<十> [「基本的解法」徹底習得 Ⅱ]UP!
- 「国語」は本来縦書きですが、レイアウトの都合上、横書きとしました。御了承下さい。
前章の[「基本的解法」徹底習得Ⅰ](「共通解法①(選択肢設問)」)に於いて、どこの学校でも必須の「選択肢設問」の大原則[「正しいもの」を「選択する」のではなく、「不適当なもの」を「消去」し、残った「よりマシなもの」=「最も適当なもの」が「正解」となる]を理解して頂けたであろうか。「原意消去」に拘るということを改めて肝に銘じて欲しい。さて、本章では「記述設問」での「共通解法」の一部を紹介したい。無論、「記述設問」が出題されるのは一部の私大や国公立に限られる。しかし、「記述は出ないから関係ない」と言う勿れ。 「記述する」すなわち「文を記す」とは自らの「思考」をまとめるということであり、そのプロセスは当然、あらゆる「設問」を「思考」する上でとても重要なこととなる。従って、「記述設問」の「解法」を習得し応用できることになれば、「選択肢設問」にも大いに寄与するということだ。
<十> [「基本的解法」徹底習得Ⅱ]
「入試現代文」の「基本的解法」は大別すると、「論説文(評論文)」「文学文(小説・随筆)」の両者に共通するものと、それぞれに特有のものとがある。本章では「共通解法②(記述設問)」を概観してみたい。尚、これから説明する「記述設問」はいわゆる「説明記述」(「論述」)であって、「漢字」「語彙」等の「事項記述」や本文からの「抜き出し問題」は含まないことを付記しておく。また、「小論文」に就いては本稿の第5章及び6章を参照のこと。
(1)[「本文未読者理解可能」の法則]
解答者(受験生)は当然、設問本文を読んでいる。内容を理解している(ハズ)ので、それを「周知の事実」と錯覚する場合がある。「これは言わずもがな」とばかりに「必要な説明」を端折ってしまうことがある。すると、不十分な「記述」となり、減点されてしまう。そこで、採点者は本文を読んでいないと心得なくてはならない。本文未読者であっても完全に理解できるように、本文で説明されている事項は全て記述し、完結した文として「記述」を仕上げなくてはならない。そうでないと、分かっていながら減点されるという結果になってしまう。更に、解答者と採点者の間には暗黙の了解などは存在しないということも認識すべきだ。解答者のことを熟知している者(高校の教科担当教諭等)ならいざ知らず、入試の採点者は解答者のキャラを全く知らない。従って、「こうしたことを述べようとしているのだろう」などと忖度してくれないのだ(語彙、文法等の誤りも同様に、類推、訂正などしてくれない)。誰が読んでも解答者の意図が正しく伝わるような「記述」としなくてはならないのだ。
(2)[「指示語・比喩表現タブー」の法則]
前述の「本文未読者理解可能」からも導かれるが、「記述」にはしてはいけない「タブー」(禁忌)がある。先ずは、本文の「指示語」をそのまま使ってはならないということだ。「指示語」は当然、何かを指し示しているのであって、その指し示す事柄を述べなければ内容は理解できない。従って、本文の「指示語」は必ず指し示す事柄に換言しておく必要がある。そして、本文の「比喩」もまた同様にそのまま使ってはならない。「比喩」は本文全体の内容に則して理解されるものであって、そのままでは理解しづらいのだ。「比喩」も開いて換言しなくてはならない。さらに、筆者の「造語」(当該文章のみで用いられているもので、一般的ではない筆者特有の「語彙」や「表現」)、一般的な「語彙」「表現」でも筆者が特別な「意味内容」を付与している場合なども、誰もが理解できる「内容」に換言せねばならない。一方で、能う限り本文の「表現内容」を用いて「記述」を完成させる必要がある。従って、「換言すべき要素」と「換言してはならない要素」とを厳格に判別することが重要だ。尚、「重複表現」も絶対に避けること。
(3)[「記述要点⇒20字」の法則]
「記述(論述)設問」には様々なバリエーションがあり、「制限字数」も20~30字程度から200~300字以上(「小論文」では無論それ以上)のもの、「制限無し」(国公立に多い)の場合もある。何とも捉えどころがないようだが、採点上のコア(核心)となる重要な要素は20~30字程度で完結する(設問によっては「ひと言」の場合さえある)のが通常だ。「換言記述」であれば端的な「換言事項」、「指示語説明記述」であれば指示語の「直接的指示事項」、「理由説明記述」であれば「直接的理由」等、「正解」のポイントはその程度なのだ。要するに、「選択肢設問」での各選択肢説明の「末尾部分」だと考えればよい。従って、先ずはそのコアとなる要素を押さえ、その上で「指定字数」に応じて修飾部を加えていくということになる。採点ではコアとなる必要な要素が「記述」されていて初めて得点となるのであって、どれほど修飾部が的確であってもコアが外れていればゼロとなってしまう。逆に、コアさえ適切であれば、他はどうあれ「途中点」を得ることができるということだ。それぞれの「設問」が求めている核心的要素は何か? それを捉えて、簡潔且つ端的なコアとなる要素を「記述」することで、「記述(論述)設問」は必ず得点源となるのだ。
(4)[「積上げ方式⇒パーツ組み立て」の法則]
前項の「核心的要素」を捉えた上で愈々「記述」していくわけだが、コアとなる要素を末尾とすることが大原則だ。先ず末尾を調え(「文末表現」も「設問条件」に合わせる)、そこから修飾部となる「説明的要素」を、「指定字数」に応じて(「字数制限なし」の場合は本文に説明されている必要な要素を過不足なく網羅する)積み上げていく。その際、重要度に応じて積み上げていくことがポイントとなる。
では、「積上げ方式」の具体的方法を確認してみたい。本稿第4章で採り上げた2013年度北海道大学[総合入試(文系・前期)]「国語」の「大問一」をサンプルとする。「問四」[傍線部C「天地自然に関する壮大な形而上学」を五〇字以内で説明せよ]という「換言記述」だ。コアとなる要素は当然、「形而上学」を如何に換言するかということだ。※以下、具体的な「解法」に就いては本稿第4章を参照のこと。
①「形而上学」=「非現実的な理屈」⇒これがこの「設問」の「解答」に於ける最重要要素、「記述」の末尾となるコアだ。次に、残りの「天地自然に関する壮大な」を換言し積み上げていくことになる。重要度を考慮して修飾部となる「説明的要素」を積み上げる。
②「天地自然」=「天地自然の道」⇒これが修飾部となる「説明的要素」となる。だが、このままでは「本文未読者」には何のことか不明だ。そこで、「天地自然の道」の内容を説明する必要が生ずる。
③「天地自然の道」=「天地自然の仕組みを理によって説き、人が踏み行なうべき道の徳を明らかにする」やり方。ここまでで、「換言」すべきコアと「説明」すべき内容は揃ったことになる。まとめてみる。
④「天地自然の仕組みを理によって説き、人が踏み行なうべき道の徳を明らかにするという非現実的な理屈。」(47字)となる。字数もOK、これで完成、と早まってはいけない。「換言記述」では必ず「代入確認」することが鉄則だ。傍線部C部分に作成した「記述」を「代入」する。すると、この「換言」部分に対する「目的」の説明が不可欠だと分かる。従って、それを読み解き、付加しなくてはならない。更に、丁寧に傍線部Cの「壮大な」も換言しておきたい。以上をアレンジし、まとめる。
⑤「人が行動の上で圧倒的な優位に立つために、天地自然の仕組みを理によって説き、踏み行なうべき道の徳を明らかにするという充分過ぎる力を持った非現実的な理屈。」(75字)⇒これが全ての「換言要素」を網羅し、尚且つ必要な「説明」をも付加した「記述」となる。最後に「字数調整」だ。重複を避け捨象していく。
⑥「人が優位に立つために、天地自然の仕組みを理で説き道徳を明らかにする、という力を持った非現実的な理屈。」(50字)⇒これがひとつの「解答例」だ。
以上のように、「記述」は「パーツ」を重要な順に積み上げていく作業ということになる。その際、最も重要な「パーツ」(コアとなる要素)を末尾とすることが肝要だ(採点者は先ず末尾だけで正否を判断する)。 つまり、下→上に積み上げていくわけだ。[末尾「コアとなる要素」]+[重要度A「説明的要素」]+[重要度B「説明的要素」]+[重要度C「説明的要素」]……となり、逆から「記述」を完成させていくということだ。
(5) [「指定字数⇒必要内容合致」の法則]
前項のように「記述」を作成する際、どこまで積み上げていけばいいのかが問題となる。当然、「過不足なく」ということだが、その判断は意外と難しい。そこで、「指定字数」に注目する。「指定字数」は単なる「制限」ではなく、「その字数分の要素が必要だ」というヒントになっているということだ。従って、末尾の「コアとなる要素」を確定した後、「指定字数」の残りに合致させて重要度に従い他の「説明的要素」を積み上げていくことになる。ということは、たとえば「本文のある箇所をまとめよう」と考えた時、その箇所が「指定字数」にあまりにも合致しない(過不足共に)場合は「誤り」だと判断し、考え直すべきなのだ。
(6) [「指定字数なし⇒過不足なし」の法則]
「指定字数」がない「記述」(国公立に多い)では、どこまで「必要要素」を積み上げ何字程度でまとめるのが適切なのかを見極めるのは至難の業だ。無論、「過不足なく」が原則だ。具体的には、「本文未読者」が「設問」に対する「答え」として、記された「記述」だけでその内容を完全に理解できるようにするということだ。特に、「何が」「何故」「どのように」といった「5W1H」の「要素」に就いて、本文で説明されているものは全て網羅するという配慮をする必要がある。尚、自らの受験校で「指定字数がない記述」が出題されるのかどうかは当然、事前に知っておかなくてはならない。その上で更に、過去問の「模範解答例」や「解答欄」の実寸等から、どの程度の「字数」が求められているのかといった「情報」も得ておきたい。たとえば、本稿第7章で紹介したように、東京大学の「解答欄」は1行が「縦13.5cm、横8mm」(これは公表されている)で「約30字」に相当するといった具合だ。
(7) [「設問条件⇒文末表現合致」の法則]
「設問」での「問われ方」に応じて、「記述」の「文末表現」を合致させる。当たり前のことだ。が、「記述内容」に細心の注意を払い完璧を期しながら、「文末表現」を蔑ろにして画竜点睛を欠く結果となり減点、あるいは場合によっては失点すらしてしまうことがままある。典型的な一例は、「理由説明」に於いての「~から。」と「~ため。」の混同だ。日常会話では許容されるが、本来、「~ため。」は「目的」の表現であって、「~から。」が「目的表現」にならない以上、両者は区別して用いる必要がある。「何故、受験勉強するのか?」という「問い」に対して「大学に入学したいから。」「大学に入学したいため。」は共に成立するが、「受験勉強する目的は?」に対して「大学に入学するため。」は成立しても「大学に入学するから。」は成立しないということだ。従って、「理由」では「~から。」、「目的」では「~ため。」だけを用いるようにして誤解されないようにすることが重要だ。また、「どういうことか?」⇒「~ということ。」、「何か?」⇒「~(体言)。」、「どうすべきか?」⇒「~(すべきだ)。」、「どのように考えるか?」⇒「~(と考える)。」などといったように、基本的には「設問」の「疑問詞」に応じて「文末表現」を調えること。さらに、「指示語説明」や「空所補充」の「記述」等では、「内容」のみならず「文法」的にも代入可能な「文末表現」にする必要があるので注意したい。
(8) [「本文表現使用必須」の法則]
「設問条件」として「本文中の言葉(表現)を用いること」とあれば、誰でもそれに従う。が、そうした「条件」がなければどうか? 受験生自らの「言葉(表現)」で勝手に「記述」してもいいのか? 受験生の「見解」を問うといった「自由論述」でなければ、やはり、可能な限り「本文中の言葉(表現)」を用いなくてはならない。そもそも、「本文」に関しての「設問」である以上、そうしなくては「説明」できないのだ。答えるべき「内容」が述べられている「本文」の箇所を、できるだけ忠実にまとめることが肝要だ。その際、「換言箇所」には注意する必要がある。同じ「内容」が別の箇所で「換言」されている場合が多々あるのだ。どの箇所をまとめることが「答え」として適切なのか、あるいは、合体させるべきなのかといったことを十分に吟味すること。
(9) [「指定字数⇒九割以上」の法則]
「指定字数」がある場合、その「9割以上」の「記述」とすることが求められる。「記述設問」では「途中点」が認められることが多いが、「字数」との関連は以下のとおりだ。「5割未満」⇒「0点」、「5割~6割」⇒「半分程度の減点」、「7割~8割」⇒「若干の減点」。これがひとつの目安と心得よ。ここで注意して欲しいのは、こうした「減点」というのは単に機械的に「字数」だけに因るのではないということだ。前述のように「指定字数」というのは、「正答」の「内容」をまとめる為にはそれだけの「字数」が必要だということであり、従って、「字数不足」=「内容不足」ということになるのだ。
(10) [「原則一文(百字未満)」の法則]
通常、ひとつの設問では単独の事項が問われる(無論、条件が付与されて複数の場合もある)。「記述設問」も例外ではない。あるひとつの事項に就いて、前述のように、[末尾「コアとなる要素」]+[重要度A「説明的要素」]+[重要度B「説明的要素」]+[重要度C「説明的要素」]……と記していくことになる。つまり、ひとつの事項の「説明」なのだから当然、「一文」で完結させることが原則となるのだ。短く「文」を分けた方が読み易く分かり易いと考える諸君もいるやも知れぬが、「文」を分けるということはそれだけで「意味」を持ってしまうのだ。となると、それぞれの「文」の連関を説明する必要が生ずる。本来答えるべき「内容」の趣旨とは異なる「説明」を加えることになるので、却って分かりづらくなってしまう可能性があり、しかも、無駄な「字数」を費やすという結果になる。従って、「長文記述」(「百字程度」が目安)でない限り、「一文」で記すように心掛ける必要がある。
以上、「共通解法②(記述設問)」の一部を紹介してきたが、「記述」とは何かを多少は理解してもらえただろうか。「記述力」は受験生各位が実際に「記述」した答案を、添削指導を受けながら何度も修正し自ら完成させていくことを繰り返して習得できるものだということは肝に銘じておいて欲しい。決して、「解答例」(模範解答)を理解し納得したからといって身に付くものではないということだ。
ということで、次章の「予告篇」。 第十一章は[「基本的解法」徹底習得Ⅲ]「論説文(評論文)特有の解法」。