第4回 英作文編 : 食わず嫌いは損! 英作文は3つのポイントで得点源に!
早稲田、慶応、あるいは医学部の英作文問題に、たとえば東大の状況設定自由英作文のような特別の問題があるわけではない。医学部には課題英作文問題は出題されるが、おしなべて普通の作文問題かオーソドックスな整序英作文問題がほとんどである。したがって以下で述べる基本的なポイントを守り、そのうえで個別の対策を講じれば十分入試に対応できる。
英作文は長文問題に比べて配点比率が低いためどうしても後回しにされ、学習のウエイトも軽くなりがちである。そのためか英作文が得意という人は少なく、多くの受験生が整序英作文や自由英作文を含めた和文英訳問題を苦手としている。しかし考えてみてほしい。苦手な人が多いということは、裏返せばそこで抜け出せば確実に一歩合格に近づけるということだ。さらにほとんどの英作文は、構文、フレーズ、文法の基本表現の組み合わせなのだから、各ジャンルをしっかり身につければおのずと英作文力もアップするのである。今回は英作文問題でいかに確実に得点するかをテーマにまとめてみた。
英作文のポイントは以下の3点に集約される。
1. 短文暗記
2. 構文・フレーズ・文法
3. 英語的発想
1.短文暗記
基本段階では典型的な言い回しを含んだ例文をおぼえこむことが重要である。特に文法単元では比較や仮定法など紛らわしい表現や複雑な文法規則を含んだ文、さらに構文では強調(It is not until ~that)や倒置(Never have I been there.)、無生物主語(The stormy weather prevented us from starting.)の文などは特に正確にしっかり覚えこみ、すらすら口をついで書けるようにしておこう。短い作文問題ではほとんどそのまま出題されることもあるし、整序英作文では典型的慣用表現が含まれることがとても多い。
2.構文・フレーズ・文法
英文の三つの要素である構文・フレーズ(語・句)と文法を常に意識して書こう。骨格となる構文(It~thatやnot A~but Bなど)を決め、正しい文型表現にすることが第一歩。逆に言えばここで間違うと得点は限りなくゼロに近づく。慣用表現は前置詞の用法を含めて適切なイディオムを選び、フレーズの完成度を高めよう。単語も文脈で使われている語感にあったものを選び、正しい語法で表現するように。
文法では常に正しい時制表現を守り、冠詞の種類と有無、数・人称の一致に十分注意を払いケアレスミスの防止に努めよう。難しい文法単元のミス以前に基本的文法規則の無視による失点が思いのほか多いのである。(ケアレスミスはくりかえし出てしまうところに怖さがひそんでいる。)
3.英語的発想
日本語表現をそのまま英文に置き換えても不自然なあるいは幼稚な英文になってしまう場合は、英語的発想に基づく英文表現が必要である。たとえば「父にねだってカメラを買ってもらった。」をI asked my father to buy me a camera and got one.とすると直訳的だがI talked my father into buying me a camera.とすれば英語らしい表現になる。同様に「私は彼女を説得して家出を思いとどまらせた。」をI persuaded her not to run away from home. とすれば正しいがやや硬い表現となるのに対し、I talked her out of running away from home.はこなれたどちらかといえば口語的表現となる。
では、実際の入試問題で三つのポイントを確認してみよう。
1.慶応大・文学部・2008年 英作文
「森林の動植物の多様性をひとたび理解するようになれば、森林を破壊したら何を失うことになるかに人は気づくだろう。」
答
Once people come to understand the variety of animals and plants in forests, they will notice what will be lost if they destroy them.
これが慶応かと思わせるほど、基本的表現の組み合わせである。しかし、二つの副詞節(Once~, if~)と名詞節(what~)を破たんなく正確に使って一文を構成する構文力が試されているので侮ってはならない。
構文
接続詞的な働きをする副詞Once(いったん~すれば)は従属節を作る。
フレーズ
come to~ ~するようになる、the variety of~ ~の多様性 定冠詞theが必要であることに注意 (cf) a variety of~ さまざまな(=various)、notice 気づく、realize 認識する・悟る
文法:what will be lost 疑問詞what+受動態表現 what they will loseでもよいが受動態のほうが客観的事実として自然な表現である。
2.帝京大・医学部・2005年 整序英作文
「ジョーンズさんがその車に乗り始めて10年たったら、奥さんが新車を買うことを提案した。」
Mr.Jones ( )( )( )( )( )( )( )( ) a new one.
[ before / buying / for ten years / had / had / his wife / suggested / that car ]
答:Mr.Jones [ had had that car for ten years before his wife suggested buying ] a new one.
文法
過去完了had had[継続用法]と接続詞beforeの組み合わせ。
英語的発想「車に乗り始めて10年たったら提案した」を「提案する前に10年車を使用してきた」と発想を転換できれば一発で完成するが、発想転換ができないとここでつまづき、医学部進学自体に赤信号がともる。上位校を目指している受験生はまずこの種の問題を確実に解けるかチェックしてみよう。
3.慈恵大医学部 英作文
「この国では自殺ほう助は法律違反です。たとえその人がどれだけ病気が重かったり、どれだけ年取っていたとしても。」
答
In this country, it is illegal(=against the law) to help a person (to) kill themselves (=commit suicide) however(=no matter how) seriously ill or however old he is.
構文
It~to… …するのは~だ (形式主語構文)
Helping a person (to)commit suicide is illegal.と動名詞を主語にすることもできる。
医学部らしい内容だが、文はあくまで基本に忠実である。慈恵の単語問題は対策を立てづらいが作文は意外と素直なので、基本を丁寧に攻め込めば勝機も見えてこよう。
4.慈恵大医学部 2003年 英作文
「今日、医療の現場では『倫理』ということが盛んに問題にされている。」
答
Today, "ethics" is eagerly discussed among the medical profession.
Nowadays, there is a lot of discussion about "ethics" in the medical community.
医療現場の主体を doctors and staff involved(医師と関係者)にして「倫理」ということを補足して表現すると、次のような別解もありうる。
Today, doctors and staff involved are eagerly discussing how they should keep their medical ethics in their field.
基本的文構成が確実にできるようになったら、直訳ではなく言外の含みを盛り込んだフレーズで表現してみよう。その力が国立大学での英作文問題や医学部での課題英作文に挑戦するうえで欠かせないものとなる。
5.順天堂大学医学部 2007年 課題英作文(改題)
子供の成長と睡眠の必要性の関係について述べなさい。
答
It used to be said that a child who has enough sleep grows healthy, but we can hardly hear it said by adults or the intellects today. Children are now so busy in doing many kinds of activities such as cram school study, piano lessons, club activities and, of course, playing computer games including chat or e-mails by cell phones that they have little time for sleep. Children have less physical power than they used to and their mental and intellectual power also seem to become weaker than before. I think children should have more sleep to develop their physical strength and intellectual power fully.
It is only by having sufficient sleep that children can perform their study and physical activities well. If they have enough sleep, their exhausted and damaged cells of the whole body are perfectly repaired during 7~8hours at night, which enables them to concentrate on their mental or physical activities during the daytime.
In addition to sufficient sleep, repetition should be valued more in their daily life. All kinds of techniques can be mastered only by constant practice which is accompanied by repetition. Today's children tend to ignore the importance of repetition and skip from one pleasure to another, but it is quite necessary for them to repeat their skills so that their brain grows in harmony with their body.
段落構成
・第一段落で今の子供たちが昔に比べてやることが多すぎて睡眠時間が乏しく、体力的にも精神的にもひ弱になっていることを述べる。
・第二段落で活動のためには十分な睡眠が必要であることを医学的裏付けとともに述べている。
・第三段落で繰り返しによる技術の習得の重要性を述べる。
課題英作文のコツ
課題英作文では、テーマに沿って論を展開するわけだが、以下にそのコツをまとめてみよう。
第一段落ではまず、過去と現在を対比することで問題点を浮き彫りにしている。対比のディスコースマーカーには、whileやon the contraryがあるが、ここでは逆説のbutを使って現状を述べている。結果のso ~ thatがかなり離れて使われているが、慣れれば複雑な内容を表現でき大変便利である。例示にはfor example やsuch asがあり、列挙(A, B and C)のパターンが続くのがふつうである。主張はmust, should, I'm sure、I thinkなど強い表現であらわされ、段落冒頭または末尾で結論的に述べるのが基本的スタイルである。
第二段落は、第一段落の結論を受けて論を展開することになる。It ~ thatの強調構文で主張を明確にしているが、科学的根拠をデータとともに提示することでその主張に正当性を持たせている。
第三段落は、第二段落をさらに発展させることになる。ここでは添加のディスコースマーカーin addition toを使い新しいキーワードであるrepetitionを導入し、論に厚みを持たせている。butの後には重要な情報が続くという原則どおり、心身の調和的発達には技術の繰り返しによる習得が不可欠であるという結論的主張を導き出している。
どうだろうか。難しいと敬遠されがちな課題英作文も、作文の基本を身につけ、文章テクニックを駆使すればあなたにも立派な英語の文章が書けるのである。散々学んだ構文・フレーズを惜しみなく使い種々のディスコースマーカー(文章標識)を配置して、あなたも英語で思い切り自分の考えを述べてみよう。論理的英文を構成する要は、しっかりとした構文や適切なフレーズであることを忘れずに。明確な英文を書けることは英会話ができるのと同じくらい、きっとあなたに大きな自信をもたらすことだろう。
以下、英作文力を鍛えるためのテキストをいくつか紹介しよう。
『英作文基本300選』 駿台文庫 飯田康夫 著
英語と日本語との間にある発想の違いを十分認識しながら覚えられるようにした画期的入門テキスト。たとえば、「ウナギは見た目がヘビだからと言って嫌う人もいる」は「幾人かの人々はウナギを嫌う。それがヘビに似ているように見えるので」と置き換えて考え、Some people dislike eels because they look like snakes.と英文であらわせば書きやすい。発想部分にふみ込んでいる点がユニークな一冊。
『基礎英作文精講』 旺文社 花本金吾 著
文法・構文・フレーズ・テーマごとに章が分かれ、それぞれの単元でのポイントがまとめてあり、EXERCISEで表現が身についたか確かめることができるので取り組みやすい構成になっている。標準レベルまでの英作文はこれ一冊をやれば十分。
『英作文のトレーニング[実戦編]』 Z会 石神勉 著
一通り基本的表現は書ける人向けの応用編。主語の選定と単語・フレーズの処理に一ページを割き,やや直訳的な合格解答とさらにこなれた模範解答を示した本格的テキスト。
出題は早慶レベルの私大から国立大が中心。最後の仕上げに最適の一冊。