｢哲学すること｣のきっかけは、色々なところに潜んでいる。｢ファッション｣｢人生｣｢幸福｣｢フィクション｣の４つのテーマを切り口に、｢楽しむ｣ことを考える哲学入門の一篇。本文では、日常性が成立しなくなったり、日常生活の中で空間性を持った場に包まれたりするときに、人はふだん意識しない｢知覚経験の中で生きている｣ことを意識すると論じている。｢哲学論｣ではあるが、入門書であり｢★注｣を活用すれば内容は理解できる。｢本校らしさ｣が垣間見られる多様な設問が並ぶ大問だ。以下、いくつかを検証してみたい。

[問二]　｢内容説明記述｣(｢40字以内｣指定)。傍線部(２)｢こうした事情｣について、｢これはどういう事情か｣を｢四十字以内｣で説明する。｢内容説明｣ではあるが、実態は｢指示語換言説明｣だと気づくはずだ。｢指示語｣を開いていく。直前から、｢こうした事情｣＝｢たとえば視覚を失ったとすると経験は大きな危機に陥(おちい)り、危機を乗り越え新たな世界のあり方の中で経験を再構築する困難な作業に立ち向かうことになるという事情｣だと読み取れるはずだ。次に、｢傍線部(空所部)一文一部の法則｣(｢傍線部(空所部)が一文の一部分だった場合、傍線部以外が重要｣という｢重要解法｣)で｢前後｣を確認する。直後に｢『わたしたちはつねに知覚世界のなかで生きている』といえるにしても｣とある｡｢指示語｣は｢視覚｣を例に挙げているが、｢文脈｣としては｢知覚一般｣について述べているので注意しなくてはいけない。あとは、｢過不足なく｣まとめていけばいい。たとえば、｢知覚を失うと、新たな世界の中で経験を再構築する困難な作業が必要になるという事情｡｣(40字)といった｢答え｣になる。｢設問内容｣に応じた的確な｢解法｣を用いて解き進めていくことが重要だ。＜時間配分目安：２分半＞

[問三]　｢条件付き内容説明抜き出し｣(｢55～60字以内｣の｢初めと終わり｣の｢５字｣指定)。傍線部(３)｢経験｣について、｢これはどういう経験か｣を、｢五十五字以上六十字以内｣で抜き出し｢初めと終わりの五字｣を答える。｢条件｣は｢『経験｡』という言葉に続くようにする｣こと。｢抜き出し｣では、｢抜き出し内容｣を正確に捉(とら)えた上で、｢抜き出し範囲｣を絞り込んでいく。｢内容｣を｢傍線部(空所部)一文一部の法則｣で確認したい。直前に｢大工はこれらの(経験)｣とある｡｢指示語｣を開くと、｢これらの経験｣＝｢大工の作業における多様な知覚経験｣だと分かる。これが｢抜き出し内容｣だ。｢範囲｣は｢同一意味段落｣となる(｢論説文｣｢説明文｣では｢同一意味段落｣に｢根拠･手がかり｣がある)。そして、｢大工の作業｣について述べられているのは前段落。丁寧に探していくと、８行目に｢(大工の)経験は、少なくとも視覚、触覚、聴覚といった感覚や、姿勢を整えて体を動かすという自己受容感覚や運動感覚が動員されて成立している｣という部分がある。まさに、｢大工の作業における多様な知覚経験｣だ。｢指定字数｣と｢条件｣を考えると｢少なくとも視覚、触覚、聴覚といった感覚や、姿勢を整えて体を動かすという自己受容感覚や運動感覚が動員されて成立している(経験｡)｣(58字)が｢抜き出し部分｣だと特定できる。よって、｢答え｣は｢少なくとも～立している｣だ。尚、｢抜き出し｣では｢候補｣は決してひとつとは限らないので、必ず｢範囲｣のすべてを確認する必要がある。＜時間配分目安：２分半＞

[問六]　｢空所補充の語句選択肢｣(全４問/４択)。本文中の空所 　Ａ　 ～ 　Ｄ　 に｢当てはまる語｣を答える。各選択肢は、｢接続詞｣と｢副詞｣だ。本校に限らず定番の問題。｢接続詞｣では｢逆接｣はともかく、それ以外には十分に注意すること。｢逆接｣以外ではどれもがあてはまってしまう可能性があるのだ。単純に前後を読みつなぐだけではなく、それぞれの｢接続詞｣の｢意味･用法｣を的確に押さえた上で、｢内容｣を確認すること。では、それぞれの空所の｢答え｣を確認していきたい｡ 　Ａ 　には｢逆接｣の｢接続詞｣の(イ)｢しかし｣、　 Ｂ　 には｢例示｣を表す｢副詞｣である(ア)｢たとえば｣､　 Ｃ 　には｢補足｣の｢接続詞｣の(エ)｢そもそも｣(この単語には｢名詞｣もある)、　 Ｄ 　には｢順接｣の｢接続詞｣の(ウ)｢したがって｣があてはまると判別できるはずだ。｢候補｣はひとつとは限らないので、必ず全て｢代入確認｣すべし。＜時間配分目安：１分半＞

[問七]　｢漢字の書きとり｣(全５問)。ちょいと難しいものもあるが、全体としては本校の｢標準レベル｣。よって、本校志望者であれば｢全問正解｣したい。当然、｢文脈｣を正確に読み取り、的確な｢漢字｣に結びつけることを忘れてはならない。それぞれを確認する。(ア)｢多くのコンナンを伴(ともな)う｣＝｢困難｣⇒何ら問題なし、(イ)｢知覚世界をネントウにおいて｣＝｢念頭｣⇒｢語彙力｣が問われる良問、(ウ)｢ジツゲンされる身体行為｣＝｢実現｣⇒平易だ､(エ)｢声の広がりが一定の空間性をケイセイし｣＝｢形成｣⇒やや難解か？ ｢文脈｣から特定したい､(オ)｢声のもつカイカツさ｣＝｢快活｣⇒押さえておかなくてはいけない語句だ。尚、｢トメ｣｢ハネ｣などにも配慮し丁寧に記すことは言うまでもない。＜時間配分目安：全問で１分半弱＞

プロを目指す中学生、引退間際の棋士(きし)、将棋(しょうぎ)会館の清掃員など、将棋という勝負の世界で歩みを進める７人のドラマを生き生きとあたたかな筆致で描く珠玉の短編集の一篇。本文では、優秀な兄に肩を並べようとプロの棋士を目指す中学生の｢裕也(ゆうや)｣が、勉強と両立できないまま夢をあきらめかけながらも、将棋が純粋に好きだという気持ちに気づく姿が描かれている。内容は難なく理解できるはずだ。｢総合的知識問題｣を含め､多彩な小問が待ち構えている。以下、いくつかの｢設問｣を確認する。

[問一]　｢理由説明記述｣(｢２行以内｣指定、｢50字ほど｣の解答欄)。傍線部(１)｢絶対に棋士になってやる｣について、｢このように裕也が決意したのはなぜか｣を｢二行以内｣で説明する。｢同一場面｣から｢状況｣を読み解いていきたい(｢小説｣では｢同一場面の直前直後｣に｢手がかり･ヒント｣がある)。ここでは｢理由説明｣なので、特に｢きっかけ｣がポイントになる。傍線部の直前に｢裕也は、勉強ではとても兄にかなわなかった。父も母も、それはしかたがないと思っているようなのが悔しかった｣とある｡｢悔しかった｣ことが｢決意｣につながっていることが分かる。では、そのことが｢棋士になること｣とどのように結びつくのか？ さらに、確認していく必要がある。２段落後から｢プロの棋士になれば、兄に対して引け目を感じなくて済む｣と思っていることが分かる。このことが｢直接的理由｣だと読み取れるはずだ。こうした内容を整理してまとめていきたい。たとえば、｢勉強では兄にかなわないと父母に思われて悔しかったが、棋士になれば兄に引け目を感じないと思ったから｡｣(49字)といった｢答え｣だ。｢説明記述｣では｢最重要要素｣(｢理由説明｣では｢直接的理由｣)を必ず｢文末｣にすること。＜時間配分目安：２分半＞

[問四]　｢状況説明選択肢｣(４択)。傍線部(４)｢裕也は父に歩みよった｣について、｢これはどのような状況か｣を答える。｢選択肢設問｣は｢消去法｣が原則｡先ずは｢原意消去｣をしたい(｢原意絶対優位の原則｣＝｢設問｣｢傍線部｣等の｢原意｣、要は｢本来の意味｣を最優先に考えること)。ここは｢状況説明｣なので、｢歩みよった｣の｢原意｣と結びつかない｢状況｣を｢消去｣する。各選択肢の｢文末｣を確認する(｢選択肢｣の説明で最も重要な要素は｢文末｣に記されている)｡(ア)｢葛藤(かっとう)している状況｣､(イ)｢謝ろうとしている状況｣､(ウ)｢期待に応えられるようにしたいと思っている状況｣､(エ)｢父の優しさにすがろうとしている状況｣｡どうだろうか？ ｢裕也｣が自ら｢父｣に｢歩みよった｣(＝歩み寄る)のだから、｢すがろうとしている｣以外は｢消去｣できなくてはいけない。他の部分の説明を｢同一場面｣で確認しても特に誤っていないので、｢答え｣は(エ)になる。見事な｢一発消去｣だ！ ｢紛らわしい選択肢説明｣にも惑わされず、時間短縮もできる｢原意消去｣､絶対に活用すべきだ。＜時間配分目安：１分弱＞

[問五]　｢成句の意味の選択肢｣(全５問/５択)。｢総合的知識問題｣｡傍線部(５)の｢千差万別｣に関連して示されている、５つの｢数字を使った成句｣の｢意味｣をそれぞれ答える。示されている｢成句｣は、(一)｢三つ子の魂百まで｣､(二)｢一か八か｣､(三)｢口八丁手八丁｣､(四)｢腹に一物｣､(五)｢起きて半畳(じょう)寝て一畳｣｡誰も知らないものがあるやも知れぬ。が、本校志望者であれば｢消去法｣も駆使してなんとか｢全問正解｣といきたい。｢答え｣を確認する。(一)＝(オ)｢幼いころの性質は、年をとっても変わらないということ｣､(二)＝(ア)｢うまくいくかわからないが、成り行きにまかせること｣､(三)＝(エ)｢言うこともすることも達者な人ということ｣､(四)＝(イ)｢心中に何か悪いたくらみをもっていること｣､(五)＝(ウ)｢必要以上にものをほしがるのはつまらないことだということ｣｡｢成句｣(＝古くから慣習的に用いられているひとまとまりの言葉)は昨年度も出題されている。本校では、｢故事成語｣･｢ことわざ｣･｢慣用句｣、そして、｢四字熟語｣などの習得、定着は必須だ。ちなみに、傍線部(５)の｢千差万別｣は｢物事の種類や様子に、さまざまな差異があること｣だ。無論、知らなくてはいけない。＜時間配分目安：１分半＞

[問六]　｢理由説明選択肢｣(４択)。傍線部(６)｢裕也は眠(ねむ)りに落ちた｣について、｢その理由｣を答える。先ずは｢原意消去｣から。ここは｢理由説明｣なので、｢眠りに落ちた｣ことの｢直接的理由｣として結びつかないものを｢消去｣する。各選択肢の｢文末｣と照合する｡(ア)｢退屈だったから｣→｢眠りに落ちた｣､(イ)｢関心が持てなかったから｣→｢眠りに落ちた｣､(ウ)｢気持ちがゆるんだから｣→｢眠りに落ちた｣､(エ)｢ほっとしたから｣→｢眠りに落ちた｣｡｢消去｣できるか？ ｢眠り｣に｢落ちた｣ことの｢理由｣なのだから、｢退屈だったから｣と｢気持ちがゆるんだから｣以外は｢消去｣できるはずだ。これで２択。続けて、｢同一場面｣から｢消去｣していきたい。直後で｢研修会で戦ってきた緊張がとけて、ただただ眠たかった｣と説明されている。よって、｢反抗期の裕也にとっては(退屈だった)｣とある(ア)ではなく、｢張りつめていた(気持ちがゆるんだ)｣となっている(ウ)が残ると判別できる。他の部分の説明も特に誤っていないので、｢答え｣は(ウ)でいい。本問は｢２段階消去｣だったが、最初に｢原意消去｣を試みることは必須だと心得よ。＜時間配分目安：１分半＞