喪失を抱いた青年が、水墨画を通して回復する――物語の主人公は｢僕｣と｢水墨画｣と｢森羅万象｣。普遍的なテーマを｢水墨画｣という芸術を介して描いた青春小説。

本文では、｢湖山先生｣のもとで水墨画を習い始めた｢僕｣は、２週間で墨のすり方しか教えてもらえなかったが、水墨画家の｢千瑛｣の言葉によってその真意を理解する様子が描かれている。分かりやすい文章で、設問も平易だ。一気呵成に得点を重ねたい大問。以下、少しだけ確認してみたい。

[問一]　｢空所補充の語句選択肢｣(全３問/３択)。｢総合的知識問題｣｡

｢文脈｣からの｢語句の意味｣の判別だ。本文中の空所部【　Ａ　】～【　Ｃ　】を｢埋める適切な語句｣を答える。各選択肢は､(ア)｢いっさい｣･(イ)｢ぼうっと｣･(ウ)｢みっちりと｣で全て副詞だ｡

各空所前後の｢文脈｣から｢答え｣を特定していきたい。

｢【　Ａ　】突っ立っている僕に｣

⇒｢突っ立っている様子｣なので、｢答え｣は(イ)の｢ぼうっと｣で決定。

｢大勢の前で、【　Ｂ　】ミスの許されない｣

⇒｢許されない｣のだから、｢答え｣は(ア)の｢いっさい｣しかない。

｢【　Ｃ　】鍛えられた｣

⇒当然、｢答え｣は(ウ)｢みっちりと｣(→鍛えられた)になる。

本問は難易度が低かったが、｢副詞｣の｢空所補充｣では紛らわしいものもあるので、｢意味｣を正確に捉えることが肝要だ。本校では必出だ。

＜時間配分目安：全問で１分強＞

[問三]　｢空所補充の漢字記述｣(｢漢字１字｣指定)。｢総合的知識問題｣｡傍線部(２)｢控え□｣の空所を｢埋める適切な漢字一字｣を答える。

｢傍線部(空所部)一文一部の法則｣(｢傍線部(空所部)が一文の一部分だった場合、傍線部(空所部)以外が重要｣という｢重要解法｣)で｢文脈｣を確認すると、直後が｢(控え□)に考えても楽な作業ではない｣となっている。であれば、｢控え□｣＝｢少なめ｣といった内容だと判断できるはず。この時点で、｢答え｣は｢目｣だと特定したい。本校志望者であれば、｢思うままにせず、内輪にとどめる｣という意味の｢控え目｣は知っていて当然だ。本問は、本校が求める｢語彙レベル｣の典型だ。もし定着していなかった諸君がいるならば、｢知識｣が不足していると認識し、精進せよ。

＜時間配分目安：30秒＞

[問四]　｢内容説明選択肢｣(４択)。傍線部(３)｢小さな勇気｣について、｢どのような勇気か｣を答える。

｢選択肢設問｣は｢消去法｣が原則｡先ずは｢原意消去｣をしたい(｢原意絶対優位の原則｣＝｢設問｣｢傍線部｣等の｢原意｣、要は｢本来の意味｣を最優先に考えること)｡ここでは｢小さな｣の｢原意｣と結びつかないものを｢消去｣することになる。各選択肢の｢文末｣と照合するのが原則だが(｢選択肢｣の説明で最も重要な要素は｢文末｣に記されている)、各説明がとても短いので全てを確認する。

(ア)｢お茶を淹(い)れてくる勇気｣、

(イ)｢お茶を運ぶ勇気｣、

(ウ)｢会話を始める勇気｣、

(エ)｢部屋を片付ける勇気｣｡

困った。どれもこれも｢小さな｣の｢原意｣と結びつくかどうか判別不可能だ。次なる判断基準は｢文脈｣、前後を確認すると、｢とりあえず何かを話さなければと、この緊張を強いられる状況に対して小さな勇気を振り絞った｣となっている。｢何かを話さなければ｣とあるので無論、｢答え｣は(ウ)の｢会話を始める勇気｣だ。

本問では活用できなかったが、｢選択肢設問｣では、最優先で｢原意消去｣を試みることが肝要だ。

＜時間配分目安：１分強＞

さまざまな課題を抱えた日本の｢地域｣を訪ね、近代日本における地域の歴史的あり方とこれからの方向性を探り、｢持続可能な地域｣について論じている。

本文では、｢地域振興はどのように可能なのか｣を具体的に指摘している。｢地方行政｣に関する論考だが、難解な語句はほとんどなく、内容は理解できるはずだ。本校の特色である｢空所補充｣と｢抜き出し｣がランダムに並んでいるので注意したい。いくつかの｢設問｣を検証してみる。

[問二]　｢空所補充の語句抜き出し｣(｢漢字４字｣指定)。傍線部(１)｢□□□□｣の空所を｢埋める適切な漢字四字の言葉｣を抜き出して答える。

｢抜き出し｣では、｢抜き出し内容｣を特定した上で｢抜き出し範囲｣を絞り込んで探していくことがポイントだ。

先ずは｢内容｣の把握。｢傍線部(空所部)一文一部の法則｣で確認すると、直後に｢(□□□□)で人権が守られる地域｣とある。そして、前後の｢文脈｣から、傍線部は｢地域振興の目標の立て方｣のひとつであり、もうひとつが｢他から必要とされる地域｣だと読み取れる。つまり、｢抜き出し内容｣は、｢地域振興の目標の立て方｣のひとつで、｢人権｣とともに｢目標｣となるべきものということになる。

｢抜き出し範囲｣は｢同一意味段落｣(｢論説文｣では｢同一意味段落｣に｢根拠･手がかり｣がある)｡ここでは、直後から｢他から必要とされる地域｣について論述されており、傍線部に関しては９行後から説明が始まっていることに注意したい。そこからの｢同一意味段落｣を丁寧に探していく。すると、最初の段落に｢地域振興のもう一つの目標である『持続可能で人権が守られる地域』｣とある。そのものズバリ。｢内容｣も｢字数｣も合致している。

したがって、｢答え｣は｢持続可能｣になる。尚、｢抜き出し｣では｢候補｣はひとつとは限らないので、必ず全ての｢範囲｣を確認することが肝要だ。

＜時間配分目安：２分弱＞

[問五]　｢空所補充の語句抜き出し｣(｢漢字２字｣指定)。傍線部(４)｢□□回復｣の空所を｢埋める適切な漢字二字の言葉｣を抜き出して答える。

｢抜き出し内容｣を捉えるために、｢傍線部(空所部)一文一部の法則｣で前後を確認する。｢その意味では、地域振興の試みが、地域の□□回復から着手されるのは正当である｣となっている。｢指示語｣があるので開く(｢指示語｣が出たら即開くこと)。この時点で｢指示語問題｣になった。｢段落冒頭の指示語は前段落全ての内容を指し示す｣ということを忘れずに確認する。｢その意味｣＝｢地域として自信を喪失していると、その地域はひとつの地域ではなくなるという意味｣だと読み取れる。ということは、｢地域振興の試み｣は｢自信回復から着手｣となるはずだ。よって、｢答え｣は｢自信｣になる。本問のように、解くプロセスの中で｢指示語｣が現れたなら、その時点で｢指示語問題｣へとシフトすることが肝要。

＜時間配分目安：１分半＞

[問六]　｢換言説明選択肢｣(４択)。傍線部(５)｢一時の花火｣とは｢どういうことか｣を答えかる。

先ずは｢原意消去｣を試みたい｡ここでは傍線部そのものの｢原意｣と結びつかないものを｢消去｣する他はない。各選択肢の｢説明｣が短文なので、全体と照合する。

(ア)｢感情が揺さぶられて強く印象に残るもの｣、

(イ)｢きらびやかで人を集める効果のあるもの｣、

(ウ)｢その場かぎりになって継続しないもの｣、

(エ)｢非常に高く打ち上げられる目立つもの｣｡

｢花火｣では判別不能なので、｢一時｣で考える。その上で、｢一時｣には３つの｢読み｣があり、それぞれ｢原意｣が異なるということを思い出したい。｢いちじ｣＝｢あるひとつの時｣/｢いちどき｣＝｢同時に｣/｢いっとき｣＝｢ある少しの時間｣だ。｢花火｣であれば、｢ある少しの時間｣という｢原意｣で用いられていると判断できるはず。したがって、｢その場かぎり｣と結びつくので、｢答え｣は(ウ)になる。

結果的に｢一発消去｣だった。やはり｢原意消去｣は活用すべきだと心得よ。

＜時間配分目安：１分弱＞

今、激変している食の世界――分子調理、人工培養肉、完全食のソイレント、食のビッグデータ、インスタ映えする食事……、こうした技術や社会の影響を受けて、私たちの身体や心はどう変わっていくのかを説明している。

本文では、食習慣や食行動は、アイデンティティの形成と深く結びついていることを、｢スシ｣や｢梅干し｣を例に指摘している。カタカナ語が多用されており分かりづらいが、そうした言葉について実は[問八]で｢問題｣として説明してある。そのことに気づき｢※注｣として活用することが求められる。そして、新たな｢大学入試制度｣を意識した設問や本校恒例の｢長文論述問題｣など、実に多種多様な大問構成になっている。以下、いくつか検討してみよう。

[問一]　｢漢字の書きとり｣(全５問)｡

例年と比べて本年度は平易だ。本校志望者であれば｢全問正解｣が必須。やや注意すべきものを確認する。

波線部(イ)｢食べることには、その人特有の意思や意識がヒソんでいます｣＝｢潜(んで)｣

⇒｢内にあって、外へは現れ出ない｣という意味も押さえておくこと。

(ウ)｢シュウキョウの禁忌によって食べない｣＝｢宗教｣

⇒｢文脈｣を正確に捉えないと特定できないので要注意。尚、｢禁忌(きんき)｣＝｢忌(い)み嫌って、慣習的に禁止したり避けたりすること｣も押さえておきたい。

(エ)｢(食べものは)イブクロに入る｣＝｢胃袋｣

⇒ごくフツーの言葉なのだが、いざ｢漢字｣で書くとなると出てこない。 これもそのひとつ、注意したい。

＜時間配分目安：全問で２分弱＞

[問八]　｢空所補充の語句抜き出し｣(全２問。ともに｢カタカナ語｣指定)。｢総合的知識問題｣。｢カタカナ語｣の意味。示されている、本文中の｢カタカナ語｣の意味をまとめたノートの中の空所【   イ   】【   ロ   】を｢埋める最も適切なカタカナ語｣を抜き出して答える。

本文内容の理解に不可欠な語句の｢※注｣を設問にするというユニークな出題。８つの｢カタカナ語｣の意味が記されているが、その中で

【   イ   】は｢自己同一性。自分(たち)が何ものであるか、に関する意識｣、

【   ロ   】は｢政治思想や社会思想といった、思想の体系｣

となっている。無論、こうした意味内容の｢カタカナ語｣を知っていれば何の問題もないが、そうでなければ、本文から読み取り特定していくことになる。｢答え｣を確認したい。

【   イ   】＝本文中で｢自分が何者なのかを定義｣する言葉として用いられている｢アイデンティティ｣、

【   ロ   】＝｢主義主張｣を表す言葉として用いられている｢イデオロギー｣となる。

尚、空所以外の｢カタカナ語｣である、

｢オーガニック｣(＝有機農産物)/

｢ジェンダー｣(＝社会的性差)/

｢ステータスシンボル｣(＝身分や地位を象徴するもの)/

｢バッシング｣(＝非難すること)/

｢ヒエラルキー｣(＝階級制度)/

｢ベジタリアン｣(＝菜食主義者)

についても覚えておきたい。

こうした問題に限らず、本校では｢高度な語彙力｣が求められていると心得よ。

＜時間配分目安：全問で２分半＞

[問九]　｢空所補充の語句抜き出し｣(｢漢字３字｣指定)。示されている、本文とは別のページに掲載されている｢図｣の中の空所【   ハ   】を｢埋める最も適切な語｣を本文中から｢漢字三字｣で抜き出して答える。

｢図｣は、円の中心から外側に向かってとぐろを巻くように、｢ハンバーガー(ハンバーグ)｣に関する10項目の語句が年代順に｢→｣でつながれて記されているもので、それらの中央右側に｢均質化｣という言葉、そして、それに対比する左側の位置に【   ハ   】がある。さて、どう考えるか？ そもそも本文では｢ハンバーガー(ハンバーグ)｣について説明されていないのだから、見当のつけようもない。が、諦めてはいけない。何かに気づきたい。｢均質化｣と【   ハ   】が｢対の関係(⇔)｣にあるということだ。そこから、｢抜き出し内容｣を｢均質化｣⇔｢○○○｣と捉えて、本文を探していく。｢答え｣は｢多様化｣だ。

2021年度から導入される｢大学入学共通テスト｣で問われる｢複数の素材を読み解く力｣を意識していることは間違いないが、本問は難解だ。時間配分等を考慮すると、｢あとまわし｣、あるいは｢捨て問｣でも構わない。ただ、来年度以降も要注意だ

＜時間配分目安：２分＞

[問十]　｢条件付き内容説明論述｣(｢80～100字以内｣指定)｡二重傍線部｢スシに対する‶保護主義〟｣のような考えは｢どのようにして生まれたと考えられるか｣を｢八十字以上、百字以内｣で論述する。｢条件｣は、｢本文全体の内容を踏まえる｣ことと、｢『スシ』『日本人』『海外』の三語を入れる｣こと。

本校では避けて通ることのできない｢最後の関門｣であり｢鬼門｣。ここをクリアしなければ、本校の門はくぐれない。ただ、恐れることはない。｢設問｣と｢条件｣が｢手がかり｣｢ヒント｣だ。本問での最大の｢手がかり｣は｢スシ｣だ。｢スシ｣について説明されている｢同一意味段落｣をしっかりと読み解きたい。冒頭で｢日本人が思う『寿司』と海外の人が思う『sushi』は、かならずしも一致しない｣と指摘されている(｢条件｣の｢日本人｣と｢海外｣がある)。そして、そのことが農林水産省による｢海外日本食レストラン認証制度｣の創設発表につながり、それが｢スシに対する‶保護主義〟｣だと受け取られたと説明されている。そうした内容を中心にして、｢本文全体の内容｣も踏まえて｢寿司は日本の国民食の代表｣｢日本人のアイデンティティ形成に関わっている｣などの説明を補足してまとめていけばいい。

たとえば、｢寿司は日本人にとって国民食の代表であり、アイデンティティ形成に深く関わるため、間違った形でスシが海外に広がることは好ましくないと感じたことから、正しいスシの形式を設定し保護しようという考えが生まれた｡｣(100字)といった｢答え｣になる。

定番の｢要約｣も含めた｢長文論述問題｣に対して、本校志望者は万全の対策をして臨んでくる。したがって、｢長文論述問題｣を正しく習得し､論述方法の｢解法｣を応用できれば、｢鬼門｣は｢入学の門｣になるということだ。

＜時間配分目安：５分以内＞