第1回 単語編 : 語彙増強は同義語・類義語を巻き込んで螺旋的に!
私大の頂点 早稲田・慶応、そして高倍率の難関医学部——毎年、多くの受験生が挑む目標である。強固な意志を持って着々と準備をしている人、憧ればかり先立ってなかなか勉強がはかどらない人——いろいろな受験生がいるだろう。長年の指導経験から言えるのは、どんなタイプの人にも共通するある大事なことが受験英語には存在する、ということだ。この度は早稲田家庭教育センター会員の皆様に、筆者が培ったノウハウの一部を提供する機会に恵まれた。テーマごとに、そのある大事なことをお届けしていきたいと思う(全5回予定)。それは楽な道でもなければ裏ワザでもないが、難関大合格への王道と呼ぶべきものだ。
さて、実際の入試問題を見れば一目瞭然であるが、難関大の英語では長文問題の攻略が不可欠である。とにかく膨大な量の英文を素早く読まなければならない。しかし、純粋な意味での速読力とは別に、設問に手際よく答える力も要求される。全文を丁寧に読んでいては時間切れになってしまうことも事実なのだ。そこで、できる限り無駄を省き、短時間で確実に解く方法を身につけておくことがとても重要になる。
実際に、最近の入試問題を見ながらそのセンスをつかんでほしい。(以下、長文問題からの一部抜粋)
早稲田〔文学部〕2008年
1. A new sexual division of work gradually took ( ).The men were regarded as the family's main income earners and the women were consequently left with very few work opportunities.
(a) apart (b) away (c) out (d) over
2. This new phenomenon, the ( ) of sexual roles, had several features worth noting. In the first place, married women were far less likely to take full-time jobs outside the house after they had the first child.
(a) appearance (b) concentration (c) enhancement (d) redistribution
3. Lastly, almost all the women ( ) up taking poorly paid jobs with no future prospects.
(a) came (b) ended (c) gave (d) lined
志望校への最短距離を
プロ家庭教師相談
慶応[医学部]2009年
1. He cried out, "That's who we want!" The remaining seventeen players, waiting their ( ) to audition, were sent home.
(1) application (2)line (3)turn
2. She was to be ( ) to second trombone, she was told. No reason was given.
(1) delegated (2) demoted (3) promoted
3. She scored well above ( ). The nurse even asked if she was an athlete.
(1) average (2) balance (3) point
解答と解説
早稲田〔文学部〕2008年
1.(d) take over 優勢になる【優越】が正解。お馴染みのget over 克服する からこの熟語の意味は類推できよう。他はtake apart 分解する【分離】 take away 持ち去る【遠く】 take out 持ち出す【外に】。いずれも文脈に合わない。
2.(d) redistribution再編成 が正解。re-(再び)+distribution(分配) 女性は出産後パートになりがちという文から男女の労働分担の再編成をもたらしたものは、性的役割の再分配という文脈が浮かび上がる。他は appearance出現 concentration 集中 enhancement 増進。いずれも文脈からずれている。
3.(b) end up~ing 結局~することになる が正解。Lastlyと呼応している。他はcome up 昇進する、やってくる
give up~ing ~することを諦める line up(for)~を求めて列に加わる。いずれも文脈に合わない。
<設問の傾向>
他の設問では以下の語句について出題されている(紙面の都合上、問題は割愛する)
previously 以前は
直前のgreat change を受ける。
irrelevant of one's sex
(仕事は)性別に関わりなく(割り当てられる)。
least fortunate families
(女性労働者は)もっとも恵まれない家庭(の出だった)。
Men dominate chances of getting better paid jobs
男性はより高収入の仕事に就くチャンスを独占する。
⇒産業革命以降に発生した男女の新たな労働分担がテーマ。早稲田特有の論理展開を重視した出題であり、かつ基本的重要語法に忠実な出題傾向である。全体の問題量が多いので省エネ読みのテクニックが必須といえる。
慶応[医学部]2008年
1.(3) turn 順番 女性トロンボーン奏者コナンがオーディションを受けた時、その素晴らしさに即採用が決定した時の様子。他はapplication 申し込み line 列。「オーディションの自分の〔申し込み・列〕を待っている残りの17人は帰された。」では不自然である。
2.(2) demote降格する de(下降)+mote(動く) Jリーグで聞いたことがあるかもしれない。第二奏者、理由を告げられず等の記述から判断できよう。他はdelegate派遣する promote昇進する。どちらも文脈にあわない。
3.(1) average平均 アスリートの検査数値は、平均を大きく上回るのが普通であることから容易に判断がつく。
<設問の傾向>
他の設問では以下の語句について出題されている(紙面の都合上、問題は割愛する)
invisible 見えない
make them invisible to the selection committee 彼らが選定委員達に見えないようにする。直前のplay behind a screen がヒント。
fairness 公平
for the sake of fairness 公平を期すために。
oxygen 酸素
her capacity for absorbing oxygen 彼女の酸素摂取能力。
objectiveness 客観性
under conditions of perfect objectiveness 完全に客観的条件下で。
(以上4問は太字部分を完成する問題)
likewise 同様に
日本人がヨーロッパの魂を表現できないのと同様に女性はトロンボーンを演奏できない。
plaintiff 原告
defendant(被告)の反意語 コナンは差別を不当だと訴えた原告。
single out 選定する
single out Conant for praise コナンを称賛の対象として選ぶ。
⇒女性トロンボーン奏者コナンの差別に対する闘い、というテーマに沿って一貫して設問が作られているのが分かる。問われている単語も大体が見慣れたもので、いたずらに難しい単語を覚えるよりも、テーマを念頭に置き文脈の中でのキーワード押さえることがポイント。全医学部中最難関のひとつだが、文脈を重視した出題の意図は明確であり、攻略法を知れば合格突破も決して夢ではないことがわかるだろう。
長文中の単語問題というカテゴリについては、以下のようにポイントをまとめることができる。
<長文中の単語問題のポイント>
1.選択肢の単語を熟視してイメージをはっきりさせ、最適な慣用表現を完成する。
2.知らない単語は接頭(尾)語・語幹から意味を類推し、前後の文脈から最も自然なものを選ぶ。
3.日頃から単語の意味用法に注意し、テーマを念頭に置いて論理的に文を読むよう心がける。
王道を行くための条件
「学問に王道なし」とよく言われる。これはギリシアの数学者ユークリッドがエジプト王プトレマイオス1世に言ったとされる“There is no royal road to learning” という一文に由来する。我が国ではroyal road が「王道」と訳されたわけだが、この語のより正確なニュアンスは「王様の特権的な道」「楽な方法」といったところだ。したがって「学問に近道なし」と訳した方が、ユークリッド本来の意図に近かったであろう。
ユークリッドの意図はともかく、「受験勉強に近道はなくとも、王道はある」というのが私の持論である。正攻法と言ってもよいだろう。それは決して楽な道ではないが、多くの人に妥当で、後々まで役に立つ本質的な勉強方法である。受験生諸君には是非その王道を歩んで欲しいと思う。
王道を歩むための基礎体力として、まず必要なのが語彙力である。語彙力なくしては文法・長文読解・英作文などの対策をすることも難しい。そこで単語集の出番となるが、お勧めのものをいくつか紹介しよう。
(※中学レベルの単語が怪しい人は、先に高校受験用の単語集でチェックを済ませることをお勧めする)
数ある単語集の中で、もっとも王道にふさわしいのは、『システム英単語』(駿台文庫)である。MINIMUL PHRASESにより、例文暗記の負担が軽減され、かつ出題頻度の高いフレーズと語義に絞られておりあくまで実戦的である。誤りやすい派生語、発音アクセントの注意喚起も的確。CDを併用すればリスニング力アップにつながるし、英作文にもそのまま使えるので一石三鳥である。長文読解の時、テキストの単語リストにシステム英単語のフレーズを書き加える作業によって単語の記憶が確実になり、かつ読解の質も向上するので書き込みはぜひ取り入れたい。
もう一点,ジーニアス英和辞典になじんでいる人は、『ジーニアス英単語2200』(大修館)で仕上げるのもよいだろう。レベル別・品詞別に配列されているので短期間でも学力レベルに応じて取り組め、標準的だが厳選された例文は解釈力と作文力のチェックに役立つ。同意語が充実しているので、高一のころからミニ辞典として使いこめば安定した力が身につくことは間違いない。
医大の単語対策としては、『医歯薬系の英語』(Z会)の33の英文中の太字語句をマスターするのが王道である。標準的医系論文を読む力はこの一冊で十分。より特化した『合格する!医歯薬への英語』(東京コア)をマスターすれば国立レベルまでカバーできる。2冊とも医大入試問題に対応したテストに取り組むことで、得点力は飛躍的にアップする。いきなり赤本に取り組んではじき返されないよう、ウオーミングアップは入念に行ないたい。
語彙力を伸ばすコツ
1.同意語・類義語の違いを知ろう
例えば、英語で「大きい」と言えば、大きさや量を示すbigやlargeは誰でも知っている単語だ。簡単な語ではあっても、You 're a big boy now.(もう大きいのだから)そんなことをしてはダメだよ have a large family 子だくさんである to a large extent 大いに などの注意すべき表現は、しっかりチェックすること。そして、類義語をおさえよう。「大きい」の類義語としては、huge 巨大な a huge tanker 巨大タンカー gigantic 巨人のような a gigantic wrestler巨人(giant)のようなレスラー vast 広大な the vast land of Russia ロシアの広大な土地 immense 莫大な immense store of knowledge (途方もない)博識 などがある。それぞれの微妙なニュアンスの違いや用法を整理して覚えれば、語彙力は着実に伸びていく。
もう一つポピュラ—な単語にgreat 偉大な がある。こちらは大きさだけでなく精神的にも卓越したニュアンスがある。Great hopes make great men大いなる希望は偉大な人物を作る be of great importance(=be very important)非常に重要である That's great とても良い などは入試頻出表現。さらに類義語として、magnificent 壮大な〔magni(大きい)magnifying glass拡大鏡、magnitudeマグニチュード、重要性〕やtremendous とてつもない〔tremble震える〕tremendous amount of energyとてつもない量のエネルギー などがある。それぞれ接頭語を知っていると、単語イメージをつかみやすい。
2.接頭語・接尾語・語幹に注目
UFOは何の略語か知っているだろうか?そう、Unidentified Flying Object (未確認飛行物体)。un-は否定、反対を示す接頭語、identifyは確認する、接語尾の -edは完了、受動を示す。Flying の -ingは進行、能動を示す。これら接頭語・接尾語・語幹のパターンを覚えれば、知らない単語の意味を類推することも可能だ。
un-の例として、unfinished 未完成の unlock 鍵を開ける undo取り消す(What's done cannot be undone覆水盆に返らず)など。identifyの派生語としてidentity 身元・独自性、identification 身分証明 がある。fly 飛ぶものには野球のフライもあればfly fishing(毛ばり釣り)、更には ハエ〔同音異義語〕もある。ちなみに陸上競技のフライングはfalse start 。フライドポテト French fries〔類音〕等も一緒に覚えてしまおう。