国際社会の中で日本人はいかに自らを表現し生きていけばよいのか――日本の歴史を見つめ文化を吟味し、私たちの行方を示す｡透徹した思考に支えられた文明批評であり日本文化論。本文では、演劇や文学がはらむ一種の｢狂気｣について、｢世阿彌｣の｢能｣を例に挙げ論じている。｢芸術論｣であり難解な語句が多く、内容も理解しづらいに違いない。｢*注｣も活用して可能な限り読み解いてほしい。
手強い｢選択肢設問｣や｢総合的知識問題｣に本校らしさが表れている。以下、いくつか確認してみたい。

[問１]　｢漢字の書きとり｣(全５問/記述式)
例年に比べ難易度が低い。当然、本校志望者は｢全問正解｣が必須のレベル。
二重線部
(a)｢コンテイ｣＝｢根底｣、
(e)｢大きなセイヤク｣＝｢制約｣はともかく、
やや悩ましいものとしては、
(b)｢シュウキ的に循環｣＝｢周期｣、
(c)｢理論のコッシ｣＝｢骨子｣、
(d)｢コウキで優雅｣＝｢高貴｣(※同音異義語に要注意)｡
本年度は例外だ。やはり、本校では｢ハイレベルな語彙力｣が必要だと心得よ。
尚、わざわざ｢一点一画を正確に｣と記されている。｢失点｣せぬよう丁寧に書くこと。

＜時間配分目安：１分＞

[問２]　｢語の空所補充組み合わせ選択肢｣(５択/マーク式)
本文中の空所　ⅰ　～　ⅲ　に｢入る語の組み合わせ｣を答える。
各選択肢は｢接続詞｣､本校に限らず定番の問題だ。｢接続詞｣では｢逆接｣はともかく、｢順接｣には十分に注意すること。同じ｢順接｣だと、どれもあてはまってしまう可能性があるのだ。単純に前後を読みつなぐだけではなく、それぞれの｢接続詞｣の｢意味･用法｣を的確に押さえた上で、｢内容｣を確認する必要がある。では、空所を確認していく。
　ⅰ　には｢添加｣を示す選択肢中の｢さらに｣､
　ⅱ　には｢結果｣を示す｢したがって｣､
　ⅲ　には｢換言｣を示す｢すなわち｣が入ると分かるはずだ。
したがって、｢答え｣は組み合わせ選択肢の｢①｣になる。
｢候補｣はひとつとは限らないので、必ず全てを｢代入確認｣すること。

＜時間配分目安：１分以内＞

[問３]　｢換言説明選択肢｣(５択/マーク式)
傍線部(Ａ)｢演劇と祭祀の共通性｣について、それは｢どのようなことか｣を答える。
｢選択肢設問｣は｢消去法｣が原則｡先ずは｢原意消去｣をしたい(｢原意絶対優位の原則｣＝｢設問｣｢傍線部｣等の｢原意｣、要は｢本来の意味｣を最優先に考えること)｡だが、ここでは｢共通性｣の｢内容｣を問われているので、ここだけでは無理だ。そこで、｢傍線部(空所部)一文一部の法則｣(｢傍線部(空所部)が一文の一部分だった場合、傍線部以外が重要｣という｢重要解法｣)に｢手がかり｣を求める｡直前に｢すなわち｣とある。ということは前文の｢換言｣だと分かる。確認すると、｢演劇と祭祀の共通性｣＝｢この考え方｣となっている。｢指示語｣なので開く(｢指示語｣が出たらすぐ開くこと)｡ただ、｢段落冒頭｣の｢指示語｣なので、前段落全ての｢内容｣を指示していることに注意すること(鉄則)。そこから、｢祭祀｣＝｢文化の中の『狂気』で、そこで一日を狂って過ごすことで社会は生命力を賦活される｣⇒｢演劇は祭としての要素を残している芸術｣だといったことが読み取れるはずだ。
次に、各選択肢の｢文末｣が(｢選択肢｣の説明で最も重要な要素は｢文末｣に記されている)、その説明に結びつかないものを｢消去｣する。
選択肢
①｢自然の秩序を破壊する｣
②｢狂気から脱しようとする｣
③｢呪術的なエクスタシーを高めようとする｣
④｢高い秩序を保とうとする｣
⑤｢生命力を賦活する｣
であれば、⑤以外は｢消去｣だと判別できなくてはいけない。｢文末｣以外の説明も特に誤ってはいないので、｢答え｣は｢⑤｣となる。｢選択肢設問｣では、｢解法｣に基づき段階的に｢消去｣していくこと。

＜時間配分目安：１分半＞

[問４]　｢内容説明選択肢｣(５択/マーク式)
傍線部(Ｂ)｢世阿彌が能のなかの『狂気』をどのように理解していたか｣について、｢これについて筆者はどのように説明しているか｣を答える。
残念ながら、｢内容説明｣の本問も設問段階での｢原意消去｣は不可能。
｢傍線部(空所部)一文一部の法則｣で確認しても､｢手がかり｣はない。次善の策は｢同一意味段落｣だ(｢論説文｣では｢同一意味段落｣に｢根拠｣｢ヒント｣がある)｡ここでの｢同一意味段落｣は、傍線部をはさんだ３段落だと判断できなくてはいけない。その中で、世阿彌の演劇論を説明しているのは最後の段落。そこに､｢世阿彌は『狂気』をきわめて技術論的にしか見ていなかった｣｢ある種の『狂気』は能にふさわしくないものとしてしりぞけられている｣とある。
各選択肢の｢文末｣を確認する｡
①｢『物狂い』を演じることをしりぞけてはいけない｣
②｢狂うことは絶対に禁じるべきだ｣
③｢『狂気』の表現は能にはふさわしくない｣
④｢『物狂い』をより効果的に表現しよう｣
⑤｢(狂気)は必要不可欠なもの｣
ということは、｢文末｣以外の説明も特に誤ってはいない｢③｣が｢答え｣だ。
結果、｢一発消去｣だ。｢選択肢解法｣のオプションをしっかりと習得することが肝要。

＜時間配分目安：２分＞

[問７]　｢条件付き換言説明抜き出し｣(｢15～20字以内｣指定/記述式)
傍線部(Ｅ)｢恣意的な『狂気』とは反対の方向｣について、｢どういう方向か｣を抜き出す。
｢条件｣は｢解答欄に合う形で抜き出す｣こと。｢解答欄｣は｢文末｣が｢という方向｡｣となっている。｢抜き出し｣では、｢抜き出すべき内容｣を特定した上で｢抜き出し範囲｣を絞っていくことが鉄則。ここでの｢内容｣は、｢傍線部(空所部)一文一部の法則｣から｢世阿彌が見出した｣｢恣意的な『狂気』とは反対の方向｣だと分かる。そして、前文には､｢世阿彌の演劇論｣として｢離見の見｣(｢*注｣に｢客観的に見ること｣とある)は｢要するに演戯者がいかにして自己抑制をおこなうかという思索であった｣とある。さあどうか？気づいたか？
傍線部の｢恣意的｣＝｢主観的｣､それに対して｢離見の見｣＝｢客観的｣､まさに、｢反対の方向｣だ。よって、｢答え｣は｢演戯者がいかにして自己抑制をおこなうか(という方向｡)｣となる。｢解法｣に則して｢内容｣を把握すること。また、｢*注｣は重要な｢ヒント｣だと心得よ。

＜時間配分目安：２分＞

現代日本文学の開拓者である作者の､若き戦死者への鎮魂の思いがこめられた最後の作品集。本文では、大阪大空襲で焼け出された｢私｣の一家の心配事であった｢兄｣の安否が分かり、安堵する様子が描かれている。戦後すぐの時代背景なので、なじみのない難解な語句が多く読みづらい｡｢*注｣も適切に活用して、｢心情の機微｣を読み解いていきたい。本校らしい設問をいくつか検討してみる。

[問１]　｢語句の意味の選択肢｣(２問/各５択) 
｢総合的知識問題｣｡流石、本校、一筋縄ではいかない。
波線部(ア)｢やつれて｣｡｢やつれる｣＝｢人の容姿・服装などがみすぼらしくなる。特に、やせ衰える｣ということ。よって、｢答え｣は選択肢②の｢疲れやせ衰えて｣｡
波線部(イ)｢消息｣｡｢消息｣には｢たより。手紙。知らせ｣｢人や物事の動静｣といった意味がある。ここでは｢文脈｣から後者だと判別できるはずだ。よって、｢答え｣は⑤の｢これまでの暮らしの様子｣｡
本校ではやはり、｢大人の語彙力｣が求められている｡
また、｢多義語｣は｢文脈｣から判断する必要があると心得よ。

＜時間配分目安：１分以内＞

[問２]　｢内容説明抜き出し｣(｢５～10字以内｣指定/記述式) 
傍線部(Ａ)｢〈一同、元気〉とも書いてある立札｣について、｢立札に『一同､元気』以外に書かれていたのはどのようなことだったと考えられるか｣を抜き出す。
｢抜き出すべき内容｣は｢問題文｣そのままだ｡｢抜き出し範囲｣は｢同一場面｣(｢同一場面の直前直後に根拠あり｣は｢小説｣の｢重要解法｣)｡先ずは直前直後を確認する。すると直後に｢(～立札)で､私たちの行き先を知った｣とある。であれば、｢立札｣に書かれていたから｢知った｣ということになる。したがって、｢答え｣は｢私たちの行き先｣だ｡
尚、傍線部に｢も｣という｢助詞｣があるが、｢ひらがな１文字｣(特に｢助詞｣)は絶対に無視しないこと。それによって、｢文脈｣が大きく変わってしまうのだ。

＜時間配分目安：１分＞

[問３]　｢人物説明選択肢｣(５択/マーク式)
傍線部(Ｂ)｢笑っているだけであった｣について、ここから｢『豊ちゃん』がどのような人物であることが読み取れるか｣を答える。
傍線部だけでの｢原意消去｣は無理なので、先ずは、何に対して｢笑っているだけであった｣のかを確認する。直前から｢あんた。あんまりその人の言うこときいてたらあきませんで｣(｢その人｣＝｢私｣)という｢母の言葉｣だとすぐに分かる。その言葉に対して、なにも｢反論｣することなく｢豊ちゃん｣は｢笑っているだけ｣だったのだ。また、｢母の言葉｣の直前には､｢豊ちゃん｣は｢なんでも私の言う通りにするのだった｣ともある。これらから｢人物像｣が浮かび上がるはずだ。各選択肢の｢文末｣を確認する。
①｢如才ない人物｣
②｢軽薄でいい加減な人物｣
③｢従順で素直な人物｣
④｢やや頼りない人物｣
⑤｢辛抱強くてほがらかな人物｣
無論、｢従順で素直な人物｣以外は｢消去｣可能。よって、｢文末｣以外の説明も特に誤ってはいない｢③｣が｢答え｣になる。ここも、｢一発消去｣。
｢小説｣では、｢動作｣｢セリフ｣などの｢きっかけ｣に着目することが肝要だ。

＜時間配分目安：１分半＞

[問４]　｢理由説明選択肢｣(５択/マーク式)
傍線部(Ｃ)｢『結婚？――ぼく､まだや。』と兄が人々の頭越しに言う｣について、｢兄がこのように言ったのはなぜか｣を答える。
先ずは｢原意消去｣を試みたい。ここは｢理由説明｣なので、｢直接的理由｣での｢消去｣だ。｢兄｣は｢質問｣に対して､｢結婚？｣と問い返している。そして、重要な｢意味｣を持つのが直後の｢――｣(｢ダッシュ｣記号)だ。すぐに答えていないということは、そう｢躊躇していた｣わけだ。各選択肢の｢文末｣が、｢～だから｣⇒｢躊躇していた｣に結びつかないものを｢消去｣する。
選択肢
①｢口をついて出てしまったから｣
②｢この場をしのごうと考えたから｣
③｢配慮に欠けるように思われたから｣
④｢ためらわれたから｣
⑤｢恐れたから｣
どうか？｢躊躇｣に直接結びつく④以外は即｢消去｣できなくてはいけない｡
｢文末｣以外の説明も特に誤ってはいないので､｢答え｣は｢④｣だ。
｢原意｣での｢一発消去｣､活用すべし。尚、｢小説｣では、本問のように｢記号｣にも｢意味｣があるということを心得よ。

＜時間配分目安：１分＞

[問８]　｢活用形判別組み合わせ選択肢｣(５択/マーク式)
｢総合的知識問題｣の｢文法｣｡
二重傍線部(ａ)～(ｄ)について、｢同じ活用形ごとに正しくまとめたもの｣を選択肢①～⑤の中から答える。
(ａ)｢やつれているように見えた｣
(ｂ)｢苦労をしたようであった｣
(ｃ)｢復活したようだった｣ 
(ｄ)｢思ってのことだったような気持ち｣
｢口語文法｣の基本｡｢助動詞｣の｢ようだ｣の活用形。
無論、(ｄ)は｢連体形｣で他は全て｢連用形｣だ。よって、｢答え｣は｢①｣になる｡本校では｢口語文法｣が頻出。確実に理解し、定着させておくこと。

＜時間配分目安：１分以内＞

怪を志す｢志怪｣というジャンルが流行した中国六朝時代は、｢幻術の名人｣｢墓から生き返る娘｣｢冥界との交流｣といった怪異の数々が盛んに語られた。本書は東晋の歴史家千宝が記した｢六朝志怪｣の代表作｡本文はその｢書下し文｣(＝｢古文｣)で、父親に尽くした｢董永｣と、その行いに感動して｢天帝｣が遣わした｢天の織女｣とのやりとりが描かれている。
｢古文単語の意味｣｢文語文法｣｢文脈把握｣｢内容解釈｣｢人物特定｣､そして｢漢文｣での｢返り点記入｣など多様な設問が並ぶ。｢古文｣｢漢文｣を全体として理解、習得していなければ太刀打ちできない。以下、いくつか検証する。

[問１]　｢語義特定選択肢｣(５択/マーク式)
｢古文単語の意味｣｡波線部｢小人｣の｢意味｣を答える。
｢古文単語｣の｢小人(せうじん)｣には、｢子ども｣の他に｢器量が小さい者｣｢身分が低い者｣という意味がある。ここでは｢董永｣自らが、｢小人たりと雖(いえど)も必ず勤めに服し力を致し(＝『小人』ではあるが、必ず職に就いて力を発揮し)｣と述べている部分なので、｢答え｣は選択肢④の｢つまらない人物｣だと判別できなくてはいけない。
基本的な単語だ。知らなかった諸君は｢単語の徹底習得｣をすること。

＜時間配分目安：１分以内＞

[問２]　｢内容解釈選択肢｣(５択/マーク式)
傍線部(Ａ)｢これを遣る｣について、｢何のためにどうしたのか｣を答える。
ポイントは無論、｢これ｣という｢指示語｣だ。｢指示語｣が指し示すものは､｢現代文｣と同じ考え方でいい。確認すると、｢これ｣＝｢董永｣だとすぐに分かる。では、｢誰｣が｢何のため｣に｢どこ｣に｢遣る｣のか？ここも｢現代文｣同様に直前から読み解いていく。すると、｢父を亡くした董永｣が自ら｢奴(＝召し使い)｣になって｢葬事に供す(＝葬儀代に充てる)｣ことを知った｢主人｣が、｢銭一万を与へて｣｢董永｣を｢遣る｣ということが判明するはずだ。であれば、｢父親の喪に服させるために、董永を自宅に戻したこと｣とある選択肢③が｢答え｣だと判別できる。｢古文｣であっても、基本的な｢読解方法｣は｢現代文｣と同じだと心得よ。

＜時間配分目安：１分半＞

[問３]　｢人物特定選択肢｣(５択/マーク式)
傍線部(Ｂ)の｢子｣とは｢誰を指しているか｣を答える。
無論、ここでは｢子ども｣の意味ではない(それでは｢問題｣にならない)｡直前直後を確認すると、｢董永｣が道で逢った｢一婦人｣の｢願はくは『子』の妻と為らん(＝なろう)｣という｢言葉｣だと分かる。｢董永｣に対しての｢言葉｣なので当然、｢子｣は｢あなた｣という意味になる。よって、｢答え｣は選択肢｢①｣(＝董永)だ。
｢子｣には｢代名詞｣で｢あなた｣という意味があることは知っておきたい。尚、本文は本来｢漢籍｣なので、｢漢文｣での｢代名詞｣であるということも認識しておくこと。

＜時間配分目安：１分半＞

[問５]　｢返り点記入｣(記述式)
傍線部(Ｄ)の｢在る所を知らず｣について､｢これは『不知所在』の書き下し文だが、本文の読みに従って、返り点を記し｣て答える。｢漢文｣の問題。基本の｢返り点｣だ。当然、誰もが知っているはず。｢答え｣は｢不レ知レ所レ在｣となる。本校ではやはり、｢漢文｣の｢基礎的事項｣の習得も不可欠だ。

＜時間配分目安：１分以内＞