目の辺り)をとりて」⇒「中納言」と「腹くじり」が前後になっているので、「腹くじりが」の「が」は「主格」ではなく「連体修飾格」だと分かる(「体言」にはさまれた「が」は原則的に「連体修飾格」)。「中納言」が「腹くじり」の「四つ辻をとって」ということだ。よって、(b)の「主語」は「中納言」で、選択肢は(ア)か(オ)に絞り込める。両方ともに(c)は「腹くじり」なので、(a)での判別となる。(a)は「中納言は、腹くじりが好むままに身をまかせられければ、悦(よろこ)びてくじり入れてけり」⇒「身をまかせられければ」の「られ」はここでは「尊敬」で、接続助詞の「ば」は「けれ」という「已然形」に接続しているのでここでは「順接確定条件」、「腹くじりが好むまま」の「が」は「体言」にはさまれているので「連体修飾格」=「中納言は、腹くじりの好むままに身をまかせなさったので、(腹くじりは)悦んで(頭を)えぐるように入れたという」。よって、(a)が「腹くじり」になっている(ア)が「答え」となる。
「古文」では「主語」が省略されることがとても多い。「わざわざ記さなくても分かる」ので「省略」しているのだ。したがって、前後の「文脈」や「敬語」などから特定していけばいいと心得よ。
<時間配分目安:1分半>
攻略のポイント
●「説明文が長くて紛らわしい選択肢設問」はどう対処するか? 無論、できるだけ単純な方法で、「選択肢」を少しでも「消去」しておきたい。その為にこそ「原意消去」だ。絞り込めば、誤答の可能性が減少するのは自明の理。その上で、様々な「解法」を用いて、さらに判別すればいい。従って、基本的「解法」を完全に習得し的確に応用できるようにしておくことが重要だ。それによって「得点力」を安定させたい。
●「説明記述」は「問題文」と「条件」がとても複雑だ。「攻略」できるか? それぞれを正確に理解することは当然として、後は実直に「練習」するだけだ。正否の分かれ目となる「最重要要素」を「文末」として他の「必要要素」を積み上げるという手法を完璧にマスターすること。「内容」から重要度を特定し、優先順位の高いものから積み上げる。各「要素」を「20~30字程度」でまとめられるように徹底的に練習する。本校では「50~80字程度」の「字数指定」が多いので、2~3つ程度の「要素」でまとめることに慣れること。「合格ライン」は6割前後(過去6年間の「男女合計受験者平均得点率」は53.5%。本年度は一気に下がって48.1%)。配点が大きい「説明記述」での失点や減点は致命的になると肝銘せよ。
●「総合的知識問題」も決して侮れない。「あらゆる知識」が問われる。独自に「幅広い知識」を常に習得していくこと。学校や塾での学習だけでは、全く不十分だ。
●「古文」の「攻略法」は? 重要な「古文単語」の定着はもちろんだが、「内容解釈」も求められるので「基礎的文語文法」は押さえておきたい。
●試験時間は50分。時間配分にも細心の注意をすること。問題文は7000字ほどにもなる(本年度は約7600字)。したがって、速く正確に読み取ることが不可欠。分速750字以上を目標に「読む練習」をしたい。