作者である森鷗外自身と思われる主人公｢石田小介｣､少佐参謀になったばかりの彼ひとりの生活に、一羽の鶏をもらったことで小さな事件が起こる……小さなことにこだわらないでおこうとする鴎外自身の姿勢がうかがわれる小品。

本文では、｢石田｣が雇った別当と飯炊きの婆さんについて、どちらも家の物を盗んでいると隣家の女が騒ぎ、知人からも婆さんの怪しいふるまいを聞かされる｢石田｣の姿が描かれている。

舞台が明治時代なので、馴染みのない語句が多々登場するが、｢注｣を活用して何とか内容は理解したい。微細にわたる｢状況｣把握が求められる問題が多く、厄介だ。また、｢総合的知識問題｣もなかなかの曲者。

以下、いくつかの｢設問｣を確認してみたい。

[問一]　｢漢字の読み｣(全５問/｢ひらがな｣指定)｡波線部①～⑤の｢漢字の読み｣を｢平仮名｣で答える。

決して難解ではないが、やや読みづらいものや馴染みの薄い言葉が紛れている。

注意したい｢読み｣としては、　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　①｢会釈｣＝｢えしゃく｣(＝｢軽く一礼する｣という意味)　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　④｢狭い｣＝｢せま(い)｣、　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　⑤｢目方｣＝｢めかた｣(今や死語か？　｢ものの重さ｣のこと)｡

｢漢字の読み｣では、｢慣用読み｣｢熟字訓｣なども確実に習得しておくこと。

＜時間配分目安：１分＞

[問二(あ)]　｢人物特定の記述｣(｢漢字１字｣指定)｡傍線部(１)｢何か盛んにしゃべっている｣について、｢誰がしゃべっているのか｣を｢漢字一字｣で答える。

直前直後を確認する(｢小説｣では｢同一場面｣の｢直前直後｣に｢根拠･手がかり｣がある)｡　　　　　　　　　　　　直前に｢これが声の主である｣とある。｢声の主｣＝｢しゃべっている主(誰)｣＝｢これ｣だと分かる。｢指示語｣なので開く(｢指示語｣が出たらすぐに開くこと)｡

｢これ｣＝前々文の｢南隣の生垣の上から顔を出している四十くらいの女｣だと特定できるはずだ。したがって、｢漢字一字｣なので、｢答え｣は｢女｣となる。

｢文脈｣を丁寧にたどり、的確に｢状況｣を読み取ることが肝要。

＜時間配分目安：１分＞

[問二(い)]　｢人数特定の記入｣(｢数字｣記入)｡｢この人物｣(＝[問二(あ)]の｢答え｣)は、｢何人の相手に聞かせるためにしゃべっていると思われるか｣を答える。

｢微細な状況｣が問われている。本校の真骨頂発揮だ。直前直後を丁寧に確認したい。傍線部①から始まる段落に、｢自分(石田)に聞かせる為に言っているらしい｣､｢婆さんにも別当にも聞かせようとする｣､そして、最後に｢薄井の爺さんにも聞かせようとするのである｣とある。

つまり、｢自分(石田)｣｢婆さん｣｢別当｣｢薄井の爺さん｣に｢聞かせよう｣としていることが分かるはずだ。よって、｢答え｣は｢四(４)人｣だ。

細かく読み取り、漏れがないようにすることが必要だ。

＜時間配分目安：１分半＞

[問三(あ)]　｢比喩の種類の記述｣(｢漢字２字｣指定)｡｢総合的知識問題｣｡｢比喩｣の種類だ。傍線部(２)｢風の無い日に木の葉が揺らぐように動く｣について、｢このような比喩を何というか｣を｢漢字２字｣で答える。

｢揺らぐように｣と｢比喩｣の用法である｢助動詞｣の｢ようだ｣が用いられている。つまり、明確に｢比喩｣であることが示されているので、｢答え｣は｢直喩(明喩)｣となる。尚、｢比喩｣であることが明確には示されていないが、｢比喩｣と捉えないと不自然な表現が｢隠喩(暗喩)｣だ。区別して理解しておきたい。

本校では、様々な｢表現技法｣も必須だということだ。

＜時間配分目安：30秒＞

[問三(う)]　｢比喩表現の抜き出し｣(｢語｣指定)｡傍線部(２)｢風の無い日に木の葉が揺らぐように動く｣＝｢直喩(明喩)｣に対して､｢赤ずきん｣という語で｢赤ずきんをかぶった女の子｣を表すような技法を｢換喩｣と言うが、本文中で｢人物｣を表す｢換喩｣として使われている｢語｣を抜き出して答える。

｢抜き出し｣では、｢抜き出し内容｣を特定した上で｢抜き出し範囲｣を絞り込んで探していくことがポイントだ。

｢換喩｣とは｢比喩｣のひとつで､｢あるものを表現する場合に､そのものの属性やそれに関連の深いもので言い換えること｣だが、誰も知るはずもない。ということは無論、知らなくても解けるわけだ。｢赤ずきん｣＝｢女の子｣という例から、ここでは｢身につけているもの｣で｢その人物｣を表現していることが分かる。つまり、それが｢抜き出し内容｣となる。

｢範囲｣は当然、｢同一場面｣だ。直前直後から探していく。すると、前段落の最後に｢サアベルなんぞに初めから家を貸さないがよい｣という表現がある。その前には｢石田｣が｢サアベルをさして馬にのっている｣との表現もあることから、｢サアベル｣に｢家を貸す｣＝｢石田｣に｢家を貸す｣ことだと分かる。

したがって、｢答え｣は｢サアベル｣だ。ちなみに、｢サアベル｣とは｢軍人用の洋刀｣のこと。

｢知らないこと｣であっても、すぐにはあきらめないこと。｢私が知らない｣⇒｢誰も知らない｣⇒｢知らなくても解ける｣と考えることが肝要だ。

＜時間配分目安：１分半＞

｢暴君｣なんて昔の存在、｢暴政｣なんてよその国のこと……。本当にそう言い切れるだろうか？　　　　　　　　真の暴君は暴君であることを隠す――古今東西の政治思想家の｢筆の闘い｣の軌跡をたどり、反｢暴君｣の論理＝｢共通善｣の思想を探っている。

本文では、｢学問のすゝめ｣の中で福沢諭吉が指摘している｢江戸時代の暴政と対処法｣を紹介し、それについての疑問点を論じている。

難解な語句が多いが、一切の｢注｣もなく、内容はとても小学生に理解できるものではない。途方に暮れるに違いない。が、｢条件｣は誰もが同じだ。｢内容｣は分からずとも｢答えられる｣と信じて解き進むのみだ。尚、前半の４問は｢総合的知識問題｣(｢要素｣があるものも含む)なので、ここで稼いでおきたい。

いくつかの｢設問｣を検証してみる。

[問一]　｢漢字の書きとり｣(全５問)｡

一昨年度は｢超難解｣､昨年度は｢超平易｣ときて、本年度は｢標準｣｡

注意すべきものを挙げれば、　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　①｢シュウトクした『芸』｣＝｢習得｣(｢同音異義語｣に要注意)、　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　    ②｢福沢のクチョウ｣＝｢口調｣(｢文脈｣を的確に読み取ること)､　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　⑤｢猛威をふるうオンショウとなってきた｣＝｢温床｣(これは｢難問｣か？)｡

本校の｢漢字｣に備え十全の準備が不可欠だ。

＜時間配分目安：２分＞

[問二]　｢語句の意味の選択肢｣(５択)。｢総合的知識問題｣｡｢語句の意味｣｡傍線部(１)｢返す刀｣とは｢どのような意味か｣を答える。

馴染みのない言葉に違いない。｢難問｣だ。

｢返す刀｣＝｢あるものを攻撃した余勢で、間を置かずに他に攻撃の矛先を転じること｣なので、｢答え｣は選択肢(ア)｢あるものを攻撃した勢いで、他にも攻撃を仕掛けること｣だ。｢徳川幕府｣の｢暴政｣を一刀両断した直後に、｢一般庶民｣の｢無知ぶり｣をも｢痛撃している｣という｢文脈｣からも判別可能だが、無論､｢捨て問｣でも構わない。

ただ、本校ではこうした｢知識｣も問われるということは肝銘しておくこと。

＜時間配分目安：30秒＞

[問三]　｢語句の空所補充選択肢｣(全３問/７択)。｢総合的知識問題｣の｢要素｣あり｡本文中の空所部　(１)　～　(３)　に入れる｢適当な語｣を答える。

無論、｢内容｣から判断することはできるのだが、｢文脈のつながり｣(慣用的表現)で判別することも可能だ。

各選択肢は､(ア)｢計画｣、(イ)｢徒党｣、(ウ)｢焦点｣、(エ)｢現場｣、(オ)｢渡船｣、(カ)｢一堂｣､(キ)｢口実｣｡

各空所前後を確認する｡

｢国民全員が　(１)　に会して｣⇒｢全員が○○に会して｣＝｢一堂に会して｣(１か所に集まること)⇒｢答え｣は(カ)｡

｢それを　(２)　にして不法行為をなす｣⇒｢××を○○にして悪いことをする｣＝｢口実にして｣(言いわけ)⇒｢答え｣は(キ)｡

｢一人の個人には政府に対抗することはできないから、　(３)　を組んで｣⇒｢一人｣ではない⇒｢○○を組む｣＝｢徒党を組む｣(団結する)⇒｢答え｣は(イ)｡

分かりづらい｢内容｣で判断するよりも、｢慣用的表現｣などの｢知識｣の側面からアプローチする方が判別しやすい場合もあるということだ。

＜時間配分目安：１分半＞

[問四]　｢被修飾語の抜き出し｣(｢５字以内｣指定)｡｢総合的知識問題｣｡｢文法｣(文の要素)｡傍線部(２)｢幕府政治の不正の根幹を｣は｢どの述語にかかるか｣を｢五字以内｣で抜き出して答える。

先ずは、｢傍線部一文一部の法則｣(｢傍線部(空所部)が一文の一部分だった場合、傍線部(空所部)以外が重要｣という｢重要解法｣)で｢文全体｣を確認する｡

｢福沢は幕府政治の不正の根幹を､『人間が同等』であるという大前提を認識せず、『貧富強弱』の差という社会的現実を統治のための『悪しき道具』として利用し、政府の圧倒的な資力と物理的強制力を背景にして、一般平民の『権理通義』を蹂躙したことに見ている｡｣となっている。

長～い。｢どこにかかっているか｣？　

各要素の｢内容｣もほとんど意味不明で、混乱することは必至だ。

が、ここは落ち着くべきだ。｢設問｣に｢どの『述語』｣とある。｢述語｣は｢一文の文末｣(｢倒置｣でなければ)だということは｢文法｣の基礎だ。ということは、｢見ている｣が｢述語｣だ(ちなみに､｢主語｣は｢福沢は｣)。｢幕府政治の不正の根幹を｣→｢見ている｣､つながる。

よって、｢答え｣は｢見ている｣となる(｢主語｣｢述語｣などは｢文節｣が基本)｡

本問でも｢文法｣という｢知識｣で解けたということだ。｢知識は身を助ける｣と心得よ。

＜時間配分目安：１分以内＞

[問七]　｢本文合致の選択肢｣(５択)。本文中に示された｢福沢諭吉の考え｣と｢合致しているもの｣を答える。

各選択肢の｢キーワード｣に着目して、｢正誤判別｣していきたい。

(ア)｢『暴政』の原因は｣｢腐敗した政府にある｣⇒｢福沢｣は｢『暴政』の咎は『暴君』だけに負わせることのできるものではない｣｢国民の『権威への恭順』が『暴政』の温床になる｣と述べている＝｢不適切｣

(イ)｢江戸時代｣｢人民が政府の不正を告発して｣⇒｢自らすすんで政府の不正を告発すること｣はしなかった、とある＝｢不適切｣

(ウ)｢物事の理を知ること｣で｢暴政を防ぐことができる｣⇒傍線部(４)の段落に｢正理を守って身を棄つる｣ことが｢暴政｣に｢対処｣する方策だとある＝｢適切｣

(エ)｢国民は政府を倒すべき｣⇒｢力をもって政府に敵対する｣方法を否定している＝｢不適切｣､(オ)｢力で対抗しても｣｢勝てる可能性はない｣⇒(エ)と同様、そもそも｢力をもって政府に敵対する｣方法を否定＝｢不適切｣｡

したがって、｢答え｣は(ウ)となる。

尚、こうした｢本文合致設問｣､本問のように｢論説文｣であれば｢論旨合致｣ということで｢序論部分｣と｢結論部分｣だけを照合すればいいが、それ以外(｢説明文｣｢小説｣｢随筆｣など)では｢本文全て｣を確認する必要があり、とても非効率なので、戦術的には｢後回し｣にすること。

＜時間配分目安：２分＞

20世紀初頭に活躍した天才哲学者･ウィトゲンシュタイン､彼が問い続けた｢語りえないもの｣とは何か？――｢写像理論｣⇒｢文法理論｣⇒｢言語ゲーム理論｣へと展開する彼の｢思想の核心｣を紹介している。

本文では、｢数列のルール｣を｢教える｣ことと｢教わる｣こととの違いを例に挙げ、｢規則と実践｣の優先順位について説明している。｢入門書｣とはいえ、純粋な｢哲学論｣なので内容を理解することは【大問二】同様、ほとんど不可能だ。

｢小問｣を概観して、｢解けそうなもの｣を優先して得点に結びつけていきたい。最後には、本校のクライマックスである｢長文要約記述｣が控えている。

以下、いくつか検討してみよう。

[問五]　｢条件付き対照的表現の抜き出し｣(｢５字｣指定)｡傍線部(５)｢数を頼む｣と｢対照的な方法｣を｢五字｣で抜き出して答える。

｢条件｣は｢これより前｣から抜き出すこと。傍線部だけでは分かりづらいので、｢傍線部一文一部の法則｣で確認すると､｢数を頼むといった非理性的な方法｣とある。

｢数を頼む｣＝｢非理性的｣なので、その｢対照的｣といえば｢理性的｣ということになる。よって、｢抜き出し内容｣は｢『理性的』な方法｣だ。｢抜き出し範囲｣は｢これより前｣と指定されている。直前から戻って探していく。すると、前章の１段落目に｢理性的説明という武器｣という表現がある。まさに、そのものズバリだ。｢答え｣は｢理性的説明｣｡

｢解法｣に則して｢内容｣を特定すること。そして、｢条件｣は｢ヒント｣だということだ。

＜時間配分目安：１分半＞

[問六]　｢語句の空所補充の組み合わせ選択肢｣(全３問/５択)。文中　(１)　～　(３)　の空所に入る｢語の組み合わせ｣を答える。

各選択肢の｢語｣は｢接続詞｣｡本校に限らず、｢接続詞｣や｢副詞｣などの｢空所補充問題｣は定番だ。特に､｢接続詞｣では｢逆説｣以外には十分に注意すること。しっかりと確認しないと、どれもがあてはまってしまう可能性があるのだ。

ここでも、空所３カ所に対して、選択肢は｢逆説｣がひとつで､他が８つもある。細心の注意を払うこと。各空所に｢入る語｣を確認する。　(１)　には｢添加｣の｢そして｣、　(２)　には｢説明･補足｣の｢つまり｣、　(３)　には｢逆説｣の｢しかし｣が入ると分かる。したがって、｢組み合わせ｣の｢答え｣としては、(エ)になる。

こうした｢空所補充問題｣では、｢候補｣がひとつとは限らないので、必ず全ての｢候補｣を｢代入確認｣すること。

＜時間配分目安：１分半＞

[問八]　｢条件付き論旨要約記述｣(｢80～100字以内｣指定)｡｢規則と実践の優先順位の逆転｣とは｢どのようなことか｣を｢八十字以上百字以内｣でまとめる。｢条件｣は、｢普通｣･｢正しい｣･｢実際｣の｢三語を必ず用いる｣こと。

例年の｢部分要約｣とは異なるが、｢要旨｣という意味では変わらない。本校では避けて通ることのできない｢最後の関門｣であり｢鬼門｣。ここをクリアしなければ、門はくぐれない。

ただ、恐れることはない。｢設問｣と｢条件｣が｢手がかり｣｢ヒント｣だ。｢規則と実践の優先順位の逆転｣については｢規則順守のパラドックス｣の章に説明されていることが分かるはずだ。

そこには、｢われわれは普通、規則そのものの中にそれへの従い方の正しさが指定されている、と考えている｣とある(｢条件｣の｢普通｣･｢正しい｣の｢語｣も読み取れることに着目)｡つまり、｢規則があれば正しく実践できる｣という考えだ。しかし、｢実際｣にはそうではなく｢逆転｣していることになる。

どのようなことなのか？　読み進めていくと、｢根拠の不在｣の章に｢もはや規則を正しく理解しているから一致した行動が生まれるのではなく、逆に、一致した行動がなされるから規則が正しく理解できる｣と説明されている。

ここでの｢行動｣を｢実践｣に置き換えれば、｢規則｣と｢実践｣の｢逆転｣ということになる。

以上のような内容を｢過不足なく｣まとめていきたい。たとえば、｢普通は､規則そのものの中に正しい従い方が指定されていて、それによって正しい実践が可能になると考えているが、実際には逆で、一致した実践がなされることで規則が正しく理解できるようになるということ｡｣といった｢答え｣になる。

尚、例年の｢要約などの長文記述｣パターンに対しては、本校志望者は万全の対策をして臨んでいる。

したがって、｢要約とは何か｣を正しく習得し､まとめ方の｢解法｣を応用できれば、｢鬼門｣は｢入学の門｣になるということだ。

＜時間配分目安：５分以内＞