このうえなく分かりやすい言葉で｢論語｣のエッセンスが読める――｢次郎物語｣で名高い作家にして教育思想家でもあった作者が、人生をかけて読んだ｢論語｣を、そこに残された言葉をもとに、ひとつの物語として書き紡(つむ)いでいる。本文では、｢孔子｣の弟子の｢冉求(ぜんきゅう)｣が、真実の道を掴(つか)む素質が自分にはないと嘆くと、｢孔子｣が｢求道(くどう)心｣が足りないと叱(しか)る様子が描かれている。古代中国が舞台なので難解な語句があるが、｢※注｣を使って内容を理解したい。本校の特徴である｢長く紛らわしい選択肢説明｣が連なるとともに、｢感想判別｣といった｢大学入学共通テスト｣を意識した新傾向の出題が待ち構えている。覚悟せよ。以下、いくつかを検討してみる。尚、本文には５行ごとに行の番号が付されている。

[問一]　｢漢字の読み書き｣(全４問/｢書きとり｣３問･｢読み｣１問)

二重傍線部①～④の｢カタカナ｣を｢漢字｣に、｢漢字｣を｢ひらがな｣に直す。昨年度と比べ難易度が上がっているが、本校志望者であれば失点は避けたい。確認する｡

①  ｢造作なく｣＝｢ぞうさ｣⇒｢読み｣の定番⇒｢造作ない｣＝｢大した手間も面倒もなく、たやすいさま｣を意味することも押さえておくこと｡

②  ｢ナマイキに見える｣＝｢生意気｣⇒知っていて当然。

③  ｢ツウセツなところがない｣＝｢痛切｣⇒やや悩むか？＝｢身にしみて強く感じること｣だ。

④  ｢ホガらかな顔｣＝｢朗(らか)｣⇒まさかとは思うが、｢朗｣と混同しないこと｡尚、｢一画ずつていねいに書くこと｣と問題文に記されているので、｢トメ･ハネ･ハライ｣などに十二分に配慮すること。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜時間配分目安：全問で１分強＞

[問二]　｢心情説明不適切選択肢｣(５択)

傍線部(１)｢とにかく今のままでは面白くない｣について、｢冉求が抱いている感情｣として｢ふさわしくないもの｣を答える。｢選択肢設問｣は｢消去法｣が原則｡先ずは｢原意消去｣をしたい(｢原意絶対優位の原則｣＝｢設問｣｢傍線部｣等の｢原意｣、要は｢本来の意味｣を最優先に考えること)｡本問は｢心情説明｣。｢面白くない｣の｢原意｣と結びつかない｢消去｣すべき｢心情｣が｢答え｣になる。各選択肢の｢文末｣と照合する(｢選択肢｣の説明で最も重要な要素は｢文末｣に記されている)。(ア)｢心配｣､(イ)｢不安｣、(ウ)｢疑念｣、(エ)｢焦り｣、(オ)｢不信感｣｡どうだろうか？　｢面白くない｣＝完全に｢マイナスの心情｣なのだから、 ｢焦り｣が｢消去｣だと判別できなくてはいけない。したがって、｢答え｣は(エ)だ。なんと素晴らしい。見事な｢一発消去｣！ ｢原意消去｣は必ず習得して、応用できるようにしておくことが必須。特に、本校のような｢長い選択肢説明｣で全てを照合していたら混乱するばかりなので、なおさらだ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜時間配分目安：１分強＞　

[問５]　｢換言説明選択肢｣(５択)

傍線部(４)の｢一種の膚(はだ)寒さを感ずる｣とは｢どういうことか｣を答える。無論、先ずは｢原意消去｣から｡本問は｢換言説明｣。｢膚寒さを感ずる｣の｢原意｣と結びつかない｢説明｣を｢消去｣する。各選択肢の｢文末｣と照合したい。

(ア)｢愕然(がくぜん)とするということ｣

(イ)｢ぞっとするということ｣

(ウ)｢恐れおののくということ｣

(エ)｢動揺するということ｣

(オ)｢背筋が凍る思いをするということ｣

｢膚(肌)寒さを感ずる｣＝｢①肌に寒さを感じるさま②恐ろしさなどにぞっとするさま｣だということは知っていて当然で、選択肢説明に①はないので、｢ぞっとする｣と｢恐れおののく｣以外は｢消去｣できるはず。これで｢２択｣になった。次に、｢傍線部一文一部の法則｣で｢手がかり｣を探したい(｢傍線部が一文の一部分だった場合、傍線部以外が重要｣という読解の基本となる解法)。直前は｢そして自分は、と彼は自ら省みて｣となっている。であれば、｢他者からの良い評価を全く受けてこなかった事実に思い至り｣と説明されている(イ)は｢消去｣で、｢自分の行いは孔子の説く道から程遠いように感じられ｣とある(ウ)が残ると分かる。｢同一場面｣で他の部分の説明を確認してみる(｢小説｣では｢同一場面の直前直後｣に｢手がかり･ヒント｣がある)。特に誤ってはいないと判断できる。したがって、｢答え｣は(ウ)になる。本問は｢２段階消去｣だったが、最初に｢原意消去｣を試みることは忘れてはいけない。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜時間配分目安：２分半＞　

[問六]　｢換言内容説明記述｣(｢61～70字以内｣指定)

傍線部(５)の｢冉求の鼬(いたち)は、その声を聞くと急に頭をひっこめた｣とは｢どういうことか｣を｢六十一字以上七十字以内｣で説明する。もちろん｢鼬｣は比喩なので、先ずは何を意味するかを捉(とら)えたい。｢同一場面｣である76行目に｢自分(＝冉求)の腹の底に、卑怯(ひきょう)なこざかしい鼬のような動物が巣喰(すく)っていて｣とあり、直前では｢小策を弄(ろう)したり、言いわけをしたり｣｢負け惜しみずるさから出る表面だけの謙遜(けんそん)｣とも述べられている。そういったことを｢冉求の鼬｣と表現していると分かる。次に、｢その声｣という｢指示語｣があるので開きたい(｢指示語｣が出たら即開くこと)。傍線部の直前から、｢その声｣＝｢孔子の冉求に対する『苦しいかね』という同情するような声｣だと分かる。｢換言内容説明｣なので、あとはこうした内容を指定字数に応じて的確にまとめていけばいい。たとえば、｢冉求の小策を弄したり言いわけをしたりする卑怯なこざかしさが、孔子の『苦しいかね』という同情するような声を聞いたとたんにおさまったということ｡｣(70字)といった｢答え｣だ。指定された｢字数｣に応じて、述べるべき要素を取捨選択することが肝要だ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜時間配分目安：３分強＞

※尚、[問九]は｢大学入学共通テスト｣を意識した｢感想判別不適切選択肢設問｣(５択)となっている。あくまでも｢感想｣なので、それぞれの｢主観的要素｣で｢正誤判別｣はできない。よって、客観的な｢事実関係｣の｢正誤｣のみに絞って｢判別｣することが肝要だと記銘せよ。ただ、それぞれの｢選択肢説明｣が｢120字超｣、合わせて｢700字程度｣との照合が必要となる。とても手間ひまがかかることになる。配点も他の小問のほぼ同じなので、戦術的には｢あとまわし｣にすべきだ。無論、最終的に｢捨て問｣となってしまっても構わない。

いま、あなたとの会話で起きたことは、いったい何だろう？ マンスプレイニング、コミュニケーション的暴力、会話の引き出し、言語的なポリティクス、アイデンティティと一人称、人々をつなげる言葉、誠実な謝罪と不誠実な謝罪――難しくて切実で面白い｢言葉とコミュニケーション｣を、｢哲学｣と｢私｣のあいだのリアルな言葉で綴(つづ)っているエッセイ。本文では、言語行為の調整という観点から、｢マンスプレイニング｣(女性の側が説明を求めているわけでもないのに男性が上から目線で説明する振る舞い)について具体例とともに述べている。いくつか難解な語句があるが、｢※注｣を活用して内容を理解したい。｢長い説明文｣の｢選択肢設問｣や｢本文内容合致｣、｢説明記述｣、そして、新たな｢大学入試制度｣を意識した出題といった、近年の｢渋渋｣の典型的な大問だ。難易度は｢標準レベル｣なので、着実に解き進めていきたい。以下、いくつの｢小問｣を考えてみる。

[問一]　｢漢字の書きとり｣(全４問)

二重傍線部①～④の｢カタカナ｣を｢漢字｣に直す。【大問一】と比べると難易度はやや低い。｢全問正解｣が必須だ。確認しよう｡

①  ｢センモン的に言うと｣＝｢専門｣⇒｢専｣の右上に｢点｣を打たないこと｡また｢問｣ではないので要注意｡

②  ｢ジュウライの言語哲学｣＝｢従来｣⇒これは問題ないはず。

③  ｢ヨウリョウを得ない｣＝｢要領｣⇒｢文脈｣を掴(つか)むこと⇒｢要領を得ない｣＝｢要点がはっきりしない｡筋道が立たない｣で定着させておきたい。

④  ｢マドから見える｣＝｢窓｣⇒画数は｢11画｣、丁寧に記すこと。本校で求められる｢語彙力｣の一端を表している。｢己の漢字力｣の目安にすること。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜時間配分目安：全問で１分強＞

[問二]　｢メモの空所補充表現選択肢｣(５択)

傍線部(１)｢『締め切りを延ばしてください』と依頼する｣について、｢この部分について書かれたメモ｣の空所　　１　　に｢入る表現｣を答える。尚、この空所は本文の　　１　　と対応している。｢メモ｣の空所部分は傍線部の３行後から始まる次の一文と対応していることが分かるはずだ。その内容を確認すると、｢私｣が本心では｢締め切りを延ばしてほしくない｣のに｢締め切りを延ばしてください｣と頼んだら｢何らかの不誠実を働いていることになる｣となっている。つまり、本心で｢締め切りを延ばしてほしい｣と思っていることになる。したがって、選択肢(ウ)の｢『私』は編集者に締め切りを延ばすように計らってほしいと思っている｣が｢答え｣だ。尚、｢本文内容｣と、それについての｢説明文｣｢会話文｣｢メモ｣などを照合させる設問は｢大学入学共通テスト｣の定番で、本校も含めて｢中学入試｣でも近年頻出されている。十分に練習しておくこと。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜時間配分目安：２分半＞

[問三]　｢理由説明選択肢｣(５択)

傍線部(２)｢奇妙にも思える｣について、｢筆者がそのように考えるのはなぜか｣を答える。先ずは｢原意消去｣を試みる。ここは｢理由説明｣なので、｢奇妙にも思える｣の｢直接的理由｣として結びつかないものを｢消去｣する。各選択肢の｢文末｣⇒｢だから｣⇒｢奇妙にも思える｣と結びつくかどうかだ。確認すると、全ての｢文末｣が｢このような張り紙が多くの場面で見られるから｡｣となっている。これでは｢消去｣は不可能だ。そこで、｢傍線部一文一部の法則｣に｢手がかり｣を求めたい。直前に｢しかし、それならそうした張り紙がこれだけあちこちに見られるのは(奇妙にも思える)｣とある｡｢しかし、それなら｣ということは、｢それ｣が逆説的に｢間接的理由｣になっていることになる。｢指示語｣を開く。直前から、｢それ｣＝｢張り紙のような言語行為はコミュニケーションのあり方に反すること｣だと読み取れる。ここで、各選択肢の｢文末｣直前と照合したい。

(ア)｢コミュニケーションとしては矛盾したものであるにもかかわらず｣

(イ)｢コミュニケーションとしては礼儀を欠いたものであるにもかかわらず｣

(ウ)｢コミュニケーションとしては身勝手なものであるにもかかわらず｣

(エ)｢コミュニケーションとしては成立していないにもかかわらず｣

(オ)｢コミュニケーションとしては不完全であるにもかかわらず｣

どうだろうか？ ｢コミュニケーションのあり方に反する｣のだから、｢コミュニケーションとしては成立していない｣以外はそのまま｢消去｣できなくてはいけない。念のために、他の部分の説明を｢同一意味段落｣で確認する(｢論説文｣｢説明文｣、本文のような論説文型の｢随筆｣では｢同一意味段落｣に｢根拠･手がかり｣がある)。特に誤っていないと分かる。したがって、｢答え｣は(エ)になる。尚、本校では各選択肢説明が全て同じという場合が結構あるので注意したい。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜時間配分目安：３分強＞

[問六]　｢条件付き内容説明記述｣(｢61～70字以内｣指定)

傍線部(５)｢言語行為の調整(アコモデーション)という観点を取るとき、マンスプレイニングの害もよりわかりやすくなるだろう｣について、｢マンスプレイニングの害｣とは｢どのようなものか｣を｢六十一字以上七十字以内｣で説明する。｢条件｣は｢『調整(アコモデーション)』のはたらきを踏まえて説明する｣こと。｢マンスプレイニングの害｣については傍線部直後で説明されているとすぐに分かるはずだ。｢マンスプレイニングが向けられる人物が実際に無知かどうかに関係なく、その人物が無知な存在であると想定するように会話参加者たちに促すことに効力を発揮する｣ことだと述べられている。また、その後では｢『調整(アコモデーション)』のはたらき｣に関して述べられている。｢聞き手が無知だからマンスプレイニングがなされるのではなく、マンスプレイニングがなされることで聞き手が『無知な者』の位置に押し込められる｣という｢はたらき｣だ。こうした内容を｢指定字数｣に合わせて｢過不足なく｣まとめていきたい。たとえば、｢本当に無知かどうかに関係なく、相手をあらかじめ無知な存在として扱うことで無知な存在にあてはめ、周囲にも同じ認識を強制してしまうというもの｡｣(69字)といった｢答え｣だ。｢同一意味段落｣をいかに正確に読み解くことができるかがポイントとなる。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜時間配分目安：３分半＞