1937年、イギリスの海岸でひと夏を過ごすことになった13歳のイタリア人の少年が、ふと入った灯台の中､そこで出会った灯台守とのさまざまなやりとり――大きなドラマがあるわけではなく､ありのままの日々が淡々と描かれている。

言葉のひとつひとつをかみしめたくなるような珠玉の小品。第二次世界大戦直前という時代背景で、当時の政治的状況が影を落としている。
そのためにやや内容が分かりづらいかも知れないが、丁寧に読み解いてほしい。
繊細な｢情景描写｣などから心の動きの微妙な違いを読み取るといった、いかにも本校らしい設問が並んでいる。
以下、いくつかを検証する。

[問一]　｢語句の空所補充選択肢｣(５択)。｢総合的知識問題｣｡
本文中の空所部(　①　)に｢あてはまる語句｣を答える。

空所部は｢いかにも(　①　)ような風情に、ぼくはある日、思い切って中へ入っていった｣となっている。
各選択肢は、(ア)｢誘っている｣･(イ)｢戸惑っている｣･(ウ)｢眠っている｣･(エ)｢断っている｣･(オ)｢語っている｣だ。
流石(さすが)に、それぞれの語彙は大丈夫のはず。

そこで、｢傍線部(空所部)一文一部の原則｣(｢傍線部(空所部)｣が｢一文の一部｣の場合、｢傍線部以外｣が重要な｢手がかり｣｢ヒント｣)で､｢文脈｣を確認して特定していくことになる。
確認する。直前に(　①　)の｢ような風情に｣とあり、直後で｢思い切って中へ入っていった｣となるのだから、もう分かったに違いない。
｢答え｣は(ア)の｢誘っている｣だ。
ただし、｢風情｣の意味(＝味わい。気配。様子)が曖昧(あいまい)だと手こずるかも知れない。

やはり本校では、高度な｢語彙力｣が求められていると心得よ。

＜時間配分目安：１分弱＞

[問四]　｢内容説明選択肢｣(５択)。

傍線部(３)｢海と陸とをへだてる細い線の上にいて、どちらにも属しているし、またどちらにも属していないのだった｣について、｢『陸の人間』である『ぼく』にとって、灯台守はどのような存在だったのか｣を答える。

｢選択肢設問｣は｢消去法｣が原則｡先ずは｢原意消去｣をしたい(｢原意絶対優位の原則｣＝｢設問｣｢傍線部｣等の｢原意｣を最優先に考えること)｡
本問では、｢どちらにも属しているし、またどちらにも属していない｣という｢原意｣に着目して｢消去｣していく。

各選択肢の｢文末｣と照合する(選択肢説明では｢文末｣が｢最重要要素｣になっている)｡
(ア)｢不思議な存在｣､(イ)｢橋渡しをしてくれる存在｣､(ウ)｢混じった存在｣､(エ)｢あらゆる知識を持つ存在｣､(オ)｢幻想的な雰囲気をまとう存在｣｡どうだろうか？　
｢どちらにも属し、どちらにも属していない｣＝｢両者の間にあって、両者とつながっている｣ということなのだから、｢橋｣以外は｢消去｣だと判別できなくてはいけない。
したがって、他の部分の説明も特に誤ってはいないので、(イ)が｢答え｣になる。

｢一発消去｣だ。畏るべし！｢原意消去｣｡活用できる場合は、必ず試みるべし。

＜時間配分目安：１分弱＞

[問六]　｢理由説明抜き出し｣(｢30字｣の｢始めと終わりの４字｣指定)。

傍線部(４)｢ぼくのためだけに、まさかほんとうにスイッチを入れてくれるとは思わなかった｣について､｢灯台守がこんなにも歓迎してくれる理由｣を｢灯台守にふだんからどのような思いがあったからだと『ぼく』は推測しているか､灯台守の胸の内が書かれた部分｣を｢三十字｣で探し､｢始めと終わりの四字｣を抜き出して答える。

何やらやたらと長く､ややこしい問題文だ(本校の得意ワザ)｡ここは冷静に対処する必要がある。｢抜き出し設問｣では、｢抜き出し内容｣を確定した上で｢抜き出し範囲｣を絞り込むことが肝要だ。
先ずは｢内容｣だが、端的に捉えれば、｢灯台守が歓迎してくれる『理由』としての彼の『思い』｣となる。
次に｢範囲｣は、｢同一場面｣だ(｢小説｣｢随筆｣は｢同一場面の直前直後に根拠･手がかりあり｣が大原則)｡｢歓迎｣してくれる｢理由｣なので、｢ぼく｣が灯台に入るところからの部分で探していく。その際、問題文にある｢ぼく｣の｢推測｣で､｢灯台守の胸の内が書かれ｣ているということを意識して探すことがポイントだ。

確認する。５段落前が｢さあさあ、入りなさい｣という灯台守の言葉で始まっている。細部に注意して同段落を読み進むと、後半に｢興味をもつ人、訪ねてくる人がもっといてもよさそうなものなのに、(灯台守が)そう言っているみたいだった｣という部分がある。｢そう言っているみたい｣とあるので｢ぼく｣の｢推測｣だと分かる。また、｢そう言っている｣内容は｢灯台守の胸の内｣であり、｢字数｣も合致している。間違いない。
念のために、それ以降の｢抜き出し範囲｣を確認しても他に｢候補｣はない。
よって、｢答え｣は｢興味をも～のなのに｣となる。

｢抜き出し設問｣では､｢抜き出し内容｣に即して｢抜き出し範囲｣を的確に絞り込むことが肝要だ。
尚、｢候補｣はひとつとは限らないので、｢範囲｣の全てを確認すること。

＜時間配分目安：２分＞

[問八]　｢換言説明選択肢｣(５択)。｢総合的知識問題｣｡

傍線部(６)の｢ぼくは言いつのった｣とは｢どういうことか｣を答える。

無論、｢原意消去｣から｡ここでは、｢言いつのった｣という言葉の｢原意｣に着目して｢消去｣していきたい。
各選択肢の｢文末｣と照合しよう｡
(ア)｢つっかえながら言った｣､(イ)｢言葉を選びながら言った｣､(ウ)｢ますます激しく言った｣､(エ)｢たしなめるように言った｣､(オ)｢決めつけるように言った｣｡
｢言いつのる｣＝｢調子に乗ったり、興奮したりして次第に激しい口調になる｣ことだ(知っていて当然なのだが、どうか？)｡とすれば、｢答え｣は(ウ)で確定。
勿論(もちろん)､｢言いつのる｣や(エ)の｢たしなめる｣の原意が分からない場合は、｢内容読解問題｣として前後の｢文脈｣から判別することも可能だ。しかし、時間もかかり間違いやすくもなってしまう。

本校では、｢語彙力の差｣が合否に直結すると心得よ。

＜時間配分目安：30秒＞

[問十]　｢条件付き換言説明記述｣(｢25字以内｣指定)。

傍線部(８)｢もちろん自分ではこの変化、このぎこちない時期を見られはしなかった｣について、｢どのようなことをいっているのか｣を説明する。
｢条件｣は｢必ず『自覚』という言葉を用いる｣こと。

実はこの問題、直接は言及されていないが、すぐに｢指示語換言｣だということに気づかなければいけない。よって、先ずは｢指示語｣を開いていく(直接問われていなくとも｢指示語｣が出たら即開くこと)｡

直前から、｢この変化、このぎこちない時期｣＝｢『少年』としての若葉のような雰囲気、ある種のみずみずしさを失ってぎこちなく変化し、一つひとつの優雅さがそこなわれていく時期｣だと読み取れる。
さて、｢条件｣の｢自覚｣という言葉だが、どのように用いればいいのか？　
傍線部の｢自分では(この変化、このぎこちない時期を)見られはしなかった｣､この下線部が｢自覚できなかった｣と換言できるはずだ。
あとは、｢字数｣に応じて的確にまとめていきたい。たとえば、｢少年らしさを失っていく変化を自覚できなかったこと｡｣といった｢答え｣だ。

｢文脈｣から読み取ったことを､｢条件｣に反映させて説明していくことが肝要だ。

＜時間配分目安：２分半＞

肩ひじ張らない現代文明批評ともいうべき好エッセイの全文――スマホという便利な｢文明の利器｣に頼るばかりで自分の頭で考えず､人々が想像力や思考の機会を失いつつある昨今の状況に、｢ぼんやりと物思う｣ことの大切さを説き､｢考えてこその人間である｣と警鐘を鳴らしている。

作家ならではで、さまざまなエピソードが縦横無尽に展開しているので、｢文脈｣の読み取りには注意したい。そして、多種多様な設問に臨機応変に対応していく必要がある。
以下、少し検討してみる。

[問二]　｢内容説明記述｣(｢20字以内｣指定)。

傍線部(１)｢かく言う私は窓側派である｣について、｢筆者にとって窓側の席での楽しみはどんなことか｣を説明する。

｢同一場面｣の直前直後から｢状況｣を確認する｡航空機の｢座席指定｣の際の選択のことで、筆者は｢窓際｣を選択するということだと分かる。では、どんな｢楽しみ｣があるのか？　
直後に｢機内から下界を俯瞰し、あるいは雲の形や風の行方をながめながらぼんやりと物思う。至福の時間である｣とある。｢至福の時間｣､まさにこの上ない｢楽しみ｣だと判断できる。

後は｢過不足なく｣まとめればいい。たとえば、｢下界や雲をながめてぼんやりと物思うこと。｣といった｢答え｣になる。

本校では短い｢説明記述｣が多い。短いから容易？否、全く逆だ。長ければ説明すべき要素を容易く盛り込むことが可能だが、短いと的確に取捨選択して｢必須要素｣だけで説明しなくてはならないのだ。
十分に練習を重ねておくことが欠かせない。

＜時間配分目安：１分以内＞

[問三]　｢理由説明選択肢｣(５択)。

傍線部(２)｢小説の構想を練るなどとんでもない。それはむしろ、想像に対する侮辱である｣について、｢それはなぜか｣を答える。

｢理由説明｣でも｢原意消去｣として､各選択肢の｢文末｣＝｢直接的理由｣⇒｢だから｣⇒｢傍線部末｣と結びつくかで｢消去｣したいのだが、ここでは全て｢侮辱である｣と結びつくので不可能だと分かる。
そこで、｢文脈｣から読み解いていくことになる。直前で｢このごろいくらか大きくなった気がする窓に顔を寄せて、私はぼんやりと物思う。あくまでぼんやりと｣と述べている。｢ぼんやりと物思う｣｢あくまでぼんやりと｣と強調していることから、ここが｢想像に対する侮辱｣に結びついていると判断できる。
各選択肢の｢文末｣を確認したい。
(ア)｢(想像は)神聖でおごそかに行われるべきものだから｣､
(イ)｢(想像から小説のヒントを得るなど)仕事の流儀に反するから｣､
(ウ)｢(想像の良さは)とりとめなく行うところにあるから｣､
(エ)｢(現実を考えると)想像の世界が台無しになるから｣､
(オ)｢(想像を愛する人は)小説というものを軽視しがちだから｣｡

｢ぼんやり｣と直結しているのだから、(ウ)以外は｢消去｣できるはずだ。
他の部分の説明も特に誤ってはいない。したがって、｢答え｣は(ウ)だ。

本問では｢原意消去｣ができなかったが、｢理由説明｣であっても先ずは｢直接的理由｣での｢消去｣を試みること。

＜時間配分目安：１分半＞

[問六]　｢換言表現抜き出し｣(｢30字｣の｢始めと終わりの５字｣指定)。

傍線部(５)｢考える間もなく一斉に、ロボットの知識を頼る｣について､｢これと同じ内容の表現｣を｢三十字｣で探し､｢始めと終わりの五字｣を抜き出して答える。

先ずは｢抜き出し内容｣の特定だ。｢傍線部(空所部)一文一部の原則｣で直前を確認すると｢しかし、このごろではどうなるかというと｣となっている。｢しかし｣という｢逆接の接続詞｣があるのでその前と直結だ。
｢状況｣をそこから読み取ると、｢かつては数時間も議論を戦わせても結論が出ないことがあって、その時間は想像に満ちた楽しいものだった｣が、｢このごろ｣では｢考える間もなく一斉に、ロボット(＝ここでは｢スマホ｣)の知識を頼る｣という｢状況｣が分かる。さらに、傍線部直後では｢つまり、考える前に調べてしまう｣とも述べている。

こうしたことから、｢抜き出し内容｣は｢議論を戦わせたり考えたりする前に答えを調べてしまう｣ことだと分かる。
｢抜き出し範囲｣は無論、｢同一場面｣だ。丁寧に探していくと、４段落前に｢正しくは、考えたり議論をしたりする間もなく、だれかが解答を調べてしまうのである｡｣という一文がある。｢内容｣も｢字数｣も合致しているし、｢範囲｣の中では他に｢候補｣もない。したがって、｢答え｣は｢考えたり議～べてしまう｣だ。

尚、｢文脈｣を読み取る上で、｢接続詞｣はとても重要な要素となることを肝銘せよ。

＜時間配分目安：１分半＞

｢漢字の書きとり｣(全10問)。
本年度は昨年度同様に例年並みの難易度｡本校のレベルでは｢基礎的な漢字｣だ。
やや紛らわしいものだけ確認したい。

(１)｢答案用紙をうらがえす｣＝｢裏返(す)｣､
(４)｢さいしんの注意をはらう｣＝｢細心｣、
(５)｢彼は野球でほんりょうを発揮した｣＝｢本領｣､
(７)｢患者の容体はしょうこう状態だ｣＝｢小康｣⇒本年度の最難問､
(10)｢受付できちょうをしてください｣＝｢記帳｣｡

全問クリアできたか？　
あやしいものがあった諸君は、本校志望者として自覚し復習せよ。

＜時間配分目安：全問で３分以内＞