人知れず抱えている居心地の悪さや寂しさ。そんな感情に寄り添い、ふと心が軽くなる瞬間を鮮やかに掬(すく)い取る７篇のひとつ。新しい街に馴染めない「草児(そうじ)」は、太古の生物が好きで、博物館が唯一落ち着く場所だった。ある日、博物館で｢現実逃避｣をしているスーツ姿の男性と出会い……。本文では、転校し、新しい環境になじめず孤独感を抱いていた｢草児｣が男と交流したことをきっかけに、少しずつ周囲との関係を深め、孤独を解消していく姿が描かれている。本年度の｢説明記述設問｣は、｢理由説明｣が５問で、｢内容説明｣が３問、｢心情説明｣は１問だ。無論、定番の｢条件付き｣の設問がある。｢条件｣をいかに的確にクリアできるかが正否のポイントとなってくる。当然ながら、｢選択肢設問｣や｢抜き出し｣も抜かりなく。以下、具体的にいくつかの設問を検討する。

※尚、本校では例年、｢本文｣全体に｢５行ごと｣に｢行番号｣が記されている。

[問一]　｢漢字の書きとり｣(４問)。(ａ)｢毎日……スーパーマーケットに行くシュウカンがうまれた｣＝｢習慣｣⇒正解して当然。(ｂ)｢男は(駄菓子の)ホウソウを破いて、自分の口に入れた｣＝｢包装｣⇒｢文脈｣を正確につかみ、一画一画を丁寧に記すこと。(ｃ)｢(タイムマシンを)ソウジュウできるかな｣＝｢操縦｣⇒やや悩むかもしれないが、書き切りたい｡(ｄ)｢髪は背中にタれるほど長く｣＝｢垂(れる)｣⇒細部に注意せよ。本年度を含めここ数年は平易なものが多い｡だからこそ、油断せずに細部に注意すること｡無論､本校志望者は｢全問正解｣が必須だ。

＜時間配分目安：全問で２分＞

[問三]　｢理由説明選択肢｣(４択)。傍線部③｢そう思うことで、むしろ草児の心はなぐさめられる｣のは｢なぜか｣を答える。｢選択肢問題｣は｢消去法｣が大原則だ。先ずは｢設問｣だけで｢原意消去｣をしたい(｢原意絶対優位の原則｣＝｢設問｣｢傍線部｣等の｢原意｣、要は｢本来の意味｣を最優先に考えること)｡本問は｢理由説明｣なので、｢草児の心｣が｢なぐさめられる｣ことの｢直接的理由｣として結びつかない｢文末｣の選択肢を｢消去｣していきたい(｢選択肢説明｣のポイントとなる最重要要素は｢文末｣にある)。それぞれの｢文末｣⇒だから⇒｢なぐさめられる｣と結びつくかどうかだ。確認する。(ア)｢安心するから｣､(イ)｢弱点を発見しようという気持ちになるから｣､(ウ)｢現実を意識しないですむから｣､(エ)｢教室にとけこむきっかけを見いだすことができる｣｡｢なぐさめられる｣のだから、 (イ)と(エ)は｢消去｣できると判別できなくてはいけない。次に、｢そう思う｣と｢指示語｣があるので開く(｢指示語｣が出たら即開くこと)。直前から、｢そう思う｣＝｢分厚い透明ななにかで、世界と自分とがくっきりと隔てられていると思う｣だと分かる。さらに、直後に｢自分は学校になじめないのではなく……透明の仕切りごしに彼ら(＝クラスメイト)を観察しているだけ、というポーズでどうにか頭を上げていられる｣とある(｢小説は同一場面の直前直後に根拠あり｣が大原則)。こうした｢文脈｣から、(ア)の｢彼らの存在を気にせずにいることができて(安心するから)｣は｢消去｣で、｢教室にとけこめない(現実を意識しないですむから)｣が｢答え｣だと特定できるはずだ。本問は｢２段階消去｣だったが、｢原意消去｣(｢理由説明｣では｢直接的理由｣での｢消去｣)、十分に活用すべきだ。

＜時間配分目安：２分＞

[問四]　｢内容説明記述｣(字数指定なし。解答欄１行半。１行＝25～30字程度。以下同じ)。傍線部③｢草児は自分が『食べる側』になれるとは、どうしても思えない｣について､｢教室において『食べる側』とはどのような人たちか｣を説明する。｢同一場面｣に｢手がかり｣を求めたい。直前に｢生存競争はさらに激しくなっていきました｣とある。｢生存競争｣⇒｢弱肉強食｣＝｢食うか食われるか｣だとすぐに思いつく。そして、直後には｢勉強も運動も、できないわけではないが、突出しているわけではない｣とある。であれば、｢教室｣において｢草児｣は｢食べられる側｣｢弱者｣であり、｢食べる側｣は｢勉強も運動も突出してできる人たち｣｢強者｣のことだと判断できるはずだ。あとは補足しつつまとめていけばいい。たとえば、｢学校のクラスで勉強や運動などの能力が他の生徒たちより突出して高く、強者として上位にいる人たち｡｣(47字)といった｢答え｣だ。的確に｢状況｣を把握することが肝要。尚、｢説明記述｣では、必ず｢最重要要素｣を必ず｢文末｣とすること。  

＜時間配分目安：２分半＞

[問六]　｢内容説明の抜き出し｣(｢15字｣指定)。傍線部⑤｢鞄(かばん)から、つぎつぎとお菓子が取り出される｣について、｢『男』は『お菓子』をどのようなものだと考えているか｣を｢十五字｣で抜き出して答える。｢抜き出し｣では、｢抜き出し内容｣を特定した上で｢抜き出し範囲｣を絞り込んでいくのが大原則。先ずは｢内容｣。設問のとおりで｢男にとってお菓子はどのような存在｣なのかということだ。｢抜き出し範囲｣は無論、｢同一場面｣が基本。｢同一場面｣は40行ほど前から始まっていて相当に長いのだが、｢お菓子｣に触れられているのは２行前からなので、傍線部以降を丁寧に探していく。すると、17行後に｢……だからお菓子というものは自分の精神的な命綱のようなものだと思ったのだ、というようなことをのんびりと語る男に……｣という部分がある。｢内容｣も｢字数｣もＯＫだ。｢範囲｣をさらに探しても、他に候補はない。したがって、｢答え｣は｢自分の精神的な命綱のようなもの｣(15字)になる。｢抜き出し｣では｢候補｣はひとつとは限らないので、必ず｢抜き出し範囲｣の全てを確認することが肝要だ｡

＜時間配分目安：１分半＞

[問八]　｢理由説明記述｣(字数指定なし。解答欄３行｡)。傍線部⑦｢あと、もっと前の時代のいろんな生き物にも、いっぱい、いっぱい興味がある｣について､｢草児が特に『エディアカラ紀』という時代に『興味がある』のはなぜか｣を説明する。｢理由説明｣で大きな｢手がかり｣となる｢きっかけ･結果｣を確認したい。ここでは直後に｢結果｣として、｢エディアカラ紀にさまざまなかたちの生物が出現し、獲物をおそうことはなく、食べたり食べられたりする関係はなかった｣といった｢図鑑｣の内容を｢草児｣が暗誦(あんしょう)している。その上で、｢そういう時代のそういうものとして生まれたかった｣｢周りから奇異に見られたり、どう見られているかを気にしたりするのではなく、静かに生きているだけの生物として生まれたかった｣という｢草児｣の思いが語られている。こうした内容を｢理由｣として過不足なくまとめていきたい。たとえば、｢周りから奇異に見られたり、どう見られているかを気にしたりせずに、さまざまな生物が食べたり食べられたりする関係ではなく静かに生きていたエディアカラ紀のように生きていたいと思っているから｡｣(92字)といった｢答え｣になる。｢理由説明｣では｢直接的理由｣を｢文末｣とすること。  

＜時間配分目安：２分半＞

[問十一]　｢心情説明記述｣(字数指定なし。解答欄２行)。傍線部⑩｢誰かと並んで立つ体育館の床は、ほんのすこしだけ、冷たさがましに感じられる｣について､ここには｢草児のどのような気持ちが表れているか｣を説明する。先ずは、傍線部には、｢誰かと並んで立つ｣⇒｢ほんのすこしだけ、冷たさがましに感じられる｣⇒｢温かさ｣｢穏やかさ｣｢安心感｣……といった｢心情｣が表れていると読み取れなくてはいけない。次に、｢誰か｣とは？ ｢冷たさ｣とは？ そうした｢状況｣を｢同一場面｣から読み解いていきたい。前後から、学校のどこにも居場所はないと感じていた｢草児｣が授業で初めて口を開き、直後の体育の時間、｢杉田君｣から不意に声をかけられ、ほんのすこしだけ言葉を交わしたという｢状況｣が分かるはずだ。こうしたことで｢ほんのすこしだけ、冷たさがましに感じられる｣わけだ。｢温かさ｣｢穏やかさ｣｢安心感｣などといった｢心情｣を｢文末｣として、｢状況｣を的確にまとめていけばいい。たとえば、｢杉田君から不意に声をかけられ言葉を交わしたことで、どこにも居場所のないさびしさが少しうすれ、ほっとして安心する気持ち｡｣(59字)といった｢答え｣だ。｢小説｣が題材である本校では必ず｢心情｣が問われる。その際、｢セリフ｣⇔｢ト書き｣⇔｢動作｣⇔｢情景｣といった具合に多角的に読み取ることが肝要だと心得よ。

＜時間配分目安：２分強＞

[問十三(１)]　｢条件付き理由説明記述｣(字数指定なし。解答欄４行)。傍線部⑪｢ひとくち飲んでみたコーラはしっかりと甘かった。そのことが草児をさらに笑わせ、泣きたいような気分にもさせる｣について、｢コーラが『しっかりと甘かった』ことが『草児をさらに笑わせ』るのはなぜか｣を説明する。｢条件｣は｢本文全体をふまえる｣ことと、｢傍線部④『味がぜんぜんわからなかった。給食もそうだ。甘いとも辛いとも感じない』に注目して説明する｣こと。｢条件｣である傍線部④に着目する。｢甘いとも辛いとも感じない｣｢味がぜんぜんわからなかった｣のは、｢同一場面｣および｢本文全体｣から｢草児が周囲になじめず、孤独感の中でむなしさを感じていた時期｣だと判断できる。その頃から｢コーラはしっかりと甘かった｣と｢味覚が戻る｣までに草児に何があったのか？ その間の｢状況｣を本文内容から読み取っていきたい。｢杉田くん｣という友だちができ、家族で外食するようにもなり、｢孤独感｣は｢その気になればいつだって自力でぶち破れそうな｣｢透明のビニール｣程度までうすれ、｢ここにいていいんだろうかと感じ｣ていた自分にも居場所や存在意義があることを再確認できたこと」が｢笑わせる｣ことにつながっていると読み解くことができる。こうした内容をまとめていくことになる。無論、｢笑わせる｣のだから｢直接的理由｣は｢喜び｣になる。たとえば、｢周囲になじめず、孤独感とむなしさを感じていた時期には甘さも辛さも感じず失われていた味覚が、友だちができ家族とも外食するようになって孤独感がうすれ、自分の居場所を再確認でき、しっかりと甘みを感じるまでに味覚が戻ったことが喜びを感じさせるから｡｣(120字)といった｢答え｣になる。当然ながら、｢条件｣は｢手がかり･ヒント｣でもあると心得よ。

＜時間配分目安：５～６分＞