東日本大震災発生時、盛岡の高校２年生だった主人公･｢伊智花(いちか)｣の目を通して、岩手、宮城、福島にゆかりがある同世代の若者たちの経験や思いを紡いだ連作小説。震災報道では触れられることのない、さまざまな葛藤や悩み、苦しみ、そして、語れないと思っていたこと、言葉にできなかったこと──いくつもの｢声｣を瑞々(みずみず)しい文体で綴(つづ)っている。本文では、美術部で最後のコンクールに出品するための絵を描いていた時に大震災に見舞われ、さまざまな体験をしながらも半年をかけて納得のいく｢不動の滝｣の絵を仕上げたが、最優秀賞を逃がしてしまった｢伊智花｣の姿が生き生きと描かれている。本年度の｢説明記述設問｣は、｢内容説明｣と｢理由説明｣がともに４問で、｢心情説明｣が２問だ。無論、定番の｢条件付き｣の設問がある。｢条件｣をいかに的確にクリアできるかが正否のポイントとなってくる。当然ながら、｢選択肢設問｣も抜かりなく。以下、具体的にいくつかの設問を検討してみたい。

※尚、本校では例年、｢本文｣全体に｢５行ごと｣に｢行番号｣が記されている。

[問一]　｢漢字の書きとり｣(４問)。

(ａ)｢一番最優秀賞に近いところにいるジフがあった｣＝｢自負｣⇒正解して当然。

(ｂ)｢懇願(こんがん)のようなシャザイのような何とも複雑な表情｣＝｢謝罪｣⇒｢文脈｣を正確につかみ、一画一画を丁寧に記すこと。

(ｃ)｢あまりにも作為的でシャジツ的とは言いにくい｣＝｢写実｣⇒｢物事をありのままに描写すること｣という意味も押さえておきたい｡

(ｄ)｢吹奏楽部のキンカン楽器｣＝｢金管｣⇒｢音楽｣で習ったはず。本年度を含めここ数年は平易なものが多い｡だからこそ、油断せずに細部に注意すること｡無論､本校志望者は｢全問正解｣が必須だ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜時間配分目安：全問で２分＞

[問二]　｢理由説明記述｣(字数指定なし。解答欄２行。１行＝25～30字程度。以下同じ)。傍線部①｢『大丈夫大丈夫』と独り言を繰り返した｣について､｢『私』がこのようなことをしたのはなぜか｣を説明する。｢理由説明｣で大きな｢手がかり｣となる｢きっかけ･結果｣を確認したい。

｢傍線部一文一部の法則｣でチェックする(｢傍線部が一文の一部分だった場合、傍線部以外が重要｣という読解の基本となる解法)。直前に｢揺れが収まった後もしばらくはどきどきして｣とある｡ここから、｢地震直後｣で｢大きく動揺していた｣ことが分かるはずだ。そこで｢大丈夫大丈夫｣と｢繰り返した｣のだから、｢動揺を抑えようとしている｣ことが読み取れる。また、｢独り言｣から｢私｣は｢ひとり｣だったことが分かる。さらに、｢同一場面｣から｢状況｣を読み解いていきたい(｢小説は同一場面の直前直後に根拠あり｣が大原則)。｢私｣は岩手県盛岡市の自宅にひとりでいて、｢地震｣は｢東日本大震災｣であり｢あまりにも普通ではない揺れだった｣ことが読み取れる。こうした｢状況｣が、｢私｣が｢｢『大丈夫大丈夫』と独り言を繰り返した｣ことの｢理由｣に結びついているわけだ。あとは。｢過不足なく｣まとめていきたい。たとえば、｢『大丈夫』と自分に言い聞かせることで、ひとりであまりにも普通ではない地震の揺れに襲われた激しい動揺をしずめたかったから｡｣(60字)といった｢答え｣になる。

的確に｢状況｣を把握することが肝要。尚、｢説明記述｣では、必ず｢最重要要素｣(｢理由説明｣では｢直接的理由｣)を｢文末｣とすること。  

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[問三]　｢心情説明記述｣(字数指定なし。解答欄２行)。

傍線部②｢うそじゃん。と声が出た｣について､｢この時の『私』の気持ち｣を説明する。｢私｣の口から｢うそじゃん｣と思わず｢声が出た｣のだから、｢信じることができずに驚いている、あぜんとしている｣という｢心情｣が読み取れなくてはいけない。何に対してなのか？ ｢同一場面｣を確認する。直前･直後から、地震発災時からの停電が復旧してすぐテレビをつけると｢そこに流れたのは真っ黒い波がいくつもの家を飲み込む映像｣で、｢ＣＧか、映画か｣と思い、｢波があまりに大きくて、遠近感がよくわからない映像だった｣という｢状況｣だと分かる。したがって、こうした内容を｢驚いている、あぜんとしている｣という｢心情｣を｢文末｣として的確にまとめていけばいい。たとえば、｢テレビから流れた、真っ黒い波がいくつもの家を飲み込む映像は、とても現実とは信じることができずに驚き、あぜんとする気持ち｡｣(60字)といった｢答え｣だ。｢小説｣が題材である本校では必ず｢心情｣が問われる。その際、｢セリフ｣⇔｢ト書き｣⇔｢動作｣⇔｢情景｣といった具合に多角的に読み取ることが肝要だと心得よ。

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[問五]　｢理由説明選択肢｣(４択)。

傍線部④｢……描いた方がいいですか｣について、｢『私』がこのような態度を示すのはなぜか｣を答える。

｢選択肢問題｣は｢消去法｣が大原則だ。先ずは｢設問｣だけで｢原意消去｣をしたい(｢原意絶対優位の原則｣＝｢設問｣｢傍線部｣等の｢原意｣、要は｢本来の意味｣を最優先に考えること)｡本問は｢理由説明｣なので、｢私｣が｢……描いた方がいいですか｣と問う｢態度｣を示した｢直接的理由｣として結びつかない｢文末｣の選択肢を｢消去｣していきたい(｢選択肢説明｣のポイントとなる最重要要素は｢文末｣にある)。それぞれの｢文末｣⇒だから⇒｢……描いた方がいいですか｣という態度を示す、と結びつくかどうかだ。確認する。

(ア)｢自信が持てなかったから｣

(イ)｢分からなくなったから｣

(ウ)｢違和感を覚えたから｣

(エ)｢怒りを感じたから｣

｢描く｣ことに疑問を感じてためらっている｢私の態度｣だと読み取れるはずなので、｢違和感を覚えたから｣以外は｢消去｣だと判別できなくてはいけない。念のために、(ウ)の他の部分の説明を｢同一場面｣で確認する。特に誤ってはいない。したがって、｢答え｣は(ウ)でＯＫだ。｢一発消去｣だ。｢原意消去｣(｢理由説明｣では｢直接的理由｣での｢消去｣)、十分に活用すべし。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜時間配分目安：１分＞

[問七]　｢内容説明記述｣(字数指定なし。解答欄１行)。

傍線部⑦｢私はこの絵を見た人に、そう言われたかったのだ｣について､｢『私』は『この絵』について、どのような点をほめてほしかったのか｣を説明する。｢そう言われたかった｣のだから、｢言われた内容｣が｢ほめてほしかった点｣に決まっている。｢指示語｣なので、｢指し示す内容｣を読み取っていく。｢指示語が出たら前を見よ｣が鉄則。確認すると、直前から｢みかちゃんの言葉｣だと分かり、｢そう｣＝｢見上げるような構図。……すごい迫力なんだよね。光の線も、やりすぎじゃないのにちゃんと光として見える、控えめなのに力強くてさ、伊智花の絵はすごいよ、すごい｣という内容だとすぐに分かるはず。あとは、簡潔にまとめていきたい。たとえば、｢やりすぎではなく控えめだが迫力があり、力強く描かれている点｡｣(30字)といった｢答え｣になる。尚、本校に限らず｢指示語設問｣は頻出だ。｢抜き出し｣｢記述｣などの設問形式を問わずこなせるように解法を習得しておくこと。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜時間配分目安：２分弱＞

[問十一]　｢内容説明選択肢｣(４択)。

傍線部⑪｢『この絵を見て元気が湧いたり、明るい気持ちになって、頑張ろうって思ってもらえたらうれしいです』と、小さく声に出して言う｣について、｢この時の『私』について述べたもの｣を答える。無論、先ずは｢原意消去｣からだ｡｢この時の『私』｣についての読み取りで最大のポイントは｢小さく声に出して言う｣という｢ト書き｣だとすぐに判断できなくてはいけない。｢言っている内容｣に関して、｢私｣自身は何か自信がなく、こだわりがあると読み取れるはずだ。そうした｢原意｣と結びつかないものを｢消去｣していく。各選択肢の｢文末｣を確認する。

(ア)｢自分を偽(いつわ)ることになると思っている｣

(イ)｢絵で誰かを元気づけたかったのだと改めて感じている｣

(ウ)｢自分が受賞できた時のことを具体的に思い浮かべている｣

(エ)｢人に評価される絵を描こうと固く心に決めている｣

｢自信がなく、こだわりがある｣のだから、｢自分を偽ることになる｣以外は｢消去｣していいと判別できるはず。他の部分の説明も、｢同一場面｣から特に誤ってはいないと分かる。よって、｢答え｣は(ア)。本問も｢一発消去｣、畏るべし！ ｢原意消去｣。尚、[問三]でも述べたが、 ｢セリフ｣⇔｢ト書き｣の連関はとても重要だ。常に意識すること。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜時間配分目安：１分強＞

[問十二(１)]　｢条件付き心情変化説明記述｣(字数指定なし。解答欄５行)。

傍線部⑫｢夕方の美術室にひとりきり、私は私の滝を抱きしめていた｣について、｢私の滝｣とあるが、波線部      ｢不動の滝の大好きな祖母に捧げるような気持ちで、祖母と対話をしているような気持ちで｣描いていた｢私｣は、｢震災を経た後に、滝の絵をどのような思いで描くようになっていったか｣を説明する。｢条件｣は｢震災以降の絵に向かう姿勢の変化を、二つの段階に分けて説明する｣こと。｢条件｣に即して、本文全体を読み解いていかなくてはならない。

震災直後、｢伊智花｣は｢改めて、集大成の滝を描こう｣と思い、｢必ず賞を獲る｣と決意していた(95～100行)。しかし、絵自体ではなく、絵に込められたメッセージ性が求められていた｢ニセアカシアの絵｣を描かされ、理不尽な現実を味わった｢伊智花｣は、自分の中にうずまく｢黒い靄(もや)｣を｢怒り｣で押し流すように、｢亡くなった祖母｣や賞のことさえ忘れ、ただひたすらにキャンバスに向き合うようになっていった(189～200行)。こうした｢絵に向かう姿勢の変化｣を整理してバランスも考慮して、まとめていきたい。たとえば、｢震災直後は、改めて、高校生活の集大成になる『滝』を描こうと思い、必ず賞を獲ると決意して強い姿勢で臨んでいたが、『ニセアカシアの絵』で理不尽な現実を味わった後は、自分の中にあるわだかまりを怒りで押し出すように、亡くなった祖母や賞のことさえ忘れ、ただひたすらにキャンバスに向き合い描くようになっていった｡｣(150字)といった｢答え｣になる。｢内容(心情)変化説明｣では、｢Ａ→(きっかけ)→Ｂ｣という具合に｢変化のきっかけ｣をはさんで｢変化の前後｣をしっかりと説明する必要があることを記銘しておきたい。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜時間配分目安：５～６分＞