夏は成績を伸ばすチャンス!最後の夏休みの過ごし方
小学生最後の夏休み。中学受験を控えた子供にとっては、成績を大きく伸ばすチャンスです。1ヵ月近い時間を有効に活用するには、どのような勉強をすればいいのでしょうか。また、塾や夏期講習に通う場合はどういった点に注意すべきでしょうか。中学受験のプロフェッショナルである坂田先生と高橋先生にお話しいただきました。
Professional of Leaders’Brain
高橋先生
■プロフィール
東京大学卒
難題の入試問題にどれだけ泥臭く食らいつけるか…最初の攻め方がダメでも、第2・第3の矢を繰り出すしつこさと対応力を鍛えます。
Professional of Leaders’Brain
坂田先生
■プロフィール
千葉大学卒
生徒に「わかったふり」をさせないことに注意を払い、生徒が自分で解きたくなる雰囲気づくりを心掛けた指導をします。
時間がある夏休みだからこそ、「夏休み前」の目標設定が重要
坂田:小学生最後の夏休みは、中学受験にとってひとつの正念場です。普段は週1回ペースで担当しているご家庭でも、毎日来てほしいとご依頼いただくことも多いですね。塾に通われているお子さんでも、塾の学習のサポートとして入る場合もあります。
高橋:夏休みの最大の武器は「時間」ですよね。普段小学校に通う時間を自分のために使えるわけで、追い込みをかけることでグッと伸びる子もいます。ただ、夏に過度の期待をかけるのも禁物。やみくもに勉強するだけでは成果は出ませんから、夏休み前にどの程度まで到達したいのかイメージを共有することも、私たちの仕事です。
坂田:そうですね。塾や夏期講習にさえ通わせておけば、なんとかなる…と構えていると、期待していた成果が出ないまま、夏休みを終えてしまいがちです。夏休み前に模試を通じて、合格判定のシミュレーションを行う塾もありますから、この模試で現在の実力を把握した上で、目標にどう近づけるかを考えていきたいですね。多くの時間を費やせる夏休みだからこそ、事前にアプローチを固めることが大切だと感じます。
高橋:すでに塾に通われているお子さんの場合は、夏は毎日塾の講義があると思います。塾に通うあいだは、その日の疑問をその日のうちに消化することが理想ですね。積み残した分は、テキストをコピーするなどして、目に見えるようにすることをおすすめしています。塾に時間を費やすと「勉強をやった」という気持ちになりがちです。積み残しを可視化することで、実は身に付いていない箇所を認識することが大切です。
坂田:勉強に時間をかけると満足感を覚えてしまうので、時間イコール成果だと勘違いするのは怖いですね。特に、夏休みに毎日塾に通うことは、子供にとっては「非日常」。朝にお弁当を持って家を出て、夜遅くまで勉強して帰ってきますから、「今日は一日がんばった」と考えてしまうのは無理もないことです。過去に私が担当した生徒さんの中には、塾の講義や夏合宿で勉強漬けの毎日を過ごした結果、夏休み終了後に燃え尽きてしまい、ペースを取り戻すまで1ヵ月ほどかかったお子さんもいました。行き過ぎたケースではありますが、これも時間イコール成果と考えた弊害のひとつではないでしょうか。
「わかったふり」をさせず、生徒自身ががんばりたくなる雰囲気を作ることを心掛けています。
夏休みは親子にとって「非日常」。加熱しすぎず見守る意識を
高橋:塾に通っていないご家庭でも「今日はたくさん勉強してがんばったね」と、勉強時間を基準にして褒めてしまいがちですよね。それだけだと、やがて「時間をかけたのに思うように成績が伸びない」という展開が予想されます。お子さんによっては、「こんなにやったのに伸びない」「自分には勉強する能力がない」と自己肯定感を損なうことも考えられます。長時間の勉強を避けるため、親御さんには「午後11時以降、絶対に勉強させないでください」と伝えることもありますね。睡眠不足は学習意欲や自信の低下を招いてしまいますから。
坂田:先ほど、夏休みは子供にとって「非日常」だという話をしましたが、親御さんも例外ではありません。お子さんが家にいる時間も長いですし、普段以上に関係も密になります。塾に通うとなれば、毎日お弁当づくりや送り迎えなどもあるでしょう。受験に入れ込めば入れ込むほど、夏に寄せる期待も高まります。結果として、過干渉になってしまうことも珍しくありません。
解法ではなく勉強法を身に付けることで、問題解決能力を鍛えることを重視しています。
高橋:高校・大学受験に比べ、中学受験は親御さんでも問題の内容を理解しやすいため、「どうしてこれができないの」と考えてしまいがちです。また、お子さんの振る舞いにも、無駄が多いと感じてしまうこともあるかと思います。不安から口を挟みたくなると思いますが、お子さん自身のがんばりを認めて、適度な距離感を保ってもらいたいところです。
坂田:夏休みは周囲でさまざまな情報が飛び交います。中には、親御さん同士の噂話やネットの口コミ情報など、真偽が不明な情報も少なくありません。ご家庭で抱え込まないよう、セカンドオピニオンとして情報を振り分けるのも、私たち教師の役目だと考えています。
高橋:「子供を信じて見守る」「情報に惑わされない」と言葉にするのは簡単ですが、実際にはとても精神力を必要とする行為だと思います。プレッシャーを感じる親御さんもおられますので、私は必ず「お子さんが受かっても落ちても、あなたのせいではありませんよ」と声をかけるようにしています。お子さんは11歳、12歳という年齢で、中学受験という戦いに一生懸命臨んでいるわけですから、親御さんは唯一無二の味方として、小さな背中を応援してもらえたらと思います。
欲張りすぎず、ターゲットを絞り込むことで夏を乗り越える
坂田:夏休みで成績が伸びたお子さんを振り返ってみると、「手を広げすぎない」という共通点があるように思います。夏休みは時間もあり、あれもこれもと欲張ってしまいがちです。ターゲットを広げるのではなく、例えば1冊の問題集を入念にやり込む子のほうが伸びる印象がありますね。
高橋:私も同感です。むしろ、たくさん問題集を買うと、やらずに積んだだけで満足してしまいますよね。問題集を選ぶときのポイントは「難度と薄さ」だと考えています。実力を遥かに超える難度では、解けないことが苦痛に感じますし、厚い問題集では達成感が得にくいもの。2、3問に1問は間違える程度の難度で、最後までやり通せる程度の薄さの問題集を何周もやり込んだほうが、実力も自信も身に付けることができるでしょう。
坂田:志望校が決まっているのであれば、学習単元の取捨選択を始めてもいい時期でしょう。塾や夏期講習は、さまざまな志望校が集まった生徒に向けて授業を行いますので、すべての単元を同じ重みで扱いがちです。過去問を分析するとわかるのですが、志望校によってはほとんど出題のない単元も存在します。ターゲットをしっかりしぼったほうが、お子さんも前向きに取り組めるでしょう。
高橋:志望校の過去問へのチャレンジもおすすめします。すぐには解けなくても「これくらいの山を登らないといけない」というイメージをつかむことが大切です。この問題は解けるだろうと感じたら、一部だけピックアップして出題することもありますね。たとえ一部でも、「志望校の問題が解けた」という事実はお子さんにとって自信につながります。
坂田:志望校をピンポイントで研究できるのは私たちの強みですから、「選択と集中」で限られた時間を有効に使えるようにしたいですね。
高橋:机に向かわない時間も大切にしてほしいですね。「勉強イコール机」という習慣をつけてしまうと、机を離れた瞬間に気持ちが切り替わってしまいます。知的好奇心を持ち続けていれば、普段の生活の中に疑問を見いだしたり、解けなかった問題の道筋をふいに思いついたりするものです。勉強に行き詰まったら、近所を散歩しながら頭の中で問題を反芻するのもいいでしょう。私は、中学受験も大学受験も最終的なゴールではなく、大学で学問を学ぶことこそが将来的なゴールだと考えています。知的好奇心を満たすために、夏休みを通じて、勉強のやり方を確立してもらえたらうれしいですね。