大学教授でイタリア文学の翻訳者、そして、エッセイストでもある筆者による随筆。
パリ大学で勉強していたころに知り合った｢インセン｣という中国人女性にまつわる｢私｣の思い出が綴(つづ)られている。知らない固有名詞があるだろうが、｢*注｣を使えば内容は理解できるはずだ。多種多様な｢選択肢設問｣、｢空所補充の語句記述｣、そして、｢総合的知識問題｣等々、実に多種多様な小問が並んでいる。以下、いくつかを検討する。

[問１]　｢語句の意味の選択肢｣(全３問/各５択)　｢総合的知識問題｣
傍線部(ａ)｢ことさら｣･(ｂ)｢神妙な｣･(ｃ)｢うだつのあがらなかった｣の｢本文中の意味｣を答える。
これらの｢原意｣(本来の意味)に忠実に判別すれば何の問題もないはずなのだが、｢本文中での意味｣を意識し過ぎると間違ってしまう可能性があるので、要注意。それぞれ確認する。
｢ことさら｣＝｢わざわざ。わざと。中でも。とりわけ｣という意味なので、(ａ)の｢答え｣＝選択肢(ア)｢とのわけ｣⇒｢中学入試｣の定番だ｡
｢神妙｣＝｢おとなしくかしこまった様子｡人の知力では律せられない現象｣のこと⇒(ｂ)の｢答え｣＝(ウ)｢しおらしい｣。
｢うだつがあがらない｣＝｢地位や生活が良い状況にならない｣という意味の｢慣用句｣だ⇒(ｃ)の｢答え｣＝(エ)｢ぱっとしなかった｣になる。
こうした｢語句の意味｣では、｢本文｣の｢文脈｣に惑わされずに｢原意絶対優位の原則｣を徹底させることが肝要だ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜時間配分目安：全問で１分半＞

[問２]　｢指示語換言選択肢｣(５択)
本文中の傍線部(１)｢まだそんな時代だった｣について、｢どのような『時代』だったと『私』は考えているか｣を答える。
｢指示語換言｣はどこの学校でも定番｡｢指示語｣なので当然、前に戻りながら開いていく(｢指示語が出たら前を見よ！｣が鉄則)。ここの傍線部は形式段落冒頭なので｢前段落全ての内容を指し示す｣ということに注意しながら、読み取っていく。
｢そんな時代｣＝｢(私がいた学生寮には)パリの寮に入れてもらえなかったフランスの旧植民地出身の学生がたくさんいて、フランス人学生は肌の色の多様性にびっくりして『こんなところ、とてもいられない』といって逃げ出すこともあった時代｣だと分かる。各選択肢と照合する。
(ア)｢アジアがまだ貧しく留学生自体がまれだった時代｣､(イ)｢戦争のため東洋人への差別意識が高まっていた時代｣､(ウ)｢植民地出身者が市民として認められなかった時代｣､(エ)｢人種差別の意識が平然とあらわされていた時代｣､(オ)｢西洋が植民地政策の正当性を強調していた時代｣｡
流石(さすが)にここは、(エ)が｢答え｣だと即決できるに違いない。
尚、｢指示語換言｣では丁寧に｢指示内容｣を捉(とら)え、指示語部分への｢代入確認｣を確実にすることが肝要だと心得よ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜時間配分目安：２分弱＞

[問３(１)]　｢内容説明の空所補充語句記述｣(｢漢字２字｣指定)
本文中の傍線部(２)｢フライパンをはさんで親しくなった｣について、示されている｢具体的にはどのようなことか｣の｢説明文｣の空所に入る｢漢字二字の言葉｣を自分で考えて答える。
｢説明文｣は｢ 二字 を通して仲良くなったということ｣だ。であれば、空所には｢フライパン｣の｢換言｣が入ると分かる。｢同一場面｣で｢状況｣を確認したい(｢小説｣｢随筆｣では｢同一場面｣に｢手がかり･ヒント｣がある)。直前から、｢私たち｣(＝｢私｣と中国人の｢インセンとインイン姉妹｣)が｢学生寮のガス台をいっしょに使っていたこと｣が読み取れる。｢ガス台をいっしょに使って｣｢フライパンをはさんでいる｣のであれば、もう特定できたはずだ。
｢答え｣はたとえば、｢料理｣(調理)となる。
尚、｢小説｣や｢随筆｣では｢同一場面｣から正確に｢状況｣を読み取ることが重要だ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜時間配分目安：１分半＞

[問３(２)]　｢内容説明選択肢｣(５択)
本文中の傍線部(２)｢フライパンをはさんで親しくなった｣について、｢この部分からわかることの説明｣を答える。
｢選択肢設問｣は｢消去法｣が原則｡先ずは｢原意消去｣を試みたい(｢原意絶対優位の原則｣＝｢設問｣｢傍線部｣等の｢原意｣、要は｢本来の意味｣を最優先に考えること)｡ここは｢内容説明｣なので、｢フライパンをはさんで親しくなった｣の｢原意｣と結びつかない｢説明｣を｢消去｣していく。通常は各選択肢説明の｢文末｣と照合するが(選択肢説明でのポイントは｢文末｣だ)、ここは各｢説明｣がとても短いので、全文を確認する。
(ア)｢肌色の近さがアジア人の強固な仲間意識につながっていたということ｣､(イ)｢同じアジアの文化を共有する者同士が連帯していたということ｣､(ウ)｢西洋人と親しくするとアジア人の仲間には入れなかったということ｣､(エ)｢偏見から身を守るためにアジア人同士で団結していたということ｣､(オ)｢アジア人はやはり西洋の気候風土にはなじめなかったということ｣｡
さあ、どうか？ 前問で確認したように、｢私たち｣(アジア人)が｢料理｣という｢文化｣を通して｢親しくなった｣のだから、(イ)以外は｢消去｣できると判別できなくてはいけない。よって、｢答え｣は(イ)になる。
なんと、いきなりの｢一発消去｣ではないか！ ｢選択肢設問｣では先ず｢原意消去｣を試みることが鉄則だと心得よ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜時間配分目安：１分強＞

[問６]　｢理由説明選択肢｣(５択)
本文中の傍線部(５)｢わたしがだめになったわけじゃないもの｣について、｢インセンがこのように述べる理由｣を答える。
無論、先ずは｢原意消去｣を試みる｡ここは｢理由説明｣なので、｢わたしがだめになったわけじゃない｣の｢直接的理由｣として結びつかない｢説明｣を｢消去｣していく。
各選択肢の｢文末｣⇒だから⇒｢わたしがだめになったわけじゃない｣と結びつくかどうかで確認する。
(ア)｢東洋人差別の結果だから｣､(イ)｢すべてが決まるわけではないから｣､(ウ)｢技術を生かしたいと思っていたから｣､(エ)｢落第なんてたいしたことではないから｣､(オ)｢不自由なく生活することはできるから｣｡
｢だめになったわけではない｣ことの｢直接的理由｣であれば、｢決まるわけではないから｣以外は｢消去｣可能だと分かるはずだ。念のために、他の部分の説明を｢同一場面｣で確認する(｢小説｣｢随筆｣では｢同一場面｣に｢手がかり･ヒント｣がある)。特に誤ってはいないことが分かる。
よって、｢答え｣は(イ)でＯＫだ。
いま再びの華麗なる｢一発消去｣！ ｢原意消去｣を完全にマスターし、応用できるようになることが｢本校合格へのショートカット｣だ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜時間配分目安：１分程度＞

※尚、[問８]は｢本文内容合致選択肢｣(５択)の問題だ。｢論説文｣であれば｢論旨合致｣なので、｢序論部分｣および｢結論部分｣との照合で判別可能だ｡しかし、本問のような｢随筆｣や｢小説｣では｢本文全体｣と照合して判別する必要があるので、とても手間ひまがかかる。｢戦術｣としては｢あとまわし｣にする方がいい。無論、｢捨て問｣でも構わない。

マルクスの｢資本論｣は誰もがその存在を知りながら、難解･長大なためにほとんど誰もが読み通せない――そうした状況の中で、筆者がマルクスの手稿研究で見出した｢物質代謝｣という観点から、｢資本論｣のエッセンスを、その現代的な意義とともに丁寧に解説している。
本文では、現代の資本主義社会の状況について、商品の｢使用価値｣と｢価値｣という側面から説明している。専門用語や難解な語句が多々あるが、13ある｢*注｣を活用して内容を理解してほしい。３つの小問は全て、示されている｢説明文｣の｢空所補充｣という設問形式で、｢文脈｣に即して｢説明記述｣か｢抜き出し｣で完成させるもの。難問ぞろいだ。１問を検討したい。
尚、問題文は。前半の Ⅰ と後半の Ⅱ とに分かれている。

[問３]　｢換言説明の空所補充の条件付き抜き出しと説明記述｣(全４問。｢説明記述｣３問と｢抜き出し｣１問)
本文中の傍線部(３)の｢不思議な事態｣とは｢どういうことか｣を｢説明した文｣の空所 Ａ ･ Ｂ ･ Ｃ ･ Ｄ にあてはまる｢説明記述｣･｢抜き出し｣を、解答用紙の指示通りに入れて｢説明文｣を完成させる。
｢説明文｣は、｢生産活動の目的は、 Ａ (｢15字以内｣指定)から Ｂ (｢15字以内｣指定)へと変化したが、 Ｃ (｢15字以内｣指定で、｢変動｣という言葉を必ず用いる)できないので、 Ｄ ( Ⅱ 文中からの｢15～20字以内｣指定の｢抜き出し｣で｢最初と最後の５字｣)状況になったということ｡｣となっている。
さて、どうするか？ 何をどう考えればいいのか？ 先ずは、｢傍線部一文一部の法則｣に｢手がかり｣を求めたい(｢傍線部が一文の一部分だった場合、傍線部以外が重要｣という読解の基本となる解法)。直前に｢そのような(不思議な事態)｣とある｡ラッキーだ。要は、｢不思議な事態｣＝｢そのような事態｣、｢指示語換言｣だ。｢そのような｣は形式段落冒頭にあるということを意識して前段落から読み解いて開いていく。｢そのような事態｣＝｢『使用価値』のために物を作っていた時代は人間が『物を使っていた』が、『価値』のためにモノを作る資本主義のもとでは立場が逆転し、人間がモノに振り回され、支配されるようになったという事態｣となる。この指示内容を、示されている｢説明文｣の｢文脈｣に対応するように｢空所補充｣することになる。
 Ｄ の｢抜き出し｣はすぐに特定できるはずだ。指示内容は Ⅱ 文中であり、｢文末部分｣が Ｄ の｢状況になったということ｡｣に対応しているわけなので、｢指定字数｣を勘案すると｢人間がモノに振り回され、支配される(状況になったということ)｣(17字)を抜き出すことになる。よって、 Ｄ の｢答え｣＝｢人間がモノ～支配される｣になる。
次は、｢生産活動の目的｣が｢ Ａ から Ｂ へと変化した｣が分かりやすい。指示内容の最初の部分である｢『使用価値』のために物を作っていた時代から『価値』のためにモノを作る資本主義への変化｣と対応していることが読み取れる。 Ａ ･ Ｂ それぞれの｢文脈｣と｢指定字数｣に合致するように、｢同一意味段落｣を読み取りまとめていく(｢論説文｣｢説明文｣では｢同一意味段落｣に｢根拠･手かがかり｣がある)。たとえば、｢『使用価値』のある物を作ること｣(15字)が Ａ の｢答え｣で、｢『儲かりそうな』モノを作ること｣(15字)が Ｂ の｢答え｣となる。
で、問題は Ｃ だ。指示内容には｢人間がモノに振り回され、支配されるようになる｣ことの直接的理由は述べられていないのだ。そこで改めて、｢条件｣である｢変動｣という言葉を｢手がかり｣として｢同一意味段落｣を読み解いていきたい。すると、｢資本主義のもとでは商品の『価値』がどのように変動するか予測できない｣ということが分かる。これだ。｢資本主義｣のこの特性ゆえに｢人間がモノに振り回され、支配されるようになる｣わけだ。したがって、たとえば、｢作ったものの価値の変動は予測が(できないので)｣(15字)が Ｃ の｢答え｣だ。
本問は相当に難解だった。
尚、｢条件｣は｢手がかり･ヒント｣でもあると心得よ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜時間配分目安：全問で20分ほど＞

｢総合的知識問題｣｡
｢漢字の読み書き｣(７問)と｢ことわざ･慣用句の空所補充漢字選択肢｣(２問)だ。近年、難易度は｢隔年現象｣が続いている。難易度が下がった昨年度に対して、本年度はやや難解だ。だが、本校志望者であれば失点は避けたい。以下、チェックしておく。

[問１]　｢漢字の読み書き｣(全７問。｢書き取り｣６問と｢読み｣１問
｢送りがな｣が含まれるものは｢ひらがな｣でつけること。６年続けて｢送りがな｣まで求められているので、注意すること。やや悩ましいものだけチェックする。
① ｢他人にキガイを与える｣＝｢危害｣⇒｢文脈｣を正確に読み取ること＝｢身体や生命に及ぼす危険･損害｣のこと。
③｢飛行機のソウジュウシ｣＝｢操縦士｣⇒｢｢縦｣｣は｢16画｣、丁寧に記すこと。
④｢消化キカン｣＝｢器官｣⇒｢中学入試｣では頻出、｢同音異義語｣に注意せよ。
⑤｢司会をツトメル｣＝｢務める｣⇒｢同訓異字｣に要注意。
⑦｢養生する｣＝｢ようじょう｣⇒｢中学入試｣の定番。
ひとつでも曖昧(あいまい)なものがあった諸君は｢語彙力不足｣だと認識せよ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜時間配分目安：全問で２分＞

[問２]　｢ことわざ･慣用句の空所補充漢字判別選択肢｣(全２問/７択/複数完全解答)
示されている｢ことわざ･慣用句｣の空所□に｢入る語｣をそれぞれ考え、｢二回以上使われているもの｣を(ア)～(キ)の中から｢二つ｣答える。
各選択肢は、(ア)｢目｣･(イ)｢鼻｣･(ウ)｢耳｣･(エ)｢口｣･(オ)｢胸｣･(カ)｢手｣･(キ)｢足｣。それぞれの｢ことわざ･慣用句｣を確認し空所部を特定したい。
･｢できることが全くない状態｣＝｢ 手 も 足 も出ない｣。
･｢言葉を使わずに気持ちを表現する｣＝｢ 目 は 口 ほどにものを言う｣。
･｢心を落ち着かせる｣＝｢胸に 手 を置く｣。
･｢非常に距離が近い｣＝｢ 目 と 鼻 の先｣。
･｢世間に衝撃を与える｣＝｢ 耳･目 をおどろかす｣。
したがって、｢答え｣は(ア)の｢目｣と(カ)の｢手｣になる。
尚、本校では｢慣用句｣に限らず、｢故事成語｣｢四字熟語｣などについても完璧に定着させておくことが必須だ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜時間配分目安：全問で３分程度＞