開成高等学校 入試対策
2022年度「開成高等学校の数学」
攻略のための学習方法
全体的に全く手が付けられないという問題ではない。1年間における受験勉強の流れを概観する。夏までの時期には、標準問題の徹底した演習が不可欠である。夏は、受験生にとって大事な時期であり、翌年の受験の合否を決定すると言っても過言ではない、まさに受験勉強の『天王山』である。この時期(夏)から全国レベルの難関校の数学の入試問題に挑戦して欲しい。夏の時期にしっかりとした基礎力と応用力を身に付けることに専念すること。
そのような『学力』を確実に習得することが、秋以降本番入試までの確かな実戦力を着実にする唯一の方法であることを認識して欲しい。そのためには、何をどうすればよいのかについて、具体的に分野を絞って以下に見てみたいと思う。
(1)数の性質に関する問題には要注意である。
小数点第2位を四捨五入して、というような条件を与えられた場合に、不等式を用いて式を立て、設問が求めている解答を導き出す手法がある。その際にも、闇雲に思考を進めては時間のロスは否めない。
適正な方向性をもって論理を組み立てられるかどうかは、どの問題においても必須な要件であり、その部分がぶれていては、自分で『素晴らしいアイデア』だと自画自賛したところで、それは単なる思い付きに過ぎず正解にはたどり着けないだろう。また、数の性質、特に整数解を求める不定方程式などの問題にも十分慣れておくように。
(2)関数の問題は必ず出題される。
放物線と直線、つまり2次関数と1次関数の融合問題は得意分野となるまで徹底的に演習を重ねて欲しい。この分野の問題は、特定の高校という訳ではなく、高校受験の数学においては必須分野である。何故か。それはこの融合問題によって、中学数学のほぼ全分野の知識とその理解とが確認できるからである。2~3点具体例を挙げてみる。
第1に、放物線と直線の交点の座標に関連した問題である。その交点のx座標は、放物線と直線との連立方程式(つまりxに関する2次方程式の解)となる。その際、単純に解の公式を用いてxの解を求めるというのではなく、その後の問題展開を考慮して『解と係数の関係』を用いた方が、端的にかつ確実に正解を求められる場合がある。
第2に、放物線と直線との2交点を用いて特定の図形(三角形の場合が多いが)と面積が同じになる、又は2倍、3倍となる場合における2交点以外の放物線上の第3点目の座標を求める問題も要注意である。様々な解法はあるが、基本的には『等積変形』の考え方を如何に効率よく設問に当てはめていくか、ここがポイントである。
また、上記2交点と特定の条件を付与された動点Pによって出来上がる図形におけるxとyの関係を基本とする問題、いわゆる『軌跡』に関しても事前準備はしっかりやっておくこと。
第3に、『格子点(x、y座標の値が整数値)』に関してもその特性を自在に扱えるようにしておかなければならない。
平面座標から格子点の個数を具体的に数えさせたり、文字を使って抽象的に条件を与えられ、格子点の数を所与の文字を使って表現させたりする出題も可能である。
第4に、確率の問題にも拡張できる。
例えば、点Pが原点をスタート地点としてサイコロを振り(振るサイコロは1個とは限らず、複数の場合もあり得る)、5回までは偶数目はx軸方向へ、奇数目はy軸方向へ進み、6回~10回目までは、偶数目はx軸方向と逆へ、奇数目はy軸方向と逆へ進みとして、最終的に点Pが再び原点に戻ってくる確率を求める問題などにも慣れておく必要がある。
以上、概観したように、放物線と直線との融合問題には数量編は当然のこととして、幾何・確率の分野までも出題可能なのである。ここに、この分野が高校入試において必ず出題される理由がある。
(3)立体図形(空間図形)に関する問題も繰り返し演習を行っておくこと。
立体図形の切り口を扱う問題は得意として欲しい。この問題は基本的には立方体を使う場合が多いが、原則的に同一平面に存在する2点を結ぶ作業を行い、次に対面に対し平行に直線を引くという手順で進めてゆくと手際よく切り口の形が見えてくる。その結果得られた『平面図形』において、三平方の定理・合同・相似・点対称移動などの考えかたを用いて解答する問題形式となる。
また、空間という三次元の世界を紙という二次元の思考の中で考えるために、有効な手段を示して置く。『立体を三方向からイメージする』ということである。三方面とは、『真上・真正面・真横』である。
これらの方向からのイメージを頭の中で一つの立体として完成させ、できれば回転させたり斜めにしたりできるような想像力を逞しくする訓練を積んで欲しい。そのためには、コンピュータ・グラフィックなどを実際に自分の目で見てみることも大事である。
(4)最後に規則性の問題も重要である。規則性には様々な出題形式があるが、数列の場合を考えてみると、第n項の値についてnを用いて数式化する訓練をしっかりつけること。項数との関係性も重要なファクターである。数列以外にも、規則性の問題は限りなく存在するので様々な問題形式に触れておくように。
総括として一言。
参考書や問題集には、特殊な受験テクニカルな公式が掲載されている場合が多いが、大事なことはその公式を丸暗記して目の前の問題の数値を当てはめて答えを出すのではなく、一度自分でその公式がどのようなプロセスで導き出されたのかを検証することである。公式はあくまで結果であって、大切なことはその結果に至る過程(プロセス)でどのような『考え方』を用いたかであることを忘れないでほしい。
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2022年度「開成高等学校の数学」の
攻略ポイント
特徴と時間配分
【大問1】小問題<10分>
(1)2次方程式の解・近似値を求める問題<5分>
(2)場合の数を求める問題(新傾向)<5分>
【大問2】数と式(式の計算)に関する問題<15分>
(1)指定された操作に従って式の計算を行う問題<2分>
(2)指定された操作に従って式の計算を行う問題<4分>
(3)指定された操作に従って式の計算を行う問題<4分>
(4)指定された操作に従って式の計算を行う問題<5分>
【大問3】空間図形(立方体・正二十面体)に関する問題<15分>
(1)立面図に関する問題<2分>
(2)指定された辺の長さと立式(2次方程式)の問題<5分>
(3)三角形の面積と長さを求める問題<4分>
(4)立方体の内部にある正多面体(正二十面体)の体積を求める問題<4分>
【大問4】平面図形(円)に関する問題<20分>
(1)証明問題<7分>
(2)証明・説明が通用しないような場合に関する問題<5分>
(3)証明問題<8分>
【大問1】小問の集合題
- 時間配分:10分
(1)2次方程式の解と近似値を求める問題<5分>。
2次方程式7x2−4√2x+1=0の解を解の公式を用いて求める。その解のうち、に近い値(近似値)を求める。√2=1.414として計算することを指定されているので、求めた解の√2を1.414として計算し近似値を求める。
(2)場合の数を求める問題<5分>。
縦5マス、横4マスの計20マスの長方形の図形において、左下から右上に移動する際に指定された回数と条件に基づいて、移動する場合の数を求める問題である。条件の中に移動できないマスがあるので、そのマスを除いたマスにA~Nの記号をふりStartからGoalに移動するためにどの記号をたどるかを考える。
【大問2】式の性質に関する問題
- 時間配分:15分
(1) 指定された操作1を行った後のAを求める問題<2分>。
ただし、分母がxy2、分子が多項式になるような形で答える。操作1を行うと、A=(B2+1)÷Aの計算式から求められるy2+1という多項式を文字で置き換えて考える。
(2) 指定された操作2を行った後のBを求める問題<4分>。
ただし、分母が単項式、分子が多項式になるような形で答える。操作2を行うと、B=(A+1)÷Bの計算から得られるx+1という多項式を文字で置き換えて考える。
(3)(2)の結果から操作1を行った後のAを求める問題<4分>。
(2)よりB=(x+1)÷yであるので、操作1を行うとA=(B2+1)÷Aとなり丁寧に計算すると結果はxとなる。
(4)(3)の結果から操作2を行った後のBを求める問題<5分>。
(3)よりA=xであり、操作2を行うとB=(A+1)÷Bとなり結果はyとなる。
【大問3】空間図形(立方体・正二十面体)の問題
- 時間配分:15分
1辺の長さが4の立方体の中に、2つの与えられた条件を満たす正多面体X(=正二十面体)に関する問題である。
(1)立面図を考える問題<2分>。
与えられた条件の中に『立方体の6つの面が、正多面体Xのいずれかの辺を含む』とあるので、立方体を正面から見るとXの辺のうち立方体の平面上に存在する辺がある。このイメージから正面から見た図(立面図)を考える。
(2)辺の長さ・立式を求める問題<5分>。
多面体Xの一つの面は正三角形である。△PQRにおいてQRの中点をSとすると△PQSは各辺の比が√3:1:2となる。このことよりPSをℓを用いて表すことができる。次に、立方体をある面で切断することにより直角三角形を見つけ出し三平方の定理をあてはめる。
(3)面積・辺の長さを求める問題<4分>。
立方体の対称の中心をOとする。ここで、△OPSの高さは2となるので、△OPS=×2×2=2となる。Oから△PQRに垂線を引いた場合にその垂線がhとなる。(2)よりPS=√3ℓ=√15-√3であるので、△OPSにおいて、×(√15-√3)×h=2が成立するのでhについて解いて分母を有理化する。
(4)正多面体Xの体積を求める問題<4分>。
正多面体Xは正二十面体であると判明するので、求めるXの体積は三角錐O-PQRの20倍となる。よって、三角錐O-PQRの体積=−であるので、Xの体積は20×(−)で求められる。
【大問4】平面図形(円)に関する証明問題
- 時間配分:20分
先生と生徒(勉君)との会話を設定し、円に関する幾何の証明問題を解く問題。例年にない出題傾向である。この類の問題が初見である受験生も多いと思われるが、先生が提示した条件から最終的な証明事項を正確に論理構成してゆこう。
(1)3点A、R、Dが一直線上に存在する証明問題<7分>。
A、R、Dが一直線になるためには、∠ARO+∠ORD=180°になればよい。その過程で、四角形ORDQが円に内接する四角形であることを利用する。
(2)(1)で証明した手法が通用しない場合を考え図で示す問題<5分>。
との交点Pが線分AB上に存在していない場合を考え、かつ設問で与えられた条件である『の中心が、、の中心を通る直線より上であり直線OQより左側になる』ということを踏まえて考える。
(3)証明問題<8分>。
(1)の反証として挙げた(2)の場合でも3点A、R、Dが一直線上にあることを証明する問題である。∠ARO+∠ORD=180°を証明することが必要であるが、円に内接する四角形PBQOの性質と弧ODに対する円周角の定理を利用する。
攻略のポイント
柔軟な発想とイメージコントロールを要求される多種多様な問題設定である。全く手が付けられないという問題はないであろうが、限られた時間の中で手際よく正解を導くためには、相当な演習量をこなし発想力や着眼点を日頃の学習において最高に磨かなければならない。
演習問題のレベルは、当然ながら全国最難関校以上の過去問題であり、単純なスキル演習を数多くこなして対応できる問題レベルではない。正解へ向け、瞬間的に解法への適切な方針を立てられるか、この点が最重要である。さらに、方針を立てる場合に、3手先、4手先まで見通すことのできる「眼力」が必要である。先々まで想定できる力こそ、真の数学思考力であると認識して欲しい。
また、図形問題や整数の性質問題などにおいては、事象の本質的領域に関わるような発想ができるかどうかが正答を導けるか否かのカギである。図形問題では、空間における複眼的な見方(2方向から見た平面図を頭の中で一体化する見方)の練習をしっかり行うことが必要である。また、今年度は先生と生徒の2人の会話を設定し、幾何の問題を証明させる設問が出題された。このような類の問題が初見である場合も多いかもしれないが問題の本質をしっかり理解し、証明したい事項を論理的に思考することが肝要である。