出典は、『人間を信じる』（著者：吉野源三郎）。

本文の内容は、社会の中にあって個人の力には限界があることは否めないが、現実に対して理想は全然無力であり、現実は動かしがたいものである、と考えるのは間違っているとする。結論的に筆者は、理想とは「私たちにかかげられている幻影」ではなく、「古い現実の中から生まれ出ようとしている……前触れであり」、「地平線の向うから投げかけて来る暁光」であると論じている。

（問一）内容把握表現選択問題である＜2分＞。
Ⅰ．「大きな視野の中に入れて見直す」ことである。
Ⅱ．「ユートピストたち」が描いた理想的な国や政治や社会制度をどの様に考えていたかを考える。
Ⅲ．「現実によって理想がはばまれること……それは、人間の最も本質的な要求の否定」であり、「理想は、けっして現実からかけはなれた根なし草ではない」という個所を参考に考える。

（問二）内容把握記述問題＜6分＞。
本文の趣旨に基づくと「個人は……社会を離れては存在すること」は不可能であり、そうであるならば「個人」が抱く「理想」も社会を離れて存在しない、つまり「理想」は「社会の生み出したもの」なのである。

（問三）接続語選択問題である＜2分＞。
Ａ．空欄Ａの前後の関係は、因果関係である。したがって、選択するべき接続語は「だから」である。
Ｂ．直前の文意を直後で否定している文脈を考えると「しかし」が最適である。
Ｃ．ここで「有名なユートピア思想家のことをお話しできないのは残念」なのである。

（問四）内容把握問題である＜5分＞。
（１）本文によれば「現実の国家や社会の欠陥に気がついて、その欠陥をとりのぞいた理想の国や、理想の社会生活を構想した思想家……が描いた理想的な国がユートピア」なのである。しかし、「多くの場合、……どうしてそのような理想的な社会に到達できるのか……という現実の問題には答えていない」ので「空想の産物」なのである。
（２）本文に「理想とは……現実と無縁なものであるどころか……現実の中から、現実との関係で生まれてくるものなのだ」とある。

（問五）指示語問題である＜3分＞。
傍線3の直前にある「それが無力」であることが指示語の内容であり、つまり「自分が理想と思ったものが現実に対して無力」ということである。

（問六）漢字書取り問題である＜3分＞。
「不動」「考案」「冷酷」「一隅」「標識」はそれぞれ標準的な漢字である。完答を目指したい。

出典は、『姨捨』（著者：井上靖）。

（問一）内容把握記述問題である＜8分＞。
「母」は姨捨伝説の話によれば捨てられる年齢に達したと気がついたのである。これが「これが自分の老齢を意識」したのである。「それに反抗」するということは、「生来の自尊心の強さと負けん気から、……戦後の時代の雰囲気というものに瞬間挑戦する気になった」ということである。

 （問二）内容把握選択問題である＜7分＞。
（１）「私はわれに返ると、空想の中の母に、以下にも自然に母らしい性格がにじみ出ていることが可笑しかった」のであり、「母自らが捨てられることを望んでいるからである。捨てられたいと言い張って諾かないのである。私はそんな背の母を持て余して、姨捨の丘陵地帯をさまよい歩いているのであった」ことすら「可笑しさ」だったのである。
（２）「私」の「空想」は、「私と私の背に負われている母との会話は自然にすらすらと私の脳裡に流れ出て来たもの」なのである。

（問三）内容把握選択問題である＜5分＞。
Ⅰ．空欄Ⅰの直前に「あそこは夏には藪蚊が多いと思うの。それに建物も古いし、部屋も暗くて陰気じゃあありませんか」と母が批判的に発言していることを参考にする。
Ⅱ．「家へだけはどんなことがあっても帰りません」とあり、これは家へ帰ることは「みんなと一緒になる」ということである。
Ⅲ．この会話の中に何度も「わが儘」という単語が出てくる。

（問四）適内容把握記述問題である＜3分＞。
母は「寒くなった。月の光がちくちくと肌を刺すような気がする」と発言している。「私」は母が感じたと同じように「月光が刺すように痛く沁み込んで」来たのである。その情景は「『私』の心と体が冷え冷えと感じ」ている様子が読み取れる。

（問五）文学史問題である＜2分＞。
『沈黙』の作者は遠藤周作である。

（問六）漢字の読み取り問題である＜4分＞。
漢字の読み取り問題が5題である。「拍子」「弟妹」「暫」「裾」「寧」の読み方である。「弟妹＝ていまい」と読む。