周囲の期待を一身に背負い猛勉強の末、神学校に合格した｢ハンス｣だが、厳しい学校生活になじめず、学業からも落ちこぼれ、故郷で機械工として新たな人生を始める――｢運命の車輪｣の下で悶(もだ)え苦しむ地方出身の一人の優等生が、思春期の孤独と苦しみの果てに破滅へと至る姿を描いたノーベル賞作家･ヘッセの自伝的物語。

本文では、寄宿生活を送る｢ハンス｣と同室の｢ハイルナー｣が､のヴァイオリンを練習している｢ルツィウス｣に乱暴を働き、謹慎処分になる様子が描かれている。外国小説の翻訳ものなので、｢状況｣が分かりづらい部分があるが、内容は理解できるはずだ。本校の特色である｢長い選択肢説明｣の小問が並んでいる。

以下、いくつかを検討してみる。

[問一]　｢漢字の読み書き｣(全５問｡｢読み｣は１問のみ)。二重傍線部①～⑤の｢カタカナを漢字｣に､｢漢字をひらがな｣に直す。

昨年度よりは平易だ。本校志望者は｢全問正解｣でいきたい。
やや注意すべきものとしては、①｢ハイルナーはリップクして立ち去り｣＝｢立腹｣⇒｢文脈｣から意味合いを読み取ること｡③｢スピーチと二つのロウドク｣＝｢朗読｣⇒｢郎｣ではないので要注意｡⑤｢黒っぽいムれとなった生徒たち｣＝｢群(れ)｣⇒｢郡｣と混同しないこと｡尚、｢一画ずつていねいに書くこと｣と問題文に記されているので、｢トメ｣｢ハネ｣など､十二分に配慮すること。

＜時間配分目安：５問で１分半＞

[問二]　｢内容説明選択肢｣(５択)。

傍線部(１)｢ルツィウスは感じ入ったようなしたり顔で聞いていた｣について、｢この場面の説明｣を答える。

｢選択肢設問｣は｢消去法｣が原則｡先ずは｢原意消去｣をしたい(｢原意絶対優位の原則｣＝｢設問｣｢傍線部｣等の｢原意｣、要は｢本来の意味｣を最優先に考えること)｡

特に、本校のように｢選択肢説明｣が長い場合は、なおさらだ(本問は各選択肢が110字ほど)｡各選択肢の｢文末｣(｢選択肢｣の説明で最も重要な要素は｢文末｣に記されている)が、｢したり顔｣に結びつかないものを｢消去｣する。

照合する。(ア)｢喜びに満ちた顔｣､(イ)｢嬉々とした様子｣、(ウ)｢大人びた様子｣、(エ)｢得意げな顔｣、(オ)｢自慢げな様子｣｡｢したり顔｣＝｢うまくやったといわんばかりの得意そうな顔つき。自慢げな顔つき｣ということは当然、知っているはずなので、(エ)(オ)以外は｢消去｣できる……､ちょっと待て！　｢顔つき｣だから、｢自慢げな様子｣も｢消去｣でいいはずだ。(エ)の｢文末｣直前は｢感心したような｣で、傍線部の｢感じ入ったような｣とも合致している。また、他の部分の説明も特に誤ってはいない。

したがって、(エ)が｢答え｣だ。何と｢一発消去｣！　畏るべし｢原意消去｣！　十分に活用すること。｢長い選択肢説明｣を全て照合していたら、混乱するばかりだ。

＜時間配分目安：１分半＞

[問三]　｢理由説明選択肢｣(５択)。

傍線部(２)｢いま彼の見方をするには勇気が必要だった｣について、｢それはなぜか｣を答える。

先ずは｢原意消去｣だが、ここは｢理由説明｣なので、各選択肢の｢文末｣が、｢勇気が必要だった｣ことの｢直接的理由｣として結びつかないものを｢消去｣することになる。

確認する。(ア)｢強い気持ちが求められるから｣→｢勇気が必要だった｣､(イ)｢覚悟が求められるから｣→｢勇気が必要だった｣、(ウ)｢心構えが求められるから｣→｢勇気が必要だった｣、(エ)｢信念が求められるから｣→｢勇気が必要だった｣、(オ)｢理由が求められるから｣→｢勇気が必要だった｣｡

さて、どうだろうか？　｢勇気が必要だった｣ことの｢直接的理由｣であれば、これらの中では｢覚悟が求められるから｣以外は｢消去｣できるはずだ。他の部分の説明も特に誤ってはいないので、(イ)が｢答え｣となる。ここでも｢一発消去｣だ。｢原意消去｣を徹底的に練習し、応用できるようにすることで、正答へショートカットせよ｡

＜時間配分目安：１分強＞

[問四]　｢条件付き換言説明記述｣(｢71～80字以内｣指定)。

傍線部(３)｢それはけっしてロマンチックな役割や危険な役割ではなかった｣について、｢それはどういうことか｣を説明する。

｢条件｣は｢『ロマンチックな役割』･『危険な役割』の内容を明らかにする｣こと。｢主語｣が｢指示語｣なので、先ずは開く(｢指示語｣が出たら即開くこと)｡｢それ｣＝｢彼(＝ハンス)の理想は前進し、有名な試験に受かって重要な役割を果たすこと｣だと分かる。

では、｢ロマンチックな役割｣･｢危険な役割｣とは何か？　｢ロマンチックな｣＝｢現実離れしていて、甘くうっとりするような様子｣と｢※注｣に説明されている。それも踏まえて、｢同一場面｣から｢状況｣を読み解いていく(｢小説｣では｢同一場面の直前直後｣に｢手がかり･ヒント｣がある)｡

直前から、｢重い謹慎処分を受けた友人のハイルナーと付き合うのは、危険でもあり評判を落とすことにもなる｣ということが分かる。また、傍線部の段落の前半では、｢ハイルナーを探しに行きたい気持があり、彼のそばに行ってあげるのが義務だと感じたが、それは現実離れしていて甘い考えなのでそうはしなかった｣ことが読み取れる。

つまり、前者が｢危険な役割｣で、後者が｢ロマンチックな役割｣というわけだ。あとは､｢指定字数｣に応じて｢過不足なく｣まとめていきたい。たとえば、｢ハンスの理想は試験に合格し重要な役割を果たすことで､謹慎処分の友人のそばに行ってあげるという甘い役割や学校での評判を落とす危険のある役割ではなかったということ｡｣といった｢答え｣となる。

｢条件｣を｢ヒント｣と捉え、｢解法｣に則して｢状況｣を読み解くことが肝要。

＜時間配分目安：３分＞

[問七]　 ｢表現の空所補充組み合わせ選択肢｣(５択)｡

本文中の空所       １        ･         ２      に｢入る表現｣の｢組み合わせ｣を答える。

先ずは、｢傍線部一文一部の法則｣(｢傍線部(空所部)が一文の一部分だった場合、傍線部(空所部)以外が重要｣という｢重要解法｣)で前後を確認する｡

｢しかしふと心に浮かんできた      １      は、すぐにまた      ２      で消えてしまった。｣となっている。｢しかし｣という｢逆接｣の｢接続詞｣があるので、直前を確認する。｢次の駅で乗り換えるとき、ハンスはもう一度彼(＝ハイルナー)を見かけた｣とある。

ここで、各選択肢をチェックする。(ア)＝(１)｢恥ずかしさや後悔の念｣･(２)｢帰郷の旅の興奮と喜び｣､(イ)＝(１)｢学問を前進させるという理想｣･(２)｢自分を待つ家族の笑顔｣､(ウ)＝(１)｢友を救えなかった悔しさ｣･(２)｢愉快なパーティーの思い出｣､(エ)＝(１)｢自分を待つ人と会える嬉しさ｣･(２)｢親友を裏切った申し訳なさ｣､(オ)＝(１)｢輝かしい未来予想図｣･(２)｢友人の寂しげな表情｣｡

どうだろうか？　｢ハイルナーを見かけた｣ことがきっかけで｢心に浮かんできた       １       ｣が、｢駅で乗り換えるとき｣に｢         2        で消えてしまった｣という｢文脈｣なので、前者は｢ハイルナー｣＝｢友人｣､後者は｢駅での乗り換え｣に関連しているはずだと判断できる。

したがって、       １      ＝｢恥ずかしさや後悔の念｣､       ２        ＝｢帰郷の旅の興奮と喜び｣となっている(ア)が｢答え｣だと分かる。尚、｢組み合わせ選択肢｣では、分かりやすい部分に着目して、一気に絞り込むことがポイントだ。

＜時間配分目安：１分半＞

※[問八]に｢本文内容合致不適切選択肢設問｣がある。｢論説文｣の｢本文合致｣は｢論旨合致｣なので、｢序論部分｣と｢結論部分｣とで照合すればよいが(｢論旨｣は｢序論部分｣か｢結論部分｣、あるいは、両方で説明されている)､｢小説｣の場合は｢本文全体｣と照合する必要があり､とても時間がかかるので(本小問それぞれの｢選択肢説明｣は180字ほどもあり、しかも、配点は他の設問と変わらない)、｢戦術｣としては｢後回し｣にするべきだ(｢捨て問｣でも構わない)｡

誰もが｢自分探し｣を続けているが、自分の存在は、自分にとって最も明らかなはずなのに、なぜ見つけることができないのだろうか――個々人が置かれた状況はさまざまで、万能薬は存在しない中で、その｢答え｣を考察している。

本文では、｢他者｣から認識されているであろう｢自分のイメージ｣と｢本来の自分｣との落差や、｢君らしくない｣という発言への対処法などを説明している。基本的には｢哲学論｣だが、平易な言葉で述べられているので、内容は理解できるはず。本校らしく紛らわしい｢選択肢設問｣が続き、｢具体例選択｣もある。

以下、いくつの｢小問｣を考えてみよう。

[問一]　｢漢字の書きとり｣(全４問)。二重傍線部①～④の｢カタカナを漢字｣に直す。
【大問 一 】と比べ、やや難易度は高い。

｢答え｣を確認する。

①｢ごくオサナいとき｣＝｢幼(い)｣⇒｢幻｣と混同しないこと｡②｢手軽に使えるチョウホウな表現｣＝｢重宝｣⇒｢読み｣でも頻出なので、要注意。③｢キゼツしたり､眠ってしまえば｣＝｢気絶｣⇒｢文脈｣を的確に把握せよ。④｢コウリョクがない｣＝｢効力｣⇒これは問題ないはず。

尚、本校では､｢論説文｣の｢慣用表現｣に慣れ親しんでおくことも求められる。

＜時間配分目安：４問で１分＞

[問三]　｢理由説明記述｣(｢46～55字以内｣指定)。

傍線部(２)｢他者から見た自分像は、自分の能力から大きく離れない位置にしか成り立たない｣について、｢そのように言えるのはなぜか｣を説明する。

先ずは、｢傍線部一文一部の法則｣で｢手がかり｣を確認する。直前に｢このように｣､直後には｢ことがわかる｣とある。ということは、｢このように｣の内容が傍線部の｢理由｣だと分かるはずだ。

無論、開いていくのだが、ここで注意したいのは｢このように｣が段落冒頭にあるということだ。｢段落頭の指示語は前段落全ての内容を指し示す｣ので(｢指示語｣の｢重要解法｣のひとつ)､直前だけではなく前段落全てをまとめることになる。｢傍線部の理由｣として前段落を読み解いていく。

｢他者に自分はこう思われたいという自分を装うにしても、単なる嘘ではなく、何か証拠を見せなければ認めてもらえず、それが能力的に不可能であれば実行できないから｣といった内容が読み取れる。あとは､｢指定字数｣に合わせ簡潔にまとめていくことになる。たとえば、｢他者に思われたい自分を装うにしても、嘘ではない証拠を見せなければならず能力的に不可能であれば実行できないから｡｣といった｢答え｣だ。

｢理由説明記述｣では、｢直接的理由｣を必ず｢文末｣とすることを忘れてはいけない。

＜時間配分目安：２分半＞

[問五]　｢具体例の選択肢｣(５択)。

傍線部(４)｢大多数の人が悩むテーマ｣について、｢その『悩み』の具体例｣を答える。それぞれ｢100字ほど｣もある長い｢選択肢説明｣だ。

｢文末｣での｢原意消去｣といきたいところだが、｢具体例｣を判別するのに傍線部だけでは｢内容｣が全く不明で､残念ながらここでは不可能だ。となれば当然、先ずは｢傍線部一文一部の法則｣だ。

直前に｢他者に見られたい『自分』と本来の『自分』のギャップは｣とある。これで解決だ。｢悩み｣の正体は､｢他者に見られたい自分｣と｢本来の自分｣の｢ギャップ｣だ。

だが、ここで受験生の方に｢悩み｣が生じてしまったのではないか？　｢ギャップ｣って何だ？　ということだ。｢※注｣もなく､この言葉を知っていることが前提となっている(本校が求める｢知識レベル｣の高さの一端がわかる)｡本校志望者としてはやはり、知っておきたい言葉だ。｢ギャップ｣＝｢大きなずれ。食い違い｣だ。

つまり、ここでの｢悩み｣＝｢他者に見られたい自分｣と｢本来の自分｣の｢ずれ｣ということになる。各選択肢を｢消去｣していく｡｢自分自身｣に悩んでいるのだから、｢周囲の人｣や｢親｣､そして、｢生まれた家｣について悩んでいる(ア)(エ)(ウ)は即｢消去｣だ。

また、｢他者に見られたい自分｣に言及していない(オ)も｢消去｣でいいはずだ。よって、｢クラスの中で目立たない自分｣が｢人から注目される存在になるにはどうすればいいのか｣を悩んでいる(イ)が､｢答え｣としてふさわしいことになる。

｢具体例｣の判別では、｢本文｣で説明されている｢一般論｣をいかに的確に捉えられるかが勝負になると心得よ。

＜時間配分目安：１分半＞

[問八]　｢換言説明選択肢｣(５択)。

傍線部(６)｢他者を認識したとき、ある程度の単純化というか、処理が行われる｣について、｢それはどういうことか｣を答える。

典型的な｢換言選択肢｣なので、先ずは｢原意消去｣だ｡傍線部の｢処理が行われる｣と､各選択肢の｢文末｣とが結びつかないものを｢消去｣する。

確認する。(ア)｢強制する｣､(イ)｢判断する｣、(ウ)｢決めつける｣、(エ)｢考える｣、(オ)｢やりとりをする｣｡｢処理｣なのだから無論、(イ)(ウ)以外は｢消去｣でいい｡また、傍線部には｢単純化というか｣ともあるので、２択段階で｢単純化｣で｢原意消去｣してみる。(イ)は｢他者の過去の行動パターンに照らして｣､(ウ)は｢一定のパターンにその人を当てはめて｣となっている。｢単純化｣するということは(ウ)が残ると判別できるはずだ。他の部分の説明も特に誤っていない。

よって、｢答え｣は(ウ)だ。このような｢連続原意消去｣といった手法もマスターしておきたい。

＜時間配分目安：１分半＞