公立小学校で音楽の臨時講師として働く森島巧(23歳)が、学校で起こる予想外のトラブルを手探りで解決していく中で、「真実」を見つけていくという青春ミステリー。
本文では、森島が気になっている６年生の鈴木捷(難解なピアノ曲が弾けるのに「音痴？」)との関係が描かれている場面。
難しい「語彙」が多く読みにくい。だが、問題自体は比較的平易なものが多い。
「知識問題」も渋幕にしては扱いやすい(唯一「問１」の(ａ)「メイシ」(＝「名士」)は悩むか)。だが、後半にいくつか「難問」が待ち受けているので、考えてみたい。

【問六】文中の語句についての選択肢
傍線部④の「女史」について、「文中でこの語句が用いられている意味」を答える(４択)。
何が問われているのかを正確に読み取る必要がある。「女史」という「語句の意味」ではない。「用いられている意味」、つまり、この「語句」を用いることで何を「表現」しようとしているのかということだ。ここを読み違えると最初からアウトなので要注意。
「設問」には「国語辞典の意味」として「社会的地位や名誉のある人」とわざわざ記され、「文中でこの語句が用いられているのはこの一文だけであることを踏まえて」という「条件」がついている。先ずは、「原意」から考える(「原意絶対優位の原則」＝「設問」「傍線部」等の「原意」、要は「本来の意味」を最優先に考えること)。「選択肢設問」は「消去法」が原則なので、「社会的地位や名誉のある人」という「原意」で消去する。(イ)「驚き」と(ウ)「軽蔑」はすぐに消去できなくてはいけない。残りは(ア)と(エ)。
次は、「傍線部一文一部の法則」(傍線部が一文の一部分の場合、傍線部以外が重要ということ)を使う。直後に「女史が放った唯一の冗談としていまだに語り草になっている」とある。従って、「答え」は当然「(エ)」になる。こうした「設問」では、「設問文」の全ての「要素」から考えることが重要。難易度：Ｂ(「標準」。以下同じ)。
＜時間配分目安： 2分弱＞
 
【問八】指示語換言の説明記述
傍線部⑥の「こんな侮辱」とは「どういうこと」なのかを説明する(50字程度指定)。
「条件」は「具体的に」。「指示語」なので無論「直前」から確認していく。「白瀬先生」が受けた「こんな侮辱」は「鈴木捷の歌」だとすぐに分かる。どのような「歌」だったのか？　「文句のない歌い出し」が「突然音程が狂い」、再び歌うと「こんどは、はじめから音程が狂っていた」、「チャイムが鳴っても、まだ抑揚のない歌が続いた」とある。要は、「わざと音程を外すという反抗的な態度」＝「侮辱」ということだ。
それだけか？　この「場面」にはまだ前がある(「小説」は「直前直後に根拠あり」)。確認する。「白瀬先生」が「捷に反論されて、ますます声がうわずった」とある。「捷の反論」はその直前、「野口悠太」を「不真面目だ」と叱った「白瀬先生」に対してのものだ。従って、「反論」された上に「反抗的な態度」を取られたということが、「こんな侮辱」の「具体的な内容」となる。あとは、字数に合わせてまとめればいい。
「指示語」が指し示す「内容」はひとつとは限らないので注意せよ。また、「設問条件」通りにまとめることが「減点」を防ぐ上で重要だと心得よ。難易度：Ｃ(「難解」。以下同じ)。
  ＜時間配分目安： 4分弱＞
 
【問九】様子説明の選択肢
傍線部⑦の「不敵な笑みが浮いた」について、「このときの長浜先生の様子を説明したもの」を答える(４択)。
先ずは、「原意消去」(「原意絶対優位の原則」)。「笑みが浮いた」のだから、(ウ)「噂話を広めようとしている」と(エ)「期待している」は直接的には結びつかない。残りは(ア)と(イ)だ。
次に、「傍線部一文一部の法則」で考える。「笑みが浮いた」ことの「きっかけ」(「小説」では「動作」「セリフ」の「きっかけ」が重要)は何か？　それは、「白瀬先生が受けた侮辱」の「一件」についての「鈴木の勇気は表彰ものだ」という「長浜」の「セリフ」だ。ということは、(イ)の「自分は無関係」は不適切だと分かるはずだ。
さて、気づいただろうか？　今の解き方では、「不敵」という言葉は無関係だったのだ。「不敵な笑み」って何？と悩むことはなかった。
このように、「解法」を用いると「知らなくても解ける」ということは覚えておきたい。難易度：Ｂ。
＜時間配分目安：2分弱＞

筆者は、「児童文学」は「子どもの目」によって大人が確実に見落としている「たましい」の現象をとらえ、誰もが直面する人生の問題が思いがけない形で映し出しているので、存在意義は非常に高いと論じている。
文章自体は例年の「論説文」と比べて読みやすい。しかし、「論説文」の「構成」に則して考えないと解けない「難問」が多い。
さらに、「知識問題」にも渋幕らしい難解さがある。以下、いくつか検証してみたい。

【問二】語句の意味についての選択肢
渋幕はここまでの「語彙力」を求めているのかという問題。
(ⅰ)「けげん」(＝「不思議に思うさま」)、(ⅱ)「あこぎ」(＝「強欲なさま」)も難しいが、(ⅲ)の「さらに」は「超難問」だ。
何も考えなければ、こんな言葉は誰でも知っている。「答え」は(イ)の「重ねて」になる。だが、文中なので「文脈」を確認しなくてはいけない。つながらない。実は、「さらに」の「意味」には、「下に打ち消し」がくると「決して～ない」というものもあるのだ。
「文脈」は絶対に無視しないこと。難易度：Ｃ。
＜時間配分目安： 1分程度＞
 
【問四】 換言の説明記述
傍線部②の「うちに宗教がない」とは「どういうこと」なのかを説明する(25字程度指定)。
無論、ここでの「宗教」の「意味内容」を説明することになる。先ずは、「傍線部一文一部の法則」で考える。傍線部は、「何が不足で暴れるのか」と尋ねられた「子ども」の「答え」だ。同段落には、「宗教」の「意味内容」は述べられていない。
次に、「段落の相互関係」を確認する(「論説文」の「本論部分」での「基本的解法」のひとつ)。この「問答」について論じている範囲は、同段落から次の次の段落までだ。最後の段落が通常「まとめ」になっているので(これも基本的な「解法」)、そこをチェックする。すると、「絶対的に不足しているもの」を指して「子ども」は「宗教がない」と言ったとある。それは何か？　直後に「人間存在にとって」「最も根源的なことを不問にして」と述べられている。つまり、「不足しているもの」＝「不問にして」ということだ。あとは、「条件」である「ということ」につながるように字数に応じてまとめること。
渋幕では「解法」を的確に応用しないと解けない問題が多い。難易度：Ｃ。
＜時間配分目安： 4分程度＞
 
【問六】主語を答える記述
傍線部④の「満足である」の「主語」を「一語」で答える(字数指定なし)。
「文法」だ。その意味では「知識問題」だが、傍線部の一文にはこの「主語」は記されていない。従って、「読解問題」でもある。
この「一文」全体の「主語」「述語」は、「親となっている人たちは」「思っている」だ。どのように？　「満足である」と「思っている」のだ。誰が「満足」なのか？　前後から「子ども」だと判断できるはずだ。「主語」「一語」が「条件」なので、「子どもは」と答えること。
渋幕ではこういった問題もあるということを心得ておくこと。また、「細部」にも注意しなくてはいけない。難易度：Ｂ。
＜時間配分目安： 4分程度＞