麻布中学校 入試対策
2020年度「麻布中学校の理科」
攻略のための学習方法
与えられた資料や解説文から新しい知見を得たり、そこから推論される帰結を考えたりする能力を問う傾向が年々強くなっている。これは実験の趣旨や論理の正当性を判断する科学的リテラシーへの要求とも言える。したがって、知識や解き方をストックするという方法論では対処が難しい。
効果的な対策としては、「身の回りの科学的現象」、「高校レベルの理科知識」、「現代における重要な科学的発見」などを解説した記事に目を通し、内容を自分なりにまとめるという「調べ学習」の手法が考えられる。
そうは言っても、知識が全く必要とされないわけではない。むしろ、麻布中の入試に挑む受験生であれば、基礎的な知識が身についていることは言うに及ばず、それを自在に応用できるであろうという想定のもと、問題が設計されている。
よって、受験勉強で学習しないような知識まで覚える必要は無いが、問題集に掲載されている設問の理解や、そこで必要となる知識の習得については最低限なされていなければならない。
その際に心掛けたいのが、「設問レベルで解法を覚えようとしない」という点である。
先に述べた通り、記憶した解法の再現のみで麻布中の入試問題に対応するのはほぼ不可能に近い。重要なのは、問題を解くうえで鍵となる知識や原則を特定して押さえることである。
中学受験の理科は難しいが、実のところ、設問が要求する思考パターン自体はそれ程多くない。それが、具体的な実験や日常生活への応用といった形で提示されるため見えにくいだけである。
つまり、理科を攻略するポイントは、「この問題が使えと言っている知識や考え方は何なのか?」を特定することにあると言っても過言ではない。この考え方を十分に意識できるようにするため、問題演習の際、特に間違えた問題について、鍵となる考え方をメモしていくことをお薦めする。
また、試験時間の制約も大きな壁となる。
満点を取る必要は無いと割り切って、答えられる問題から着実に答えていくというのは受験校を問わない定石であるが、麻布中のような超難関校の入試では1点の重みが大きいだけに、問題を飛ばすことへの焦りや不安を回避するのは簡単ではない。
よって、過去問演習では単に所要時間を計るだけでなく、設問レベルで取捨選択の判断に要した時間やその妥当性までを意識した練習を重ねておくと良い。
具体的には問題を「1. すぐに答えが出せそう」「2. 考えれば答えが出せそう」「3. 考えても答えが出せるかどうかわからない」の3レベルに分類し、1→2→3の順に取り組んでいく手順を重視したい。最終的には2のレベルの問題でどれだけ正答率が上げられるかが合否の鍵となる。
以下、各分野について注目すべきテーマや学習に際して意識しておくべきことを挙げておく。
【生物分野】
生物分野の入試は中学受験から大学受験まで、単純な知識の確認よりも、実験や調査結果の理解と考察に重きを置く方向への変化が見られ、「生物は暗記科目」との古い認識は捨てる必要がある。
もちろん、最低限の知識は身につけておく必要があるが、それらの知識がどのような実験や観察を通じて得られたのか、ある生物学的現象にはどのような意味があるのかを考えながら学習しよう。
特に、近年の重要なテーマである医学、遺伝学、生態学、環境学に関する発見を論じた文章には目を通しておくと良い。実験の手法まで紹介されている文献ならなお申し分ない。
【地学分野】
地学は軽視されがちな分野だが、実は物理・化学から地理学に至るまで、幅広い分野の知識が関わっており、総合問題的な出題になりやすい。
よって、天体の動きや地層形成といった諸現象の背景にある物理的・化学的説明や、それらが社会に与える影響にまで目配りした学習が求められる。また、地学の理解を難しくしている要因の一つに、扱われるスケールが大き過ぎて想像力が及びにくいという点がある。最近はCGを用いた動画解説もインターネット上で充実しているので、学習の際に利用すると良い。
【物理分野】
比較的、教科書的な出題が目立つ分野ではある。身の回りの機械や器具への応用が出題されるケースが多いが、参考書や過去問題集に掲載されているような例も存在する。
よって、まずは問題集をきちんと仕上げることを意識すると良い。他方、本年は一般相対性理論に関する出題も見られ、理論物理に関する設問が増えることも考えられる。小中学生向けに物理の最新理論を説明する記事や動画などは見ておいて損はないだろう。
【化学分野】
前年はコーヒーの淹れ方、本年はお菓子の作り方が出題され、身の回りの化学的現象が扱われる傾向が定着してきた感がある。
また、化学分野では現象の背景を基礎知識から考えさせる問題とともに、「〜すればどうなるか?」というシミュレーションを要求する出題が目立つ。
もちろん、原理が正確に理解できていれば応用して考えられるのだが、科学的知識を得るだけの学習では、「普通は行わないこと」が行われた場合の結果を知ることが難しく、学習の盲点となる。
直接の対策とはならないだろうが、「どうなるか?」の発想を育む訓練として、実験に勝るものはないだろう。特に、身の回りの現象が扱われることが多いことから、料理や掃除といった家事の手伝いを通じて色々な失敗を経験し、その原因を考察するといった習慣を身につけてみるのも良い。
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2020年度「麻布中学校の理科」の
攻略ポイント
特徴と時間配分
設問数は前年より僅かに減少して38個となり、要求される数理処理のレベルもやや下がった感がある。
ただ、記述問題が含まれるなど、単純な知識のみで答えられる問題が少ないことを考えると、50分の制限時間が短く感じられるのは変わらず、問題の取捨選択が重要になる。
【大問1】ウナギの生態
- 難度:やや難
- 時間配分:9分
- ★必答問題
確かな読解力と科学的な思考力を問う良問。基本的には本文を参照して答えることが想定されているので、関連箇所を的確に探し当てるための思考手順を意識して欲しい。
問2
レプトセファルスとシラスウナギの区別が問われているので、文章中で両者の対比が述べられている箇所に注目する。すると、レプトセファルスは「海流に乗って移動する」、シラスウナギは「川をさかのぼる」という違いが手掛かりになると見当付けられる。
問3
川にたどり着いてからのウナギに関する記述箇所から情報を探すと、川床の環境に関連しそうな情報は「水中の細長い穴をかくれ場所とする」に限定される。
問5
「天然ウナギはオスとメスがほぼ半数ずつ」、「養殖ウナギはほとんどすべてがオス」という情報から出発する。問われているのは性別が決定される「時期」であるから、天然と養殖について「時期」に関連する情報を比較しよう。すると、両者を分けるポイントは「河口にやってきた」時点であることが分かる。つまり、性別の決定に違いが生じるのはそれ以降の過程でなければならない。
問8
生物の問題はかくあるべしと思わせる良問。問5で扱われた、「いけすで育てたシラスウナギはほとんどすべてがオスになる」という情報に再び着目できるかどうかが鍵。オスだけを放流して増やしても、次世代のウナギの数が増えることにはならない。一見効果がありそうな記述だけに、問題点を見出すには一歩先まで見通す力が求められる。
【大問2】スイーツの科学
- 難度:やや難
- 時間配分:13分
- ★必答問題
お菓子が膨らむ原理について、文章から本質が掴めるかどうかが勝負。このような問題に直接触れる機会はほぼ存在せず、理解には科学的な知識やセンスが要求される。
問3
本問のように、「(1)手作業によって力技で答えが導ける問題→(2)計算によって答えを出さなければ大変な問題」という構成になっている場合、(1)について実際にやってみる中で、そのような結果になる一般原理を見出して(2)に適用するという姿勢が重要。(2)まで手作業で解こうとするぐらいなら、飛ばしてしまった方が良い。また、(1)の時点で「分からない」と考えて投げ出してしまわないこと。
ここでのポイントは「パイ層同士が重なった場合、1層に融合される」という点である。三つ折りを分かりやすく捉えるために、「折る前の生地を横に3等分し、それらを3段に重ねる」という考え方をしてみると良い。
たとえば、図1ではパイ層が2層存在し、これを3分割して積み重ねるとパイ層は2×3=6(層)になるはずである。
ところが、分割されたパイ層同士を重ねた部分では2層が融合して1層になる。すなわち、パイ層が1層減少する。
重ね合わせが発生するのは2箇所であるから、6−2=4(層)になる。このことは、実際に絵を描いてイメージすると分かりやすい。
つまり、n回三つ折りしたときにできるパイ層の数は、「(n-1回三つ折りした後のパイ層)×3−2」の計算で求められるはずである。小学生にとって、任意の回数だけ三つ折りした場合の層数をいきなり計算するのはハードルが高いので、2回、3回、…と順番に計算していくのが筋。
問4
大問2の軸となっているのが、「お菓子の膨らみ」である。以降の問題を含めてポイントを一般化するなら、まずお菓子の膨らみを生むのは「生地から発生する気体」であるという点である。パイの場合には、バターが含む水分が蒸発して生じる水蒸気がその役割を担う。
問5
次のポイントは、膨らみが維持されるには発生した気体が「閉じ込められる」必要がある点である。選択肢を読むと、ウが該当する。文章中の「グルテンはそのまま焼くとかたくなる」という記述まで読んでいると、腑に落ちやすい。
問6
パウンドケーキの生地の中には、ベーキングパウダー(重曹)のように、熱したら二酸化炭素を発するような材料が含まれていない。よって、ここでもパイの場合と同様、バターに含まれる水分が膨らみの原因となる。
問7
パウンドケーキの場合も膨らみの原理はパイと同様に考えると良い。ここでは早く焼け「すぎた」場合の失敗が記されている。この日本語のニュアンスから、水蒸気を閉じ込めるには上部がかたくなる必要があるが、それが早すぎても膨らみにくいという示唆を汲み取る言語力が必要となる。
問8
こういった「2×2(水/油、つながりやすい/つながりにくい)」形式の設問では、まず1つの条件に着目して消し込みを行おう。
サクサクとした食感が生まれるのは「タンパク質同士がつながりやすいからか、つながりにくいからか」の方が判断しやすいと思われる。小麦のタンパク質が結合してできるグルテンを加熱すると「かたくなる」という記述から、サクサクしたクッキーではグルテンが少ない、つまりタンパク質はつながりにくくなっていなければならないはずである。
そうすると、次に考えるべきはタンパク質の結合を妨げるのが水か油かという点である。ここで再びグルテンについて本文中の記述を読むと、グルテンは「小麦粉と水を混ぜる」ことで生成すると読み取れる。したがって、水がタンパク質の結合を阻害することは無さそうである、と結論付けられれば上等。
【大問3】光の性質
- 難度:難
- 時間配分:15分
光やレンズに関する知識や、光の反射・屈折についての作図が問われており、いずれも教科書的な内容。その意味で取っつきやすい問題が多いが、問4と問8は想像力を要求され、難度が高い。
問4
(1) 電球を光源とする光線の進み方を考えれば見当が付く。後方に発せられた光が前方に反射することで、信号がより明るく見えるようになる効果を生んでいる。
(2) LEDと電球の違いとして、LEDは決められた色の光を発するのに対し、電球単体では白色光しか発することができないという点が挙げられる。そのため、LEDの信号では3色のLEDのON/OFFのみで信号の点灯色を操作できるのに対し、電球では色の付いたガラスを通して、点灯色の制御を行う必要が生じる。
ここで、太陽光が信号灯に射し込み、電球や後方の鏡に反射すると、色付きガラスの裏で電球が光っているのと同じような効果をもたらしてしまう。すなわち、電球が点灯しているのか消えているのか分かりにくい状態となり、危険が生じるのである。
問8
この設定では「とても重い」玉によってテーブルクロスが引き伸ばされるため、P-Q間を結んでいた直線は谷型にたわむことで距離が伸びることに注意。
PからQへ最短距離で到達しようとすれば、たわみの影響が少ない外側を回って行く必要がある。
【大問4】砕屑物と風化
- 難度:やや難
- 時間配分:13分
- ★必答問題
「風化」を軸に様々な単元に及ぶ内容が出題されており、数理処理から読解力を問う問題まで幅広い能力が要求される。特に読解については設問対象となっている範囲外の文章の参照まで求められ、高度な情報統合の能力が問われている。
問1
「はやぶさ2」による小惑星「りゅうぐう」への人工クレーター生成実験を念頭に置いた時事問題だが、本問ではイとウの選択肢の誤りを認識することが重要。
地球も月と同様に隕石の衝突を受けてクレーターが生成された過去が存在するが、ほとんどは空気や水の流れによる侵食などの要因で消失している。一方、空気も流水も存在しない月ではクレーターが侵食を受けないまま現存している。
問2
前問で見た通り、月と地球では空気や流水の有無が地形生成の差異に関係している。
隕石の衝突によって生じたレゴリスは侵食を受けずに、破片のまま角ばって尖った形状を維持するが、地球の川砂は流水による侵食や運搬中に生じる砂粒同士の衝突を経て丸みを帯びた形状になる。
問4
海水であろうが真水であろうが、岩石と接触していれば岩石に含まれるミネラル成分は水中に溶出する。
また、水も岩石も温度が高くなれば体積が膨張するが、水の場合は4℃での体積が最も小さく、凍結すると体積が増えることにも注意。
問5
問4の前に記述されている文章中に、「風化によって生成されたさいせつ物は、多くの場合、もとの岩石とは含まれる成分や鉱物の割合が変化する」と書かれている。
また、本問の前の文章から、コアストーンは「もとの岩石=花こう岩」に相当し、真砂は風化を受けた花こう岩であることが読み取れる。ここから、コアストーンと真砂に含まれる鉱物や成分の割合は異なると考えるのが妥当である。
問8
下線部②が設問対象だが、読まなければならないのは問4前の風化に関する説明である。
ここで、「岩石中の鉱物が水や空気中の二酸化炭素と結びつく」のが「化学的風化」の例として挙げられており、化学的風化は「温暖な環境や湿った環境で進みやすい」と書かれている。
ここから、温暖化によって化学的風化が進みやすくなり、より多くの二酸化炭素が岩石中の鉱物と結びつくことで空気中から取り除かれると考えられる。すると、二酸化炭素による温室効果が低減されるため温暖化の抑制に繋がり、結果として気候が一定に保たれる働きを持つことになる。
攻略のポイント
年々読解力の重要性が高まりつつある。その分だけ単純な知識や計算力に依拠した解答が難しくなっており、与えられた文章から必要な情報を発見して設問に応用する姿勢が必要となる。
情報処理の速度を上げることはもちろんだが、それでもこの分量と難度の問題を50分で解き切るのは難しい。すぐに答えが出ない問題では考え込まずに一旦飛ばし、全ての大問で着実に正解を稼ぐことを考えよう。
その際、鍵になるのが地学分野である。例年一筋縄では行かない問題が出題されるうえ、最後に配置されているため、ペース配分を考えないと太刀打ちできなくなる。特に、大問1の生物は比較的考えやすい設問が多いため、ここでどれだけ余剰時間を捻出できるかが勝負の分かれ目と心得よう。
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