小学１年生の｢あみ子｣の純粋な行動が、優しい父、一緒に登下校をしてくれる兄、書道教室の先生をしている母、憧れの同級生｢のり君｣などを否応なしに変えていく過程を､少女の無垢(むく)な視線で鮮やかに描いた作品。本文では、｢のり君｣に初めて話しかけられた｢あみ子｣が興奮して迷子になってしまう様子が描かれている。読みやすい文体で、内容も問題なく理解できるはずだ。｢選択肢｣や｢本文合致｣に本校らしさが表れている。以下、いくつかを検討してみる。

[問一]　｢漢字の書きとり｣(全４問)。
さほど難しいものはない。本校志望者であれば｢全問正解｣といきたいが、①｢ホウベン｣(＝｢方便｣)は悩ましいか？　知らなかった諸君は、｢ある目的のために用いられる一時的な手段｣という｢意味｣も合わせて覚えておきたい。また、④｢塀(へい)にソって｣(＝｢沿(って)｣)は｢同訓異字｣に要注意。
＜時間配分目安：１分以内＞

[問二]　｢内容説明選択肢｣(５択)。
傍線部(１)｢ぼんやりした頭の中は目の前の男の子ひとりで満ちていた｣について、｢この時の『あみ子』についての説明｣を答える。｢選択肢設問｣は｢消去法｣が原則｡先ずは｢原意消去｣をしたい(｢原意絶対優位の原則｣＝｢設問｣｢傍線部｣等の｢原意｣、要は｢本来の意味｣を最優先に考えること)｡各選択肢の｢文末｣(｢選択肢｣の説明で最も重要な要素は｢文末｣に記されている)が、｢目の前の男の子ひとりで満ちていた｣｢ぼんやりした頭の中｣に結びつかないものを｢消去｣する。各選択肢は、(ア)｢強い感動を覚えている｣、(イ)｢何も考えられなくなっている｣、(ウ)｢強い憧(あこが)れを抱いている｣、(エ)｢見つめることしかできなくなっている｣、(オ)｢呆然(ぼうぜん)と立ち尽くしている｣｡であれば、｢頭の中｣が｢ぼんやり｣なのだから、(イ)以外は｢消去｣できなくてはいけない。(イ)は他の部分の説明も特に誤ってはいない。従って、｢答え｣だ。｢一発消去｣！　｢原意消去｣、十分に活用すること。
＜時間配分目安：１分半＞

[問五]　｢内容説明選択肢｣(５択)。
傍線部(４)｢『のり君』､はっきりと声にだして言ってみた｣について、｢この時の『あみ子』についての説明｣を答える。先ずは｢原意消去｣｡各選択肢の｢文末｣が、｢はっきりと声にだして言ってみた｣に結びつかないものを｢消去｣したい。各選択肢は、(ア)｢驚きをかくせずにいる｣、(イ)｢胸がいっぱいになっている｣、(ウ)｢事実をかみしめている｣、(エ)｢頭がいっぱいになっている｣、(オ)｢がっかりしている｣｡傍線部直前から、この言葉は｢『あみ子』のひとり言｣だと分かり(｢小説｣では｢同一場面の直前直後｣に｢手がかり･ヒント｣がある)、｢はっきりと｣｢言ってみた｣のだから、(ウ)以外は｢消去｣できるはずだ。他の部分の説明も特に誤ってはいない。従って、｢答え｣は｢(ウ)｣｡またしても｢一発消去｣｡｢原意消去｣を確実に応用できるようにしておくこと。
＜時間配分目安：１分半＞

[問六]　｢理由説明記述｣(｢41～50字以内｣指定)。
傍線部(５)｢抑えられない興奮で、体の中が高音を上げてはじける感覚を味わった｣について、｢なぜか｣を説明する。先ずは、｢直接的理由｣(｢理由説明｣で最も重要な要素)を特定したい。直前を確認する。｢話しかれられた｣とある。それが｢きっかけ｣＝｢直接的理由｣だと分かるはずだ。誰に？⇒その前は｢のり君が口を開いた｣となっている。つまり、｢のり君｣に｢話しかれられた｣ことが｢直接的理由｣だ。また、｢抑えられない興奮｣｢はじける感覚｣ということは、この前から｢興奮｣していたということになる。それはなぜか？(｢間接的理由｣だ)｡さらに、｢同一場面｣をさかのぼると、｢同じ顔｣が｢そこにあることが嬉しかった｣とある。無論、｢のり君｣の｢顔｣だ。では、どうして｢のり君の顔が『嬉しく』て『興奮』｣するのか？　改めて、前を確認すると｢四ヶ月前の｣｢夏の日の夕方に｣｢顔を合わせてから｣｢二人きりになったことはなかった｣と説明されている。つまり、その頃から｢のり君｣を意識していたわけだ。整理してみよう。｢四ヶ月前｣から｢意識｣していた｢のり君｣の｢顔｣が｢そこ｣にあって｢嬉しく｣､しかも、｢話しかれられた｣⇒｢はじける感覚を味わった｣とつながると判断できる。以上を､的確にまとめていけばいい。たとえば、｢四ヶ月前から意識していたのり君がすぐ近くにいてうれしい上に、話しかけられて喜びがあふれ出したから。｣といった｢答え｣となる。｢文脈｣をたどっていくことが肝要だ。
＜時間配分目安：３分半＞

[問七]　｢本文合致選択肢｣(５択)。
｢この文章に関する説明｣として｢最もふさわしいもの｣を答える。｢小説｣の｢本文合致｣では、｢本文｣の｢内容｣や｢表現技法｣に関する選択肢説明の｢キーワード｣に着目して、｢合致｣するかどうかを判別していきたい。各選択肢を確認する。
(ア)｢明るく前向きに学校生活を送り始める｣⇒そうした様子は描かれていないので｢不適切｣｡(イ)｢口数の少ないあみ子｣⇒｢母とのやりとり｣などから｢不適切｣｡(ウ)｢母の発言の『です･ます』調はあみ子との親密さが反映｣⇒｢あみ子｣を｢厳しく問いただしている｣ので｢不適切｣｡(エ)｢のり君や兄に対するあみ子の気持ちが詳細に描き出されている｣⇒｢兄｣に対する気持ちはほとんど描かれていないので｢不適切｣｡(オ)｢比喩表現や色彩表現であみ子の感性が効果的に描き出されている｣⇒｢黒いよだれのよう｣｢体の中身が高音を上げてはじける感覚｣といった｢比喩｣や、｢ピンクの運動靴｣｢茶色い土｣｢白い壁｣｢黒いインク｣などの｢色彩｣が効果的に描かれている＝｢適切｣なので｢答え｣になる｡尚、｢小説｣の｢本文合致｣は解くのに時間がかかるので、｢戦術｣としては｢後回し｣にする方がいい。
＜時間配分目安：３分半＞

｢スゴイ自分｣(=幻想)を保つためなら何でもする――急増するひきこもりや新型うつ病、何でも他人のせいにするクレーマーなど、ありのままの自分を受け入れられない｢成熟拒否｣の状況を、精神分析の視点で論じている。本文では、戦後の豊かな民主主義社会の中で｢他責的｣な人々が増えたことを分析し考察している。｢専門用語｣や難解な｢語句｣も多い｡完璧ではなくとも、何とかおおよその内容を理解するようにしたい。｢空所補充｣などに本校らしさが表れている。以下、いくつかの｢設問｣を考えてみよう。

[問一]　｢漢字の書きとり｣(全４問)。
意外と難問だ。｢論説文｣特有の言い回しが多く、｢熟語｣の特定に悩むはず｡①｢若者をトウゴウするスローガン｣(＝｢統合｣)､②｢異論のヨチはない｣(＝｢余地｣)､③｢忠実にこなすことがビトクとされ｣(＝｢美徳｣)､④｢ヨウイに反転しえる｣(＝｢容易｣)｡本校では､｢論説文｣を読み慣れておくことが求められる。
＜時間配分目安：１分以内＞

[問四]　｢換言説明選択肢｣(５択)。
傍線部(３)｢自己愛的な万能感も肥大する｣について、｢どういうことか｣を答える。無論､｢原意消去｣から｡傍線部の｢文末｣である｢肥大する｣の｢原意｣に合致しないものを｢消去｣したい。各選択肢の｢文末｣は、(ア)｢広まっていく｣、(イ)｢増える｣、(ウ)｢多くなる｣、(エ)｢感じるようになる｣、(オ)｢過信するようになる｣｡(エ)は即｢消去｣できるはずだが、他は無理だ。次に、傍線部の｢自己愛的な万能感｣での｢消去｣｡(ア)｢誰でも夢はかなう｣⇒｢自己愛｣ではない、(イ)｢努力する｣⇒｢万能感｣と結びつかない、(ウ)｢探る｣⇒｢万能感｣と結びつかない、(オ)｢自分なら何でもできる｣⇒｢自己愛的な万能感｣とつながる。よって、｢答え｣は｢(オ)｣だ。このような｢段階的消去｣の手法も身につけておくこと。
＜時間配分目安：２分半＞

[問五]　｢換言説明記述｣(｢31～40字｣指定)。
傍線部(４)｢『他責』｣について、｢どのようなものか｣を説明する。ほとんど聞いたことのない言葉のはずだ。｢手がかり｣を｢傍線部一文一部の法則｣(｢傍線部｣が｢一文の一部分｣だった場合、｢傍線部以外が重要｣という｢最重要解法｣)に求める。直前から、｢他責｣＝｢自己責任｣の｢反転｣したものだと分かる。要は｢他者に責任転嫁する｣ことだ。次に、説明すべき内容を｢同一意味段落｣で確認したい(｢論説文｣では｢同一意味段落｣に｢根拠･ヒント｣がある)｡前段落及び前々段落から、｢人生の主人公｣となった｢人間｣は｢自己責任の重圧｣を｢背負いきれなくなって、責任転嫁している｣といった｢内容｣が読み取れるはずだ。これらを｢過不足なく｣まとめていく。たとえば、｢人生の主人公になった人間が自己責任の重圧を背負いきれずに他者に責任転嫁すること。｣といった｢答え｣になる。｢文章内容｣に即した｢解法｣を的確に用いて読み解いていくことが肝要。
＜時間配分目安：３分半＞

[問七]　 ｢空所補充の組み合わせ選択肢｣(５択)｡
本文中に２つある空所｢     １     ｣｢    ２     ｣に当てはまる｢それぞれの章の見出し｣の｢組み合わせ｣を答える。ユニークな問題だ。｢組み合わせ｣なので、特定しやすい方で｢消去｣したい。｢     １    ｣は本文冒頭で、直後に｢他責的な人が増えたのは、……｣とある。｢増えたのは｣ということは、｢問い｣に対する｢答え｣だと分かるはず。であれば、｢見出し｣が｢問い｣になっているのが自然だ。選択肢としては、(イ)の｢なぜ他責的な人が増えたのか？｣と(ウ)の｢実現すべき自己などあるのか？｣に絞られる。｢他責的な人が増えたのは｣なので無論、(ウ)は｢消去｣可能。｢     ２     ｣について(イ)では｢自分が『空っぽ』であることを受け入れられない｣となっている。｢第２章｣の｢内容｣に合致している。よって、｢答え｣は｢(イ)｣｡｢組み合わせ選択肢｣ではその特性を十分に活用すること。
＜時間配分目安：１分＞