大学受験プロ家庭教師 弱点克服・志望校入試傾向対策

第3回 長文編 : ディスコースマーカーに注目し、論型を識別せよ!

英語長文は常に入試の首座を占めて来た。英語は理数系・文科系いずれにおいても重視されており他教科に比べて配点も高いことから、英語の長文問題の出来が入試の合否を決定するといっても過言ではないだろう。早慶に限らないが最近の英語長文問題の特徴として以下の3点があげられる。
 
1. テーマの多様性
2. 出題形式の多様化
3. 文章の長大化

以下最近の入試傾向を分析し、実戦的な対応策を述べてみよう。

1.テーマの多様性
 大学入試で出題される英語長文問題のテーマが極めて多岐にわたるのは、東西冷戦構造の崩壊に伴い顕在化したグローバリゼーション(地球一体化)と、それに呼応するかのように進行した各分野のクロスオーバー(混交)現象と密接なかかわりがあり、現在の大学で扱う諸問題が極めて今日的であることを反映している。お馴染みの環境論やゲノム(遺伝子)論は言うに及ばず南北格差、いじめ問題から、携帯電話、がん治療法や思考法さらにはビジネスモデルに至るまでありとあらゆる話題が取り上げられる。代表的なテーマに関しては過去問や長文読解テキストの演習を行って一通りあたっておくべきだし、英文でなくても日頃からTVニュースや報道番組、新聞や新書等で現代社会の諸問題の核心と背景を知っておく必要がある。

2.出題形式の多様化
 早慶では一部の学部を除き①内容真偽問題、②内容一致完成問題、③語句空所補充問題、④1~3の複合総合問題、⑤1000語を超える超長文問題1~2問(早稲田の国際教養、慶応の文、環境情報、総合政策)がほぼ例年共通した出題形式である。設問も英文で書かれている学部(早稲田の政経、理工、慶応の法など)は文字通りEnglish Examinationスタイルの出題であり、日本語を交えず反応するモードに切り替えることが絶対に必要である。
 早慶の出題形式は学部ごとにほぼ固定化しているが、医学部は数年ごとに変わる傾向がある。また傾向自体は変わらずとも、配分比率が変わることがある。例えば東京医科歯科大の要約問題はかつての600字から300字に減ったが、そのぶん内容真偽問題の10選択肢が24選択肢に増え、記述重視から客観問題とのバランス重視に変わってきた。私立の東京医科大の内容真偽問題でもかつて10−15選択肢程度だったのが30選択肢にも増えた経緯がある。かなりのスピードと集中力が要求されるが、反応が早いタイプの受験生であれば過去問を繰り返し解き、コツをつかむことで、逆に得点源とすることも可能であろう。

3.文章の長大化
 現代の情報が従来の書籍・新聞だけでなくインターネットによるものが多くを占めるようになってきたことと大いに関係がある。研究対象としての文章というより、諸テーマの情報源としてデータや論文が取り上げられ、勢い膨大な量の英文に目を通す必要が生じる。更にどの業種においても海外との交信・打ち合わせが英語で行われるケースが格段に増えてきた。プレゼンテーションの場においても英文資料をもとに進める必要性は高まってきている。このような実社会の要請を受けて大学で身につけるべきものには、一般教養と専門知識のみならず実務的コミュニケーション能力が加わったのである。ここでどうしても要求されるのが文章のポイントを全体の流れの中で的確に判断する速読力である。

 早稲田の法・政経・商・理工・国際教養、慶応の法・経・商・総合政策・環境情報はいずれも膨大な文章量で受験生を圧倒する。これを攻略するのは誰にとっても容易ではないが、以下に2008年度入試問題から一部抜粋してその攻略法を述べてみよう。

早稲田〔理工〕2008年

Reed the passages and answer questions 1-15. Choose the best answer from (a)-(d) for each question.

Great business leaders have been shown to solve problems through integrative thinking rather than conventional thinking. What does the process of integrative thinking look like? How do integrative thinkers, as compared to conventional thinkers, consider their options in a way that leads to new possibilities and not merely back to the same inadequate alternatives? They work through four related but distinct stages.
(A) Determining salience. The first step is figuring out which factors to take into account. The conventional approach is to discard as many as possible-----or not even to consider some of them in the first place. In order to reduce our exposures to uncomfortable complexity, we keep only salient feature when considering an issue.
The integrative thinker, by contrast, actively seeks less obvious but potentially relevant factors. Of course, more salient features make for a messier problem but integrative thinkers don't mind the mess. In fact they embrace it, because it assures them that they haven't dismissed anything that may illuminate the problem as a whole. They welcome complexity, because that's where the best answers come from. They are confident that they'll find their way through it and (1) emerge on the other side with a clear resolution.
(B) Analyzing causality. In the second step of decision making, you analyze how the numerous salient factors relate to one another. Conventional thinkers tend to take the same narrow view of causality that they (2) do of salience. When we make bad decisions, sometimes it is because we got the casual links between salient features wrong. It could also be because we may have been right about the direction of a relationship but wrong about the magnitude.
(以下略 英文1ページ)

1. Which of the following is closest in meaning to (1) emerge on the other side?
(a) change from conventional thinking to integrative thinking
(b) put the mess in order
(c) see their destination
(d) understand the problem with a lot more mess

2. What do conventional thinkers (2) do of salience?
(a) do away with relationships
(b) discard many factors
(c) try to remain salient
(d) ignore salient factors
 
3. 4略
 
5. What is meant by (A) Determining salience for both conventional and integrative thinkers?
(a) discarding as many factors as possible
(b) identifying relevant factors
(c) increasing exposure to complexity
(d) searching for obscure factors
 
6. What is meant by (B) Analyzing causality for both conventional and integrative thinkers?
(a) questioning the validity of relationships
(b) deciding the magnitude of all existing relationships
(c) identifying non-linear relationships between factors
(d) determining the relationships between salient factors

7−11略
1ページの内容読解問題

12−15略
2ページ強の内容一致完成問題    

〔全訳〕
 実業界の主要な指導者たちは伝統的思考よりもむしろ総合的思考によって問題解決を図ることが分かって来た。総合的思考の過程はどのようなもののだろうか。伝統的思考をする人たちに比べ総合的思考をする人たちは、新たな可能性を導き、従来の不十分な選択肢にただ戻るのではない方法で、どのように自分の選択肢を検討するのだろう。彼らは関連してはいるが異なる四つの段階を通り抜ける。
 (A)顕著な点を見定める。第一段階はどの要因を考慮にいれるかを理解することだ。伝統的方法では出来るだけ多くの要因を捨て去るのであり、最初から考えにも入れないものもある。不愉快な複雑な事に出くわす機会を減らそうとして、問題を考慮するにあたって顕著な特徴のみに限定する。
 対照的に総合的思考をする人たちは、それほど明確ではなくとも関連のありそうな要因を積極的に探し求める。もちろん顕著な特徴が増えれば問題はより混乱してくるが、総合的思考をする人たちはそのような混乱を気にしない。実は彼らはそれを受け入れる、何故ならそうすることによって問題を全体として照らし出すようなものはなにひとつ捨ててこなかったと確信できるからだ。彼らが複雑さを歓迎するのは、そこからこそ最良の答えがうまれるからである。彼らは混乱を抜けて進み、明確な解決策を携えて対岸に辿りつけると確信している。
 (B)因果関係を分析する。意思決定の第二段階では、数多くの顕著な要因がたがいにどのように関係し合っているかを分析することとなる。伝統的思考をする人たちは顕著な特徴に対してするのと同様に、因果関係を狭い視野でとらえがちである。私たちが誤った決断を下すときは、往々にして顕著な特徴の間の因果関係を誤って把握してしまったことによるのである。たとえ関係の方向性は正しくともその重要性の認識に関して誤っていたからだとも考えられる。

解答と解説

1. (c): find their way through it(混乱を抜けて進み)emerge on the other side(対岸に現れる)とは「目指すべき目的地が見つかること」が文脈に合い(c)が正解。(b)は、混乱を抜けて進み、put the mess in order(混乱を整理する)のは、論理的に無理があるので誤り。
2. (b): What … do of salience?「顕著な特徴に関して何をするか」伝統的思考法は、7行目にあるようにdiscard as many (factors) as possible「多くの要因を捨てる」ので(b)が正解。
5. (b): 「伝統的思考をする人と総合的思考をする人両方にとって、顕著な特徴を見極めることは何を意味するか」 (a)「できるだけ多くの要因を取り除く」は伝統的思考法であり、(c)「複雑なものにどんどん触れていく」(伝統的思考でのreduce our exposure to uncomfortable complexityと対照的である)(d)「明確でない要因を探す」(obscureはless obviousに対応)は総合的思考法。(b)「関連性のある要因を明確にすること」が両者に共通したことであるので正解。
6. (d): 「伝統的思考をする人、都総合的思考をする人両方にとって、因果関係を分析することは何を意味するか」(a)「関係の有効性に疑問を抱く」と(c)「要因間の直線的でない(=複雑な)関係を見極める」は総合的思考法であり、(b)「すべての存在する関係の重要性を決定する」は文中に明記されてはいない。(d)「顕著な要因の間の関係を定めること」が両者に共通することであるので正解。

 早慶の英語問題量は総じて多い。早稲田理工の問1だけで赤本21ページ中7ページを占め、ここにとりあげた問題はそのわずか2ページ分にすぎない。したがってこの分量のおよそ10倍の英語のみで書かれた問題を90分で解かなければならないわけである。換算して10分ほどでこの2ページ分の問題を解くペースを感覚的につかんでほしい。本問は文章内容が抽象的であり、単語レベルもかなり高いうえに設問もやや難であり、受験生にとってまさに合否を分ける一問である。以下に長文攻略のヒントをいくつか記すので参考にしていただきたい。

1.出題形式の熟知
 過去問を実際に解き、文章のテーマ、その分量と難易度、設問パタ−ンを頭に叩き込んでおく。特に早稲田の理工の長文問題のように設問が波状的に続く場合、ペース配分をうまくすることが正答率のアップにつながるし、後の問題に落ち着いて取り組めるようにもなる。

2.対立概念の発見
 新旧や善悪、賛成反対のような対照的な2者を比較検討しつつテーマを掘り下げ、結論を証明するというのが一般的な論の進め方である。本文ではintegrative thinking(総合的思考法)とtraditional thinking(伝統的思考法)の2者を分析分類しつつ論を進めており、問9と問10は両者の分類問題となっている。一見複雑に見える文章も二元論的に割りきって読めば明確になるし、設問も両者の比較検討部分に対して課されるのが普通である。

3.ディスコースマーカー(文章標識)に注目
 車を運転する時、交通標識に従って安全確実な走行が出来るように、文章読解もディスコースマーカーを確認しつつ読み進めることにより正確に行うことが出来る。第一段落でテーマの提示と全文の見通しがのべられる原則を知っていれば、この文章が「優れた経営者は4段階を経る総合的思考法によって問題を解決している」と要約できることが分かるだろう。the first step、the second stepで順序が示され、by contrastで対比が示され、of course は譲歩、 in fact は強調を、alsoは添加のニュアンスを伝えるので、このようなディスコースマーカーは文章の展開を知る上で役立つ。(※問題文中のディスコースマーカーは書体を変更し、強調している)

4.速読法の応用
 長文を一字一句逐語訳的に読むのでは、時間切れとなることは明らかである。しかし本問のように質問に精読を要するものが含まれている場合、全体は速読法(極端にいえば飛ばし読み)で大事なポイントを浮かび上がらせ、設問がらみの部分は精読法により処理する複合的読み方が必要になる。シャドーイング(英語の口真似)とサイトトランスレーション(同時通訳的日本語訳)のトレーニングを行い英文を読むスピードを速めるとともに、英語的発想による直接理解力を身につけよう。実戦的には、インターネットの英文表示によるニュース(ウォールストリートジャーナルなど)や論文、売買契約条件や機器の操作指示を読みなれておくことも役立つだろう。

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長文問題読解力をアップさせるテキスト・トレーニング法

ディスコースマーカー英文読解(Z会出版)

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文章構成のカギとなる様々な表現を機能別に分類し、20章ほどの入試問題をもとに具体的に解説。要約演習を通して実戦的に各種ディコースマーカー(文章標識)の理解が深まるので、論理的文章力が鍛えられる。早慶の長文読解や国立医大系の要約問題対策には必須の一冊である。

東大英語が5分でよめるようになる(語学春秋社)

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英語通訳トレーニングシステムと銘打った、通訳養成法の入門書で13時間分のCD聴きながら速読力を養うことが出来る。取り上げている英文はセンター入試と東大入試で出題されたもの。Quick Response(日本語から英語への瞬間的反応)、Shadowing(英語音声を聴きながら口真似する)、Sight Translation(英文を見ながら前からどんどん訳していく)の3段階を16回行うことで「東大英文(1000語レベル)でも余裕を持って時間内に解答できるぐらいの力がつく」(著者)

早稲田の英語(教学社) 慶応の英語(教学社)

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早慶受験生のバイブル的問題集。長文は語数別に各学部の問題が収録されており、解説も丁寧で取り組みやすい一冊である。難を言えば収録年次がやや古いことだが、最近の入試問題に触れるには赤本を併用すれば完璧である。

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