｢荒れ果てた世界｣の片隅で、｢あたし｣は､言葉も生活習慣も異なる｢赤｣｢銀｣｢チビ｣と呼んでいる３人の子どもたちと、植物で覆われた｢緑の家｣で、お互いを無視し自分の｢テリトリー｣で好きなように暮らしていたが、ふとしたことから全員で協力して自転車作りを始めたことをきっかけに、｢あたし｣は次第に３人と心を通わせていく――独特の世界観の中で、子どもたちがお互いの｢違い｣を認め合い、｢言葉｣ではない｢心のコミュニケーション｣を通い合わせるようになっていく姿が描かれている。

｢会話｣が一切ない小説なので(｢言葉｣が通じないという設定なので当然だ)､｢状況｣や｢情景｣の描写から丁寧に｢心情｣を読み取っていく必要がある。

｢説明記述設問｣の多くが｢内容説明｣｢理由説明｣と｢心情説明｣なのは例年どおりだが、本年度はいつになく｢条件｣が付されているものが多い。したがって、｢条件｣をいかに的確にクリアできるかが正否のポイントとなってくる。
以下、具体的にいくつかの設問を検討してみたい。

[問一]　｢漢字の書きとり｣(４問)。

(ａ)｢サンサクに出ていた｣＝｢散策｣､
(ｂ)｢あるバン､あたしはふいに目が覚めた｣＝｢晩｣､
(ｃ)｢朝日にハンシャ｣＝｢反射｣､
(ｄ)｢ピンク色をオびた細長い雲｣＝｢帯(びた)｣｡

昨年度よりは若干難易度がアップしたが、この程度であれば､本校志望者は、当然｢全問正解｣といきたい。

＜時間配分目安：１分以内＞

[問二(１)]　｢心情説明抜き出し｣(｢10字｣指定)。

傍線部①｢全員、使う言葉が違う｣について、｢他の三人の言葉を聞くと、『あたし』の気持はどうなるか｣､それがわかる｢十字の表現｣を抜き出して答える。

｢抜き出し設問｣では、先ず｢抜き出し内容｣を特定し、その上で｢抜き出し範囲｣を絞りこんでいくことが肝要だ。
では、ここでの｢内容｣は何か？　

傍線部の直前に｢あたしはここを『緑の家』と呼ぶ――だけど、他の連中はそうは呼ばない｣とあり、直後には｢緑の家にはあたし以外に三人の子どもが住みついている｣とある(｢小説は同一場面の直前直後に根拠あり｣が大原則)。

つまり、｢緑の家に住みついている､使う言葉が違う他の三人の子どもの言葉を聞くときの『あたしの気持ち』｣が｢抜き出し内容｣となる。

次に｢範囲｣だが、当然､｢小説｣の｢手がかり･ヒント｣の基本となる｢同一場面｣だ。
そして、[問二]全体の｢条件｣として示されている｢１～38行目の部分｣というのが、まさに｢同一場面｣と合致している(何ということでしょう)｡確認していく。

すると16行目(本校では、本文に５行毎に行数の数字が記されている。至れり尽くせりだ)からの部分に、｢あたしたちは口をきかない｡きいたところで意味がわからないし､知らない言葉が耳に入ると不安で、イライラする｡それは他の三人も同じらしい｣とある。

まさに、｢他の三人の子どもの言葉を聞くときの『あたしの気持ち』｣だ。｢字数｣も合致する。

したがって、｢答え｣は｢不安で、イライラする｣となる。

｢抜き出し｣では、必ず｢抜き出し範囲｣を絞りこむこと｡当てもなく探していては時間の浪費だ。

＜時間配分目安：２分＞

[問二(２)]　｢内容説明記述｣(字数指定なし。解答欄１行。１行＝25～30字程度。以下同じ)。

｢１～38行目の部分を読んで｣､｢四人は家の中でどのように暮らしているか｣を簡潔に説明する。

無論、前問から明らかなように、｢四人｣とは｢あたし｣と｢他の三人｣であり、｢家｣とは｢緑の家｣だ。
｢同一場面｣(１～38行目)から分かる｢家の中での四人の暮らしぶり｣をチェックしてみたい。

｢家の中での四人｣と限定されているので、２ヵ所だけだ。

｢ひとつの部屋にいながら、全員が互いに存在を無視して、関わらないようにしている｣(18行目)､
｢自分のテリトリー(＝※注｢なわばり｣)の中ではそれぞれが好きなように過ごしている｣(27行目)｡

これらを字数に応じて｢過不足なく｣まとめていきたい。
たとえば、｢互いに存在を無視して、自分のテリトリーで好きに過ごしている｡｣といった｢答え｣になる。

｢同一場面｣から｢状況｣を的確に読み取ることが重要だ。

＜時間配分目安：２分＞

[問三]　｢比喩換言説明記述｣(字数指定なし。解答欄１行)。

傍線部②の｢嵐が過ぎ去る｣について､この場合、｢どのようなことを表しているか｣を説明する。

もちろん､ここでの｢嵐｣は｢比喩｣だ。では、何の｢比喩｣なのか？　
先ずは、｢傍線部一文一部の法則｣(｢傍線部が一文の一部分だった場合、傍線部以外が重要｣という読解の基本となる｢解法｣｡｢小説｣に限らず全ての文章に適用可能)で、｢手がかり･ヒント｣を探す。

傍線部直前には｢他の三人も同じように黙ってうずくまり｣とあり、直後は｢(～過ぎ去る)のを待った｣となっている。
｢黙ってうずくまり｣｢(～過ぎ去る)のを待｣つものとは？　前文(88行目)には｢大人たちが早くどこかへ行ってしまうように願った｣とある。

つまり、｢(～過ぎ去る)のを待｣つのは｢大人たち｣ということだ。どのような｢大人たち｣なのか？　
｢同一場面｣で｢状況｣を確認すると、｢夜、大人たちが家の前で大騒ぎをしている｣(85行目)ことが分かる。さらに、｢怖くない大人は朝に会う人たちで、夜うろつくやつらではない｣(83行目)と説明されている。
であれば、｢夜、家の前で大騒ぎをしている｣のは｢怖い大人たち｣となる。

ここまで読み解いていけば、｢嵐｣は何の｢比喩｣なのかは判明したはずだ(無論、｢過ぎ去る｣についても合わせて換言する)。｢過不足なく｣まとめていく。

たとえば、｢怖い大人たちの大騒ぎが収まり､家の前からいなくなること。｣といった｢答え｣だ。

｢比喩換言｣は本校に限らず上位校では頻出だ。｢比喩表現｣の｢意味｣を的確に捉えて説明することを心がけよ。

＜時間配分目安：２分半＞

[問七]　｢条件付き内容説明記述｣(字数指定なし。解答欄３行)。

傍線部⑦の｢こうしてあたしたちは自転車作りに取りかかった｣について､｢あたしたち｣が｢自転車作り｣に取りかかるまでに、｢あたし｣は｢どのようなことをしたか｣を説明する。

｢条件｣は｢ていねいに説明する｣こと。｢こうして｣という｢指示語｣があるので、その指示する部分(範囲)に、｢あたし｣が｢したこと｣も説明されているはず(尚、｢指示語｣が出たらすぐに開くことが肝要)｡
確認すると、｢110行目｣以降で｢自転車作り｣に至る｢経緯｣が説明されていることが分かる。

そこでは先ず、｢チビ｣が｢あたし｣に｢自転車作り｣を持ちかけ､次に同意した｢あたし｣が｢あのふたり(｢銀｣と｢赤｣)にも協力してもらおう｣と動き出す。
そこ(140行目)からが｢あたし｣が｢したこと｣になる。

｢条件｣に則して｢ていねいに｣読み解いていかないと、｢指定字数｣に応じた適切な説明ができないので注意したい。チェックしていく。

｢あたしはまず銀に頼むことにした｣(141行目)⇒｢銀は青い唇の端だけで笑う｣(147行目)⇒｢赤のところへ向かった｣(147行目)｢赤は腕を組んでむっつりしている｣(148行目)⇒｢ごめん､とあたしは言った。ひどいことを言ってごめんなさい｣(153行目)⇒｢すると赤は……､緑の家から出て行ってしまった｣(155行目)⇒｢あたしは赤の姿を探した。自転車を作りたかったし、……胸のあたりのもやもやを取り去れるのは、赤だけだとわかっていたから｣(160行目)⇒｢あたしが声をかける……あたしは怒鳴られなかった｣(165行目)⇒｢赤は……何かを……あたしに見せてくれた｣(169行目)⇒｢自転車のペダル。赤も自転車作りに加わってくれるみたいだ｣(172行目)｡

こうした内容を｢ていねいに｣まとめていくことになる。
たとえば、｢まず､自転車作りの協力を銀に頼み、笑ってくれたので、次に､むっつりしている赤にひどいことを言ったことを謝り､そのまま出て行ってしまった赤を追いかけ、声をかけて胸のもやもやを伝えようとした｡｣といった｢答え｣になる。

｢説明記述｣では、｢指定字数｣に応じて｢説明すべき要素｣を臨機応変に加減することが求められる。

＜時間配分目安：４分半＞

[問八]　｢内容説明選択肢｣(４択)。

傍線部⑧｢そのうち、食料の調達は順番で全員がやるようになり、あたしが赤に代わってネジを回して留めたり、チビにいいものを見つけるコツを教わったりした｣について、このことは｢四人がどのようになったことを表しているか｣を答える。

傍線部の｢原意｣を根拠として(｢原意絶対優位の原則｣＝｢設問｣｢傍線部｣等の｢原意｣、要は｢本来の意味｣を最優先に考えること)、｢選択肢｣を｢消去｣したい(｢選択肢問題｣は｢消去法｣が大原則)｡

先ずは、各選択肢の｢文末｣を照合する(｢選択肢説明｣のポイントとなる最重要要素は｢文末｣にある)。
(ア)｢自立した生活を営めるようになった｣⇒｢協同｣して作業していることは明白＝｢不適切｣､
(イ)｢たがいに競争しながらはげましあう関係になった｣⇒｢競争｣も｢はげましあい｣も読み取れない＝｢不適切｣､
(ウ)｢協力関係がさらに強くなった｣⇒傍線部に否定すべき要素となる｢原意｣はない＝｢適切｣､
(エ)｢前より効率よく作業を進められるようになった｣⇒傍線部の最初に｢そのうち｣とあるのだから当然、｢前より効率よく｣なったはず＝｢適切｣｡

この段階で｢ニ択｣となった。

次に、各選択肢の｢前半｣で｢消去｣する。
(ウ)｢おたがいの生活を支えあい、全員が自転車作りの作業に参加｣⇒｢食料の調達は順番で全員がやる｣などから分かるように､特に誤ってはいない＝｢適切｣､
(エ)｢生活のすべてを全員が共同で行い、仕事を平等に分担｣⇒｢食料の調達は順番｣であり、｢あたしが赤に代わって｣することもある＝明らかに｢不適切｣｡

よって、｢答え｣は(ウ)になる。

｢選択肢設問｣では、｢原意消去｣を駆使して段階的に｢消去｣していくことが肝要(無論、｢一発消去｣の場合もある)。

＜時間配分目安：２分半＞